藤井聡太七段の活躍のように、小説や漫画の設定を飛び越えた出来事が起きる将棋界。数多く行われてきた将棋のタイトル戦の中でも、2008年に行われた第21期竜王戦七番勝負はまさに「神回」と呼べる最上位の名勝負だった。

タイトル戦の勝者が初の永世竜王

 将棋界は現在8つのタイトル戦が行われている。昨年9月に46歳3ヵ月で悲願の初タイトルを獲得した木村一基王位は、歴代44人目のタイトル経験者となった。逆にいうと、長い歴史の中で、これまで44人しかタイトルを取ったことがないということでもある。1回でもタイトルを取れば、歴史に大きく名を残す棋士になるわけだ。


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 2017年度にタイトル戦に昇格した叡王戦を除く7つの棋戦で、タイトルを連続、あるいは通算して規定数獲得した棋士に「永世称号」が与えられる。タイトルを獲得するだけでなく、防衛しなければならず、道のりは険しいため、永世称号を得た棋士は現在までに10人しかいない。いずれも超一流棋士だ。

 棋戦によって永世称号を得るための条件は異なる。例えば、名人戦なら通算5期獲得で永世名人の資格を得られる。永世竜王の場合は、連続5期獲得か通算7期獲得が条件だ。2008年の時点では、永世竜王の資格を得た棋士はおらず、渡辺明竜王が竜王4連覇中、羽生善治名人は通算6期竜王を獲得し、ともにあと一歩という状況だった。

世代交代の面でも注目された

 2008年6月、羽生は第66期名人戦で通算5期目となる名人を獲得し、永世名人の資格を得た。これで名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖の6つで永世称号を獲得。あとは永世竜王ですべてのタイトル戦で永世称号を得る「永世七冠」を達成する。空前絶後の大記録だ。高まる期待に応えるように、羽生は第21期竜王戦で挑戦者になった。つまり、第21期竜王戦七番勝負は、制した棋士が初の永世竜王の資格を得られる大勝負だった。将棋の歴史において、いずれかの勝者が永世称号を獲得するケースはこの竜王戦しかない。

 また、当時、羽生は38歳、迎え撃つ渡辺は24歳だった。若い渡辺が羽生と五分以上に戦えるかどうか。大きな栄誉が懸かっているだけでなく、世代交代の面でも注目されたタイトル戦だった。