「エンゼルス入団時に続くバーゲンセール」と言われた契約

 その年のオフ、大谷は初めて年俸調停の権利を手にした。渡米時は、「FAなら200億円超の価値がある」とされながらも、労使協定の年齢制限の影響で日本ハム最終年の年俸2億7000万円からも激減。メジャー1〜3年目は最低保証の年俸6000万円程度でプレーしていた。ようやく大きな契約を結べる可能性が生まれたが、一方で大谷の二刀流は“底値”にあった。長年、MLBで活動する代理人が当時を振り返る。

「金銭を二の次にして野球に取り組む大谷には些末なことかもしれませんが、毎度タイミングが悪いな、と。メジャー入りの時は規則の壁に泣き、年俸調停の権利を得ると、交渉で強気に主張できる材料が乏しくなっていましたから」

 現行制度下では前例がない二刀流選手の評価を巡り、交渉は調停にもつれる寸前まで難航した。ぎりぎりで調停を回避した結果は2年総額850万ドル(約8億9000万円=レートは当時)だった。「9勝、46本塁打」でMVPに輝いた昨年、そしてルース以来の快挙を達成した今年の成績を考えると「エンゼルス入団時に続くバーゲンセール」(前出の代理人)だった。

「なぜ2年契約にしたのか。21年に活躍する可能性も考え、1年にとどめておけば良かった。我々仲間内では(大谷の代理人の)バレロの失態という評価になっています」(同前)

「野球の神様」ルースに肩を並べた

 一方でそれは結果論だとの声もある。

「当時、大谷が21年シーズンにあれだけの成績を残すと予想できた人はいるでしょうか。バレロとしては、右肘故障再発の可能性もある中で去年は300万ドルに抑えられたものの、今年550万ドルに増額させて落としどころを見いだしたとも言えます。リスクヘッジはしていました。ただ、これをはるかに超越するほど、大谷のここ2年の活躍がすさまじかったということ」(駐米ジャーナリスト)

 大谷はこの契約直後、キャンプ序盤にアリゾナ州テンピでマドン監督、ミナシアンGMと鼎談に至った。その場で大谷は、投打同時にプレーする「リアル二刀流」や登板日前後のDH出場という画期的な現在のスタイルを希望した。体の負担や故障のリスクが増したとしても、大谷は二刀流の望みをつなぐため、賭けに出て、そして勝ったのである。

「野球の神様」ルースに肩を並べた今、二刀流の継続に異を唱える者はいない。

(木嶋 昇/Webオリジナル(特集班))