清水港(静岡市清水区)に上陸した中国人観光客が向かった先では、一度に大量に購入する「爆買い」の復活とも思える光景が繰り広げられていた−。清水港への寄港が急増しているクルーズ船の観光客は、静岡に何を求め、どこを観光するのか。七月から入港している船の乗客の動きを追った。
 七月下旬の清水港。地元の子どもたちがたたく歓迎の太鼓の音が鳴り響くなか、午前七時、クルーズ船「スーパースター・ヴァーゴ」が清水港に寄港した。七泊八日の旅路の五日目。上海を出発し、大阪、横浜を経て三カ所目の寄港先だ。
 周辺にはかき氷やコーヒーを売る移動販売車も出ているが、陸に下り立った中国人観光客らは、こうした販売車には目もくれず、ずらりと並んだ数十台の観光バスに続々と乗り込んでいった。四十歳の男性は「日本は初めて。富士山を見に行く」と楽しそうに語った。運行会社の中国語のチラシやホームページを見せてもらう。清水とあるはずの寄港地は「富士山」とあるだけ。つまり清水に寄った目的は富士山というわけだ。しかしこの日、東の空には黒く厚い雲が広がっていた。
 バスは一路、御殿場プレミアム・アウトレット(御殿場市)へ。晴れていれば、左手には富士山が広がっているルートだ。午前九時半に到着。月曜で開店まで三十分あるためか、一般駐車場はがらがら。だが、アウトレットの中は、紫色のクルーズ船のツアーシールを胸元につけた人たちが開店を待って大勢歩き回っている。日本人の姿はほぼなく、耳に入るのは中国語ばかり。「ニーハオ」と話し掛けられ、言葉の通じない海外に一人で来た気分になる。
 富士山は残念ながら雲に隠れて顔を出さないが、アウトレットでは眺望地点を示す看板と一緒に写真を撮る姿も。しかしほとんどは開店前の下調べに夢中だ。三十五歳の女性は「時間がないから少しでも多く回りたい。富士山は次来た時」と語り、ドアが開くと同時に店内へ駆け込んだ。
 正午ごろにはアウトレットを出発するため、買い物時間は二時間ほど。アウトレットの男性店員(20)は「(クルーズ船が清水に寄港する)月曜だけは一昨年の爆買いのよう」と笑みがこぼれていた。
 午後一時。観光バスが続々と清水港の岸壁に到着し、買い物袋を手にした中国人観光客らが船に乗り込む。ただ、高級ブランドの袋は少なく、スポーツブランドやおもちゃ店などの袋が目立つ。上海市の女性(25)は「富士山が見えなかったのは残念だけど、服や化粧品をたくさん買えたので満足。そんなに高いものは買わないわ」と笑顔で語り、クルーズ船に戻っていった。
◆寄港急増も地元素通り
 今年の清水港へのクルーズ船寄港は、アジア最大のゲンティン香港が運航するスーパースター・ヴァーゴが七月から入港することになったことで、前年比二・五倍の四十四回に急増し、過去最多となる見込みだ。ただ、乗客用観光バスの八割が清水区を素通りして御殿場プレミアム・アウトレットに向かっており、地元への経済波及効果は少ない。
 静岡市清水港振興課によると、清水から鹿児島を回り上海に戻るスーパースター・ヴァーゴの乗客に日本人は少なく、上海から乗船する中国人やアジア人が九割を占めている。清水港へは十一月まで毎週月曜に寄港する。回数は二十回と最も多く、次いで郵船クルーズ(横浜市)の飛鳥2(ローマ数字の2)などが続く。
 スーパースター・ヴァーゴ乗客用の観光バスは毎回五十台以上。富士山の世界遺産としての価値を示す資産「三保松原」(清水区)と駿河区の日帰り温泉施設、鮮魚を扱う河岸の市(清水区)など静岡市内を巡るコースもある。しかし、清水港振興課の担当者は「中国人の好きな富士山と買い物をセットにされたコースには勝てない」とため息をつく。ホームページで清水が富士山と表記されていることについて「客を呼べるなら仕方がない。後から清水の名前を知ってもらえれば」と話した。
 県港湾企画課によると、ゲンティン香港は七日から清水港周辺を巡回するバスの運行を計画。清水駅前銀座商店街のクルーズ船対応担当者は「スーパースター・ヴァーゴが来ても、普段とまったく変わらなかった。こちらも岸壁にブースを出してアピールして呼び込みたい」と語っている。
(山田晃史)