約千三百万年前の新生代中期中新世に生息していたクジラの化石(県天然記念物)を展示している松本市穴沢の施設が老朽化し、研究者らが化石の風化を心配している。発見から八十年余。化石は地層に埋まった発見当時の状態で現地保存されてきたが、近年は施設内への雨水流入などの影響で、化石自体の保護と遮水壁設置など早急な対策が求められている。
 穴沢のクジラ化石は一九三六(昭和十一)年十二月、砂防工事中に「別所層」と呼ばれる泥岩層から出土した。頭部は欠損していたが十二個の脊椎骨は連結して発掘され、脊柱の長さは二メートル余。右に二個、左に七個の肋骨(ろっこつ)が確認され、歯クジラの仲間と推定されている。
 本来なら化石を掘り上げて博物館に展示するが、穴沢では地層に入ったまま木造の小屋(間口約二メートル、奥行き約四メートル)で覆い、現地保存してきた。三八年に県天然記念物に指定されたが、いったん解除され、七二年に再指定された。
 現場は標高七百メートルほどの山腹にあり、施設内への雨水流入などから化石の風化が進んでいる。崩落を防ぐために周囲をモルタルで固めるなどしたが、貴重な標本を適正に保存できているとは言い難い状態だ。
 松本市教委は県教委に対し、化石の修復や施設の建て替え、見学路や駐車場の整備などを要望しているが実現していない。施設内への雨水流入を防ぐ遮水壁の設置工法の検討などが今後の課題だ。
 同市四賀化石館によると、クジラ化石の見学者は、理科授業の一環で訪れる市内外の小学生四十校の約二千六百人を中心に、一般の見学者も含めて毎年二千八百人余。現地保存された化石教材を大勢の子どもたちに見てもらうためにも、新たな保存対策が急務になっている。

 (野口宏)
◆砕けて移動しないか心配
 <信州大理学部地球学コースの山田桂准教授(県文化財審議委員)の話> クジラ化石の保存状況は危機的で、化石が砕け、移動してしまわないか心配している。出土したままの状態で保存されている例はほとんどなく、何とか次世代に残したい。地層を固める工法もあり、化石と地層を一緒に保護・保存するべきではないか。
◆モルタル除き本来の姿に
 <国立科学博物館地学研究部の甲能直樹生命進化史研究グループ長の話> 一刻も早く保護対策を講じる必要がある。硬化剤による化石自体の保護が第一。周囲を固めているモルタルは、流入する雨水を化石に集中させており、除去して地層が見える本来の姿に戻すべきだ。現地保存は化石の産状が分かり、教育上も意義がある。