六日午後、桑名市街地に三十八台の祭車が勢ぞろいした。猛暑の中、鉦(かね)と太鼓を打ち続ける子どもたち。祭車を見比べながら彫刻や細工を撮影する観光客ら。一見いつも通りの光景だが、今年は小さな“革命”が起きていた。
 首からカードを下げ、観光ボランティアガイド「桑名歴史案内人」に連れられた人たちが祭車を取り巻いている。JTB中部が企画した「体験付き本楽観覧プラン」。七月の発売直後は反響が薄く、関係者をやきもきさせたが、最終的に八十人が集まった。
 寺町の待機場所では住民たちが鉦鼓(しょうこ)の扱いを付き切りで教え、法被も着させた。四日市市から参加した大谷常雄さん(36)は「神聖な祭事に関われる機会と思い、購入した。音がとにかくすごい。海外の友人に写真を送りたい」と喜ぶ。
 市を通して企画が持ち込まれたのは四月。伊藤守・保存会長(64)は「急な話だったが、九つの町が手を挙げてくれた」。ひと昔前なら初対面のよそ者に触らせるなんてもってのほか。ユネスコ無形文化遺産登録を機に「開かれた祭り」へとかじを切った瞬間だった。
 祭車が唯一の市文化財になっている西船馬町は、単独でクラブツーリズムのツアー客十八人を受け入れた。佐藤清和自治会長(74)が祭りの歴史を解説し、子どもたちがお囃子(はやし)を披露。希望者にばちを握らせた。
 佐藤自治会長は「二つ返事で話を受けた。『見る祭り』ではなく『やる祭り』と言われてきた石取祭だが、やる人、見る人が一体になって楽しむ祭りに変えていかないと」と力を込める。
 市はJTBのプランを、祭りの直前にふるさと納税の返礼品に加えた。今回の申し込みはなかったが「石取祭は体験してこそ魅力が伝わる」と担当職員。「関東からのバスツアーなど、来年以降の拡大に向けて旅行会社に働きかけたい」
 夜のメイン神事「渡祭」では、春日神社楼門の桟敷席に近隣の祭り関係者たちが並んだ。伊藤保存会長も各地の祭りに招かれ、来週は四日市市の鯨船行事に赴く。「ユネスコ登録を機に、鯨船の三団体がまとまって準備していると聞く。盛り上がりが楽しみだ」とエールを送る。
 観光客への門戸を開き、他の祭りとの交流も活発化した「ユネスコ元年」。祭り人たちの試行錯誤が続く。