激しい雨による三時間二十分の中断後、蒸し暑さが増した本塁で、豊田工の橋本翔捕手(三年)は前年の王者、東邦の変化を感じていた。応援の声、ベンチの雰囲気、打者の息遣い…。「スイッチが入った」ような気がした。
 中断前には、福田尭(たかし)選手(三年)が満塁から走者一掃の二塁打を放ち、王者を相手に3−1と互角以上の戦いをしていた。再開までの間、相手投手の動画を見て、「まだ何が起きるか分からない」と気を引き締めて再び臨んだ。
 だが、悪い勘は当たった。再開直後の五回に4安打、投手が途中交代した六回は7安打を浴び、計10点を失った。予想以上の相手打線の爆発。甘く入った球はことごとく捉えられた。
 「どうしよう、どうしよう」。心のざわつきを抑え、流れを戻そうと、相手打者に向かってわざと「変化(球)、変化(球)」とつぶやきながら投手には直球のサインを出すだまし討ちも試みたが、勢いは止められなかった。
 球児だった二つ上の兄瞬さんの後を追って豊田工に入った。一年でベンチ入りし、昨夏は正捕手として四回戦まで勝ち上がり、経験を積んだ。新チームでは、最速142キロの直球が持ち味の横田龍也(二年)、変化球が得意な酒井健汰(三年)の両投手をリード。二人の良さを生かすため、対戦相手の特徴をすべて頭に入れて試合に臨み、夏の大会の頂点を目指してきた。
 つかみかけた勝利が雨を境にするりと抜け、結果は七回コールド負け。「あんな負け方をして、本当に悔しい。俺たちみたいな思いをしないでくれ」。試合後、後輩たちを前に大粒の涙を流した。
 (安福晋一郎)