相手の校歌が響き終わり、グラウンドで一斉に泣き崩れる選手たちを、ベーグ昇太ハッサンアリー主将(三年)は一人ずつ抱き起こした。「ベンチを出てから泣こう」。二十二年ぶりの夏の甲子園出場を目指した古豪の夢がついえ、気丈に振る舞う自身の目も涙で潤んだ。
 序盤に投手陣が打たれ6失点。点差が縮まらないままイニングが進む。「さあ気張っていけよ」。守備から戻ったナインや攻撃に向かう選手にチームで一番大きな声を掛け、肩や腰をたたいて励ました。
 前日の四回戦では出番がなかった。この日も三塁コーチに入り、「先頭に立って声を出すのが主将の務め」と仲間を鼓舞し続けた。一方で、五回後のグラウンド整備の時には一人、素振りをして出番に備えた。
 白い歯がくっきりと見える笑顔で、部員を励ますムードメーカー。父がパキスタン出身で家族全員がイスラム教徒。ラマダン(断食月)は野球を優先して食事を取るが、戒律で豚肉は口にできないため、一年生の時の寮生活や遠征の食事には、部員の父母らに気を使ってもらってきた。
 八回の守備から出場し、九回の攻撃。この試合、最初で最後の打席はフルカウントまで粘ったが、二飛となり、悔しそうに首をかしげてバットを置いた。
 「三年間、どこにも負けない量の練習をしてきた。みんなと甲子園に行けなかったのが悔しい」
 卒業後は大学で野球を続けると決めている。そしていつの日か、「自分の経験を生かして父の故郷で野球を広めたい」とも。高校での夢は半ばで途絶えたが、次の夢はまだ始まったばかりだ。

 (安福晋一郎)