ニセ電話詐欺の犯行グループは、なぜ高齢者の自宅を狙い澄まして電話をかけられるのか−。捜査関係者によると、個人の名前、住所、生年月日、電話番号などの情報を販売している「名簿業者」から入手したデータを悪用しているとみられる。本紙記者が試しに被害があった石川県かほく市内のデータを注文すると、利用目的を尋ねることなく販売する業者もいた。不正利用防止を目的に個人情報保護法が五月に改正されたが、現実には防げる状況になっていない。(ニセ電話詐欺取材班・伊藤隆平)
犯行グループ悪用か 地域や年齢別 容易に
 「各種の名簿をそろえています」。ホームページでそう宣伝する東京都内の業者。一人当たりのデータは二十円。加えて基本料金が五千円かかる。記者が電話をかけ、かほく市内を指定して「六十歳以上の男女」と発注した。さらに、市内の一地域に限定すると、約四百五十人分のデータがメールで送られてきた。業者から聞かれたのは、名前と携帯電話番号だけ。身分証明書の提示も求められることはなかった。ニセ電話詐欺グループなら、偽名と、犯行に使う架空か他人の名義の番号を伝えるだろう。
 別の業者は利用目的を尋ねてきたが、記者が「営業に使う」と答えると、それ以上は質問されなかった。ただ、中には利用目的の詳しい説明を求めた上、会社名も聞く業者もいた。
 捜査関係者によると、犯行グループは名簿を見ながら片っ端から電話をかける。例えば、警察官や銀行関係者を装い「口座が狙われている」と伝え、信じている気配があれば、再度の電話で「古いキャッシュカードを預からなくてはいけない」とだまし取る。一回目の電話で“好感触”があると、名前の横に「◎」、疑われると「×」をつける。◎の人には繰り返し電話をかけて信じ込ませていく。
 名簿業者を監督する国の個人情報保護委員会によると、利用目的の聞き取りは義務付けられていない。法改正後は悪用に対処するため購入者を特定できる名前などの記録が義務となったが、「特定するための情報」は業者の判断。名前と携帯番号だけでは犯行メンバーを特定できないだろう。
 業者は利益最優先ではなく、詐欺を招く可能性をもっと考えなくてはいけない。慶応大の新保史生教授(情報法)は「業者を厳しく取り締まる姿勢も必要だ」と指摘する。
要請で販売中止できれば合法
全国70業者が届け出 
 そもそも、個人情報の主の了承を得ずにデータを売買してもいいのだろうか−。個人情報保護委員会によると、情報を販売していることやその方法を、ホームページに掲載するなど情報の主が容易に知りうる状態に置き、要請に応じて中止できれば合法だ。
 ただ実際はホームページで公にされても、自分の情報が販売されていることを知る人は少ないと思われる。記者が名簿を購入した業者に「おたくから買ったことを本人に伝えていいですか?」と質問すると、「本人たちは売買されていることは知らない。怒りを買うのを避けるため、私たちから購入したことは言わないでください」と口止めされた。
 情報主の了承を得ず販売していることを委員会に届け出ている名簿業者は、全国に約七十。データは、住民基本台帳が原則公開され、誰でも閲覧を請求できた二〇〇五年以前や、企業関係者などから買い取った商品の顧客リストなどが基。現状を反映していない古いデータも混じっている。
 新保教授によると、買い物で申込用紙に個人情報を記入する際、情報がどう扱われるかまで気にする人は少数派。ポイントカードを作ったり、アンケートに答えたりする時も同様だ。
 第三者に情報を提供することが、注意書きに目立たず記されていることもある。注意書きもないまま不正に名簿業者に売り渡されることもあるといい、新保教授は「安易に情報を渡さないよう注意した方がいい」と話す。