産後ケアに特化した法律「母子保健法の一部を改正する法律案」が2021年4月1日に施行されたことを知っていますか?

育児や授乳に不安があり、家庭環境やコロナ禍によって周囲に相談できる人がいないママを支援する法律です。

コロナ禍で出産したママたちは、以前にも増して、孤独を抱えがちです。また、高齢出産が増え、両親のサポートに頼れないママが増えたり、共働き家庭も増えたりと、社会的な変化に伴い行政の支援への需要と期待が高まっています。

今回は、成城木下病院・主任助産師の宮木優梨絵先生に「産後ケア事業」の概要や利用方法についてお聞きしました。

産後ケアに特化した法律が施行。産後1年のママと赤ちゃんまで対象期間が拡大

通称「産後ケア法案」、正式名「母子保健法の一部を改正する法律案」は、令和元年12月6日に公布、令和3年4月1日に施行されました。

施行後の大きな変化は2つあります。

1つ目は、すべての市町村に対して「産後ケア事業」の実施努力が義務化されたこと。

2つ目は、産後ケアの対象時期が出産直後から4か月頃までだったのが、分娩施設退院後から産後1年のママと赤ちゃんに。

これにより、退院時期が出産後4か月を超えることの多い低出生体重児や、治療などで退院まで長引いたママなど、よりケアが必要なママにサービスが行き渡るようになりました。

また、産後うつなど、メンタルヘルス悪化のリスクを抱える産後ママたちが、出産後1年を通じて支援されるため、産後の自殺への抑止力につながることも期待されています。

「産後ケア事業」は宿泊・日帰り・訪問の3種類

産後ケア事業とは、産後ケアを必要とする出産後1年を経過しない母子に行う「短期入所事業」「通所事業」「訪問事業」のことを指します。

実施施設により内容が異なりますが、基本的な産後ケアの内容は共通です。

【産後ケアの内容】
1.母親の身体的ケア及び保健指導、栄養指導
2.母親の心理的ケア
3.適切な授乳が実施できるためのケア(乳房ケアを含む)
4.育児技術についての具体的な指導及び相談

短期入所型(ショートステイ型)

病院や診療所、助産所、厚生労働省令で定められた施設の「産後ケアセンター」に、ママと赤ちゃんが数日間入所(入院)します。

宿泊のため、なかなか休息をとることができないママがしっかり身体を休めることができます。夜間にも育児ケアを受けることが可能ですので、育児に対する自信につながるというメリットもあります。

利用期間は、原則として7日以内。自治体によって期間は異なります。ただし、分割利用も可能ですし、市町村が必要と認めた場合は、期間を延長することもできます。

通所型(デイサービス型)

病院や診療所、助産所、厚生労働省令で定められた施設の「産後ケアセンター」のほか、子育て世代包括支援センターや市町村保健センター、その他市町村長が適当と認める施設を、ママが赤ちゃんを連れて日帰りで利用します。

経産婦さんなど、家庭の事情で宿泊できないママや、日中サポートしてくれる人や身近に相談できる人がいないママ、数時間でも休息を取りたいママにおすすめです。

集団型と個別型があり、集団型の場合はママ友作りにもつながります。

居宅訪問型(アウトリーチ型)

対象者であるママの自宅に、助産師や、相談内容によっては保育士や管理栄養士、心理に関して知識のある専門家が訪問します。

訪問の際は、必ず市町村が発行する身分証明書を携行するよう決められているので、安心です。

自宅で、乳房マッサージなどの授乳支援や、育児環境に合わせた具体的な育児支援を受けることができるので、自宅を離れることができないママや兄姉のいる家庭におすすめです。

産後ケア事業の利用方法

「産後ケア事業」の実施主体は市町村なので、ママの住民登録のある市町村で利用できます。

里帰り出産など、住民票がない自治体で支援を受けることができるかは、里帰り先で産後ケアが必要と市町村が認めた場合に限られます。

住民票のある市町村と里帰り先の自治体との連携が必要になりますので、時間的に余裕をもって申請しましょう。まずは住民票のある市町村に申請の手続きについて、確認してください。

利用対象者

「産後ケア事業」を利用できるかどうかは、市町村が審査します。

そのため、“産後ケアを必要とする出産後1年を経過しないママや乳児”すべての方が、「産後ケア事業」を利用できるわけではありません。

産後に心身の不調や育児不安などがあるママや、多胎児家庭など特に支援が必要と認められるママ、自宅において養育が可能である新生児及び乳児であるかなどをもとに、市町村が審査して利用者を決定します。

ママと赤ちゃんのどちらが感染性疾患(麻しん、風しん、インフルエンザなど)に罹患しているケース、入院加療の必要があるママ、心身の不調や疾患があって医療的介入の必要があるママなどは除外になります。

ただし、医師に「産後ケア事業」において対応が可能であると判断された場合には、対象になることもあります。

施設によっては、上記に加えて、除外条件がある場合もありますので、申請時にしっかり確認しましょう。

初産・経産については、産後ケア事業の審査には関係ありません。初産婦は初めての育児に不安を抱えている方が多い一方、経産婦は、上の子どもの育児負担が大きいなどの悩みを抱えている方もいます。

自分が対象かどうか悩む前に、サービスを利用したいと思ったら、まずは自治体の窓口や保健師さんに相談してみてください。

申請時期

東京都の中央区や港区、目黒区、渋谷区などは、妊娠8か月(28週)〜利用希望日14日前までとなっています。市町村によって異なる場合があるので、必ず確認をしてください。

この申請期間のことを知らず、産後ケア事業の支援がスムーズに利用できない方も多いので、利用するしないに関わらず、まずは申請をしておくとよいのではないでしょうか。

また、産後は身体の回復と育児に追われて余裕がないため、妊娠中に申請しておくとスムーズにケアを受けられるでしょう。

申請方法

一般的には、申請時期になったら、住民票のある市町村の保健センターや子ども家庭支援センターなどに申込みをします。電子申請、郵送申請できる自治体もあります。

市町村にて利用対象者であるか審査をして、利用決定したら、「利用承認通知書」が交付(自宅に郵送)されます。

その後の流れは、「短期入所事業」「通所事業」「訪問事業」によって異なるので注意しましょう。

現在、新型コロナウイルス感染予防のために、短期入所型のパートナー・兄姉の宿泊や面会、通所型の集団などが中止されている施設もありますので、事前に確認してください。

ひとりで不安を抱え込まず、自治体のサポートを活用しよう

身近にサポートしてくれる人がいなくても、地域で育児をしていく上で必要な支援事業を紹介してくれたり、行政が身体的・心理的に不安を抱えているママに寄り添って支援してくれます。

育児支援だけでなく、話を聞いてもらうだけでも心理的に楽になれるものです。

特に、ワーキングママは保活の相談もありますので、妊娠中から自治体のホームページや冊子などの資料をしっかりとチェックしておきましょう。

育児はママだけのものではありません。ママだけでなく、パートナーや家族もこの制度を知って、産後ケア事業を積極的に活用してくださいね。

PROFILE 宮木優梨絵

東京・世田谷区にある成城木下病院の主任助産師を務める。助産師歴は12年。年間分娩件数は約100件。産後ケア実地指導助産師、クリニカルラダーⅢ、新生児蘇生法NCPRインストラクターの資格も持つ。主任助産師として日々分娩に立ち合うほか、新生児の蘇生法についての講習会を院内で開くなどの技術的な指導も担う。患者満足の観点から、院内サービスの発案やコロナでの出産のフォロー体制、産後の育児サポートについても精力的に取り組んでいる。

取材・文/木村美穂

参考/厚生労働省子ども家庭局長「母子保健法の一部を改正する法律」の施行について(通知) https://www.mhlw.go.jp/content/000657398.pdf
厚生労働省「産前・産後サポート事業ガイドライン 産後ケア事業ガイドライン」 令和2年8月 https://www.mhlw.go.jp/content/000658063.pdf
厚生労働省「産後ケア事業の利用者の実態に関する 調査研究事業 報告書」令和2年 https://www.mhlw.go.jp/content/000694012.pdf