「開かれた大学づくり」を国が掲げる中、多くの大学が地域や企業との連携を進めている。金沢美術工芸大もその一つ。四〜六月には携帯電話大手ソフトバンクの求めに応じ、製品デザイン専攻の三年生が新商品の企画に挑んだ。一見、企業と学生の双方にメリットがある取り組みだが、教員からは、こうした産学連携の動きに疑問の声も聞かれる。(日下部弘太)
金沢美大「社会貢献の一環」
企業「ビジネスが第一」
 身の回りのさまざまな物がインターネットでつながる「IoT(Internet of Things)」時代を見据えた事業。学生は地元企業が開発した伸縮性と導電性がある繊維や、触れているだけで心拍数など身体データを測れる技術も生かし、ネットを使った商品を考えた。プロのデザイナーも助言役で加わった。
 学生は「集中度」を数値で表す座禅用座布団、足のどこで蹴ったか記録するサッカー上達ソックス、ファンとアーティストをつなぐアクセサリーといった多彩な商品案を披露。ソフトバンクの担当者らを驚かせた。
 河崎圭吾教授は「学生には刺激的だったのでは」と意義を強調し、学生も「プロの仕事の速さを体感しながら、実際にデザインをする流れを学べた」など好意的に振り返った。
 美大ホームページによると二〇一二〜一五年、年間十四〜十七件の産学連携事業を実施。一五年の民間調査で学生が開発した商品やサービス数は、千人あたりで全国トップだった。
 学生は実務に触れる経験や就職活動に向けた「実績」を、企業は学生の斬新な発想を得られる。教育と社会貢献を両立できれば大学のアピールにもなる。
 良いことずくめにも思えるが、ある教員は「大学は学生が自由意思で自分を高める場のはずが、こうしたプロジェクトに忙殺されている」と批判する。
 「悪あがきをするのが大学生の特権だが、その時間がない。長いスパンでの地力がつかず、十年、二十年後、世界と太刀打ちできる人材が育っているのか」。今回の事業は最終プレゼンまでわずか一カ月半。こんなに短期では失敗する時間もなかったはずだ。
 美大が産学連携を社会貢献の一環としているのに対し、ソフトバンクの担当者は「単なる社会貢献ではない。ビジネスにつながらないと続けるのは難しくなる」。シビアな物言いに、大学が企業に「使われる」構図も見え隠れする。
「目新しさ」より本質を
 金沢美大出身のアートディレクターで西岡ペンシル代表の西岡範敏さん(47)は、自身の体験から産学連携の教育効果を「実社会の予習としては意味があったが、ケーススタディーの域を出ない」とみる。その上で、IoTのような「新しいこと」より、デザインとは何かをもっと学んでほしいと願う。
 「役に立つ、とはどういうことか深く考える教育が望ましい。世界のさまざまなデザインの歴史など、デザインをもう少し広く見られる授業があるといい」