五回の投球は圧巻だった。中京大中京の左腕、磯村峻平投手(三年)は先頭打者を空振りで取ると、二人目も4球で空振り三振に。そして三人目、この試合2安打されている千田和弥選手(三年)にもわずか3球。絶妙の内角低めの直球で見逃し三振に仕留めた。
 四回から5者連続の三振。六回を終えて降板するまでに奪った三振は9。だが、そんな数は頭になかった。最後まで「目の前の打者を抑える」ことがすべてだった。
 一球の重みはよく分かっている。昨年夏、四回戦で愛工大名電と対戦。二年生エースとして先発したが一回から打ち込まれ、敗れた。
 素質はあるのに殻を破れない。高橋源一郎監督は、磯村投手にあえて「三年生を自らの投球で終わらせたことを、どう捉えているんだ」と厳しい言葉を投げたが、響いていないように映った。
 大会後、背番号「1」から外れた。感情を表に出さないタイプ。しかし、内面ではあの試合に一番、自責の念を抱き、同時に「なぜ1ではないのか」と悔しがった。
 昨夏以降、球威を上げるため左手首を鍛え抜き、盛り上がるほどに上半身の筋力を付けた。今春には最速143キロを出せるまでになった。
 決勝前日の夜、高橋監督がコーチらと出した決断は「磯村でいこう」。球威は十分。それ以上に大会直前、顔つきが変わったのを高橋監督は見ていた。
 ベンチや応援席、そして昨年の先輩たちの思いを背負った力投は、流れを一気につかんだ。背負った番号は一年前とは違う「10」だが、いまは「後ろに頼れる投手陣がいる」と思える。
 それでも甲子園でチームを支える責任感は「1」のつもりだ。「マウンドに上がったやつがエースだから」 
 (安福晋一郎)