担い手が高齢化している加賀友禅の世界に三十代の作家が誕生した。金沢市窪四の志々目(ししめ)哲也さん(31)だ。石川県内に約百六十人いる作家のうち唯一の三十代。「若さをパワーに、自分だけの表現を見つけたい」と新しい息吹を吹き込む。(蓮野亜耶)
 加賀友禅との出合いは偶然だった。高校卒業後に働いていた市内の飲食店を訪れた加賀友禅の作家に絵を描くことが好きと伝えると、「友禅作家になれば」と誘われた。
 それまで縁のなかった加賀友禅だったが、好きな絵を仕事にできると思い、作家を目指そうと決意。市内の工房に出向き直談判。半年間、訴え続けて二〇〇六年に二十歳で弟子入りを果たした。修業は厳しかった。工房では下絵から糊(のり)置き、彩色とすべての工程を行っているが、誰も教えてくれない。師匠、兄弟子たちの筆の動き、糊の置き方を何度も見てまねる。
 作品展で素晴らしい友禅に触れると、他の工房の作家にも教えを請い、学ぶこともした。独自の技が流出するとしてタブーだったが、「いい着物を作りたい一心だった」。
 弟子入り三年目からは、自分の作品を作って伝統加賀友禅工芸展などに出品するように。朝から晩まで工房での仕事があったが、時間をやりくりして打ち込んだ。出品を続け一二年の同工芸展で金賞に選ばれた。
 「日本一の作家になりたい」。師匠に独り立ちを宣言し、十一年の修業をへて今年五月に独立した。
 目指すのは洋服のようにコーディネートできる友禅。帯、帯留めなどトータルで着る楽しみを味わってもらいたい。「加賀友禅の品格も残しつつ、時代に合わせた着物を生み出したい」と意気込んでいる。
後継者難 課題「仕事減り、人雇えず」
 業界で三十代の作家が生まれるのは五年ぶりだが、着物の需要が減り、後継者不足が課題として横たわる。
 金沢市が創設した一般社団法人「金沢クラフトビジネス創造機構」によると、バブル期の市場規模は二百億円を超えていたが、現在は二十八億円程度。友禅作家の一人は「仕事が減り、職人を雇う余裕がない。本当に職人になる覚悟があるか、確認してからでないと取れない」と明かす。
 修業制度も壁だ。工房を営む師の下で七年以上の修業を積み、師匠と問屋からの推薦を受け、協同組合加賀染振興協会の承認を得て独立ができる。十年近く修業するケースがほとんど。女性の作家志望は多いが結婚や出産でやめてしまい、独立までに至らない。
 金沢市は三年間を上限に、伝統技術を学ぶ人と、雇用する側に奨励金を出して支援している。協会の小川甚次郎理事長(67)は「新たな需要を掘り起こし、消費を拡大していくことで若者を受け入れられる工房を増やしていかなければ」と話している。