「まずい」。ミットを構えながら、愛産大三河の主将、山本凌輔捕手(三年)は思った。2−2で迎えた八回2死三塁。出したサインは外角のボール球だったが、直球がわずかに内側の高めに入ってきた。打者は見逃さず、打球は右翼手の前に落ちて決勝点となった。
 エース清水壱平投手(三年)は、七回まで1安打に抑えていた。六回に味方の失策で同点とされても、山本主将はマウンドで「俺が打つから。踏ん張ろう」と励まし、清水投手はその言葉を信じて好投を続けていた。
 二人がバッテリーを組んだのは昨秋の大会後。甲子園出場経験もある実力校ながら地区予選で敗退し、県大会出場を逃した「どん底」の時期だった。
 三塁手の控えだった山本主将は、選手層の薄かった捕手への転向を申し出て、配球を一から勉強し直した。練習後も学校に残ってバットを振った。山本主将の熱心な姿に、清水投手は「チームで一番甲子園を目指していた」と信頼を置くように。自身も140キロの球速を出すことに固執していた姿勢を封印。「勝てる投球」のために変化球を磨き、走り込みで体力を付けた。
 夏の大会前、三年生で考えたスローガンは「這(は)い上がれ」。応援のシャツにも印字し、どん底からの復活の思いを込めた。
 失投とも言えない「たった一球」が勝負を分けた。「はい上がれず悔いが残る」と山本主将。ただ試合後、OBや家族を前に「このチームに出会え、夏の舞台で戦えたことを誇りに思います」と胸を張った。

 (安福晋一郎)