テンポよく投げていたエース田中来起投手(三年)が三回につかまった。カウントを取りにいった球が甘く入り、連打を浴びた。
 初回から表情はさえなかった。ベンチの松崎圭吾投手(同)は親友の様子にすぐに気付き、「大丈夫だ」と励ました。
 田中投手も気持ちの切り替えが大事だとは気付いていた。しかし、うまくいかずに再び四回に満塁のピンチを招き、一塁の守備に回った。直後、二番手投手が満塁本塁打を浴びた。「切り替えたかったんだけど」と悔やんだ。
 二人の地元は豊橋市。小学校こそ違っていたが市の選抜チームからの付き合い。田中投手が「一緒に東邦でやろうぜ」と松崎投手を誘った。
 昨年秋に松崎投手が付けていた背番号「1」は、春の東海大会から田中投手に移った。「悔しかった」と松崎投手。
 それでも同じ投手として親友の相談に乗った。初球の入り方や先頭打者の対処など、自分の経験を伝えた。
 六回を終えて2−9。三人目の投手として七回のマウンドへ向かう松崎投手に、田中投手は「任せたぞ」とだけ伝えた。松崎投手は内野ゴロで2死を取り、最後はファウルで粘る打者を変化球で三振に仕留め、三者凡退に抑えた。「マウンドに立てば自分がエースのつもり」。背番号は譲っても気持ちは譲らない意地があった。
 ベンチに戻る松崎投手の右手に、田中投手がグラブで軽くタッチした。「ナイスピッチング」。言葉は交わさない。でもそれで十分だった。

 (安福晋一郎)