◆採卵や飼育環境…道半ば
 二十五日は、夏のスタミナ食ウナギを食べることで知られる「土用の丑(うし)」。静岡県の浜名湖など全国各地の産地で稚魚のシラスウナギの漁獲量が減っており、業界には不安も広がっている。二〇一〇年に世界で初めて「完全養殖」に成功した国立研究開発法人水産研究・教育機構増養殖研究所(三重県南伊勢町)では、稚魚の量産化に向けて急ピッチで研究を進めているが、道半ば。業界の期待も背負い、試行錯誤が続いている。
 底の丸いボウル型の十リットル水槽がずらりと並ぶ。仔魚(しぎょ)(魚の赤ちゃん)の飼育実験室。魚には識別しにくい作業用の赤色灯があるだけの室内は暗い。十二個の水槽の中では、五十五日目の仔魚が泳ぐ。二個ずつ餌の成分を変えて毎日五回、二時間おきに与え、成長に良い餌を探す。
 天然の仔魚が、何を食べているのかは今も謎に包まれている。研究所では、冷凍アブラツノザメの卵にビタミンなどを加え、餌の改良を重ねてきたが、一般的な魚の仔魚と違って餌への関心が薄く、口元に触れたものを飲み込む程度。資源に限りがあることからサメの卵を使わない餌も開発しており、生存率を高め、健康な稚魚が育つ餌作りに力を入れている。
 大量の仔魚を得るため、親ウナギの成熟を促すホルモンの研究も進めており、雄の場合はほぼ100%の個体で精液が採れるようになった。一方、雌も大きさのそろった卵を採取できるようになったが、ホルモンを投入するタイミングや量など、より細かい条件を探っている。
 雌は一度に数万〜百万個の卵を産むが、ふ化するのは30〜50%。研究所の水槽に収容できる数百〜数千匹のうち、稚魚まで成長するのは4〜5%ほど。水槽を大きくしても生き延びる稚魚が増えるとも限らず、八百五十リットルの大きな水槽に移して飼育した実験では、わずかに生き残っただけだった。水槽が大型になればボイラー代などのコストがかさみ、効率的な水槽の開発など飼育環境の研究も量産化への課題だ。
 研究をけん引する田中秀樹グループ長は「卵から稚魚を育てる技術ができているが、養殖に使う稚魚の一部を補うほど大量生産するまでではない。天然の稚魚が取れない中、少しでも人工稚魚で補い資源回復に役立てるよう、研究を続けたい」と話している。
(飯田樹与)