兵庫県尼崎市に暮らす稲田さん夫婦にとって、12月1日は大切な娘・真優子さんの誕生日だった。本来ならばこの師走に27回目の誕生日を迎え、家族が揃ってささやかなお祝いが開かれていたはずだ。

 だが稲田真優子さんは昨年6月11日、自らがオーナーを務めるカラオケパブ「ごまちゃん」(大阪市北区)の店内で、頸部や胸部など10箇所以上も刺されて非業の最期を遂げた。享年25。遺族はぶつけどころのない憤怒の念を抱えたまま、1年半の月日を過ごしてきた。

 稲田さんを殺害した罪に問われたのは、「ごまちゃん」が2021年1月にオープンしてからの半年間で83回も店に通い続けていた常連客の宮本浩志被告(57)。今年の10月20日に、大阪地方裁判所で懲役20年の実刑判決を受けている。


真優子さんのスマートフォンに残っていた、殺害された当日の写真 遺族提供

 真優子さんの父・峰雄さん(71)が話す。

「せめて娘が生きた25年という年月は刑務所に入り、罪を償って欲しかった。何より私たちが許せないのは、宮本被告がいまだに罪を認めず、反省の言葉が聞かれないことです」

「裁判が終わるまで、なんとしてでも生きないといかん」

 稲田家では今秋に峰雄さんに重篤なガンが見つかって入院し、9月16日に始まった公判にも足を運べなかった。裁判の継続中に帰宅は許されたが体調は万全とは言えず、自宅に設置された介護用ベッドの上で判決を聞いた。

 私が稲田さんの実家を訪れたのは、判決からちょうど2週間後の11月4日。この日は先の裁判の控訴期限で、つまりこの日が何事もなく過ぎれば宮本被告の刑が確定するタイミングだった。私は稲田さんの家族と一緒に、区切りとなるこの日を迎えるつもりだった。しかし移動中の阪神電車の中で、宮本被告が判決を不服として控訴したことを知った。

「すべての裁判が終わるまで、なんとしてでも生きないといかんと思っています。しかし長引きそうですね……」(峰雄さん)

 真優子さんの母・由美子さん(65)も落胆の色を隠せなかった。