「見ていてほしい」。四回裏、阿南の攻撃。先頭で打席が回ってきた金田辰紀選手(三年)は打席に入る前、対戦相手の村山雅俊監督に一瞬目をやった。
 無得点のまま、既に21点差。思いきり振り抜いた打球は中前へ達し、一塁を踏むと応援席から大きな歓声が上がった。最後まで決して諦めない一打。打線は息を吹き返し、この回、3点を返した。
 村山監督は、かつて阿南の監督を務めていた。当時小学生だった金田選手は、地元の少年野球で指導を受けたことがある。深い関わりはないが、同じ阿南の野球部員だった兄や先輩から村山監督の厳しい指導ぶりを聞き、阿南の試合をテレビで見るうちに、意識するようになっていた。
 一年の冬と二年の春に二回、肘の手術をした。野球好きだった少年は、故障に悩まされながらも野球を続け、高校最後の夏に三回戦まで進出。村山監督に成長ぶりを見せることができた。
 試合後、球場のロビーで村山監督と目が合った。笑顔を向けられ「覚えてくれていたんだと、うれしく思った」。コールド負けを喫したが、「ここまで来れて良かった」と笑顔を見せた。

 (中島咲樹)