20世紀初頭にフランスで活躍した日本人画家、藤田嗣治(ふじた つぐはる)の作品だけを展示する美術館『軽井沢安東美術館』が10月8日(土)にオープンするのに先立ち、同館のコレクションの魅力をまとめた書籍『藤田嗣治 安東コレクションの輝き』が刊行されました。

明治19年(1886年)生まれの藤田嗣治は、東京美術学校の洋画科で学んだあと26歳の時にフランスに渡り、乳白色の下地と細い描線による裸婦像を確立。1920年代のヨーロッパ画壇を席巻し、戦前のパリで成功した数少ない日本人画家の一人として知られています。また、1930〜40年代には日本に帰国して、太平洋戦争期の作戦記録画の制作などに取り組みますが、晩年はフランスに帰化して「レオナール・フジタ」として穏やかな生活を送り、1968年にスイスのチューリッヒで81年の生涯に幕を閉じています。

今回、長野県北佐久郡にオープンする軽井沢安東美術館は、そんな藤田嗣治の作品ばかりを展示する日本で初めての美術館。約180点におよぶ所蔵作品は、これまで多くの企業再生に携わってきた実業家の安東泰志氏が、軽井沢のギャラリーで偶然出会った一枚の猫の版画に心惹かれたのをきっかけに、夫妻で長年にわたって収集してきたものばかり。藤田がモチーフとして生涯描き続けた「猫」「少女」「聖母子」の絵画を中心に、初期の貴重な風景画や藤田の代名詞ともいえる乳白色の裸婦、自ら装飾した家具や食器といった手仕事まで、藤田作品ばかりを広範に展示する日本で唯一の個人美術館として注目を集めています。

オーナーの安東氏は当初、猫や少女など「かわいい」絵のコレクションに情熱を注いでいたものの、その後は作品だけでなく、藤田の人生にも興味を持ったことから収集が加速。本書には、そんな安東コレクションの中核をなす、かわいい「猫」や「少女」たち、また初期のものから晩年の宗教画まで、軽井沢安東美術館に収蔵されている作品を網羅した書籍となっています。

中でもネコ好きな人には注目なのが、猫をモチーフにした作品。藤田嗣治は外で捨て猫や迷子猫を見つけては、家に連れて帰り飼っていたと言われるほどの愛猫家で、自身の絵にサインをする代わりに猫を描くこともあったことから、さまざまな作品に猫が登場。本書には茶トラや三毛猫、黒猫など、毛先の一本一本にまで藤田が愛情を込めて描いた猫の作品が収録されています。

また、少女の絵も藤田にとって代表的な画題の一つ。生前、「私には子どもがない。私の画の子どもが、私の息子なり娘なりで、一番愛したい子どもだ」と述べている藤田は、その生涯の中で多くの子どもの絵を描いていますが、本書に掲載されているのは、主に藤田が1950年にフランスへ戻ってからの作品たち。どの絵もみずみずしい生命力に溢れていて、画家が子どもに向けた深い慈愛に満ちた作品の数々を観賞することができます。

書名:藤田嗣治 安東コレクションの輝き
編集:軽井沢安東美術館
発行:株式会社世界文化社
発売:2022年10月4日(火)