長引くコロナ禍で、「しんどい」大学生が増えているーー。

大学保健管理センターで多くの学生のメンタルケアや治療にあたってきた精神科医・野田哲朗さんは、2020年から2021年にかけて4度の調査をおこない、大学生の不安やうつの懸念が悪化していることを明らかにした。

若者のメンタルヘルスの悪化は世界的な兆候だが、日本も例外ではない。

コロナ禍のストレスは「災害」と捉えてほしい、「大変なのは私だけじゃない」ではなく、自分のしんどさに気づいてほしい、と呼びかける。

影響の長期化を心配しているという野田さん。前編に続き、大学生の悪化するメンタルの現状を聞いた。

Haruna Yamazaki / BuzzFeed

野田哲朗さん


外からは見えにくい「依存」

――他に先生が気になる兆候はありますか?

この調査を始めたきっかけでもある、ゲーム障害との関係ですね。

もともとは若年層のゲームとメンタルヘルスの研究をしようと思っていたのですが、ちょうどコロナが来て。

Westend61 / Getty Images/Westend61


これでメンタルがガタガタになってしまう学生が増えるだろうな、とそれも含めて包括的な調査をしようと思ったんです。メンタルを崩すと、アディクション(依存)の症状が出る人はやはり多いですから。

アディクションとして僕らが想像するのはまずはタバコとかアルコールですけど、それはほとんどなかったです。

普段からお酒を飲む習慣がないと答えている子が6〜7割でしたね。今の若い子はタバコもアルコールも全然しないんだなと改めて思いました。

その分、比較的数字にあらわれたのはゲームでした。

――ゲームの場合は、長時間になると危険なんでしょうか?

それが意外にそうでもないのです。そこが難しい。単純に多すぎたら悪いわけではない。

コロナ前よりプレイ時間が増えたか?という質問に「増えた」と答えている人にうつ不安が強まる傾向があるのは確かにそうなんですが、「減った」という人の方が実はその関係が少し強かったんですね。

調査結果より

緊急事態宣言後のゲーム時間とK6の関係(Kruskal-Wallis検定 P<.001)


細かい前後関係はわかりませんが、「うつになって、ゲームすらできなくなった」というケースもあるんじゃないかなと推測される結果でした。

――なるほど。「酒に溺れる」なんて言い方がありますが、「ゲームすらできない」という方向のしんどさ。

そうです。むしろゲームを通じてコミュニケーションしたり、熱中することで気分が改善したり、適度な距離で使えば悪いことではないですからね。

アルコールやタバコはしんどいとはっきりと増えますが、ゲームは必ずしも「長時間」が「依存」ではないのです。

本人は「やりがい」を感じていても…

ーー先生はクリニックで診療もされていますが、大学生に限らず精神科を訪れる若い方の傾向はありますか?

最近明らかに増えているのは、スマホでやるギャンブルですね。

――ソーシャルゲームですか?

いや、公営のギャンブルです。競馬とか競艇とか。いつでもどこでも簡単にスマホで買えてしまうんですよね、今。人に見えないところでどんどん借金が膨れ上がっていく。

「外から気づきにくい」という意味ではゲーム障害と少し似ています。

でも、ギャンブルはどんどんお金を失っていきますし、債務整理や自己破産なんてことになれば、親や周囲の人が(治療機関に)連れてきます。「病気だからちゃんと治療しよう」という社会的なコンセンサスも醸成されつつありますしね。

ゲームに関しては、実生活に明らかに支障が出ていても、本人はやりがいを感じていたり、ゲーム内に仲間がいて楽しくやっていたりするので、そこが違いますよね。説得するのも抜けだすのも難しい。治療法も確立していないですし。

潜在的に苦しんでいる人は少なくないと思います。まだまだ研究中の分野です。

「社会に大事にされている実感がない」

――気づかないうちに、メンタルが悪くなっていることがある、というのが恐ろしいなと思いました。自分の心に意識を向けるのはなかなか難しいのでしょうか。

コロナ禍以降に大学生たちと接していて特に感じるのは、「社会に大事にされている感覚がない」ということです。

若者のメンタルが悪くなっているのは、世界的な傾向なんです。日本に限らず、世界各国で報告されています。どうしても、しわ寄せは立場の弱い人にいきますからね。

理由はさまざまな考察がされていますが、「働いていない身で、労働者に迷惑をかけてはいけない」というプレッシャーが強いのでは、という分析もありました。

――具体的にはどういうことですか?

例えば両親と同居しているとして、自分がコロナになって、お父さんが濃厚接触者になったら働けないでしょう。そうなると、家族みんなが困ることになる。

先ほどの調査でも、うつや不安と有意な関係があった因子のひとつが、「保護者と自分の収入減」でした。

調査結果より

保護者と自身の収入減とK6の関係(2021年7月)


「非常に当てはまる」……つまり親御さんや、自身のアルバイト収入などが有意に減っている人は、うつや不安の数値が明らかに高くなっています。

当たり前ですよね。経済状況は自分の生活にダイレクトに関わってくることですから。中退も増えているようだ、というデータもあります。

(※文科省によると、2021年度の大学中退数は前年度の1.4倍に。新型コロナの影響とした回答者のうち、30.3%が「学生生活への不適応や修学意欲の低下」をあげた)

真面目な人ほど悩みやすいですから、無意識に責任やプレッシャーを感じていた人もいると思います。

――ある時期は「若者の感染者が増えている」「若者も外出自粛を」と呼びかけられていましたね。

時事通信

繁華街では都職員が若者向けに注意を呼びかけていた=2020年12月、原宿


もちろん意地悪で言っているわけじゃなく、公衆衛生上そう言うだけの裏付けがあるのだと思いますが、多くの「若者」は真面目に我慢しているわけですよね。

友達や恋人とも会いにくくなって、アルバイトもできなくなって、そのうえワクチンは後回しにされて……大変だったと思いますよ、みんな。

そのうえで、さまざまな方向から若者を諌めるようなメッセージを出されると、どうしても「自分たちが悪者にされている」「大事にされていない」と感じてしまうのは仕方がないのかもしれない、とも感じます。

「災害」はまだ続く 自分のしんどさに気づいて

――4度の調査で、時間を経てさらに状況は悪くなっているというのも衝撃的でした。この傾向はまだ続くと考えますか?

そう思います。というのは、このコロナ禍が与えたストレスはある種の「災害」だと思うのです。

Kazuhiro Nogi / AFPÅÅéûéñ


私も阪神大震災で死ぬような思いをしましたが、震災を例にとると、最初はショックを受けて茫然自失になります。

ですが、しばらくすると「ハネムーン期」や「ユートピア期」と言われる時期がきて、みんな元気に頑張ってしまいます。それは、大変な状況でなんとか生き延びようというひとつの反応なんですね。

ずっと頑張っている状況が続くと、「幻滅期」がきて、さまざまな不調が心や身体に出てきます。受けたショックは、数年かけてじわじわと表に出てくるのです。

コロナ禍も「ああ、終わった」とスッキリはいかないんじゃないか、特に若い皆さんにはこの影響は長引くのではないかと僕は思っています。

みんなが被災者。「私たちはみんな、多かれ少なかれ傷ついている」というのは忘れないでほしいと思います。

「自分なんてたいしたことない」「もっと大変な人もいる」と思わず、自分のしんどさにちゃんと気づいてあげてほしいです。

うつの度合いを測るテストはWebにもありますから、客観的に数値を出して「あれ、自分ヤバいかも」なんて思ったら大学や医療機関で相談してほしいです。

野田哲朗(のだ・てつろう)

精神科医。兵庫教育大学客員教授、大阪人間科学大学特任教授。「東布施野田クリニック」(大阪府)理事長医院長でもあり、臨床医としても日々クライアントと向き合っている。

1984年からアルコール専門病院で勤務し、1998年からは大阪府に入職。精神保健福祉課長などを歴任したのち、2009年に大阪府精神医療センター医務局長に就任した。

発達障害の支援、アルコール健康障害予防、自殺予防、災害時の心のケア、薬物ドラッグ問題、ストレスマネージメントなどをテーマに研究を続けている。2020年以降は、大学生が「Withコロナ」時代を柔軟に生きるためのストレスモデル構築の横断的研究に取り組む。