◇記者コラム「Free Talking」

 約3年ぶりに大相撲担当に復帰。最初の驚きは秋場所の取組ではなく、人気連続ドラマを見た瞬間だった。元幕下富栄の富栄ドラム(31)が、17日に最終回を迎えたTBS系の日曜劇場「VIVANT」に出演。超豪華キャストの中ですっかり“時の人”となっていた。

 伊勢ケ浜部屋から本名の名字「冨田」のしこ名で、2008年春場所に初土俵。初対面は幕下と三段目を行ったり来たりの頃だった。前任者から、勝った取組直後に「翼を授ける」某エナジードリンクをプレゼントする験担ぎを引き継いだ。記事にするチャンスはなかったが、余っていたドリンクで2人で乾杯したり、その人なつっこさにこちらも癒やされた。

 力士としてのモチベーションは、今の時代にはレアといえるかもしれない。「家族に楽をしてもらいたいんです」。十両昇進射程圏の西幕下8枚目だった19年九州場所で1勝6敗。翌場所、うつむきながら「一番応援してくれた姉が亡くなったんです」と意気消沈していたのを思い出す。その後、ほどなくコロナ禍で接触はNG。番付を落とし続け、21年春場所限りで現役引退していた。

 一人前と言える関取に届かなかった富栄ドラムが、どうやって驚きの「転身」を遂げたのか。きっかけとして思い当たるのが、現役当時から公開していたバク転やボイスパーカッションの動画。土俵上とは異なる姿を積極的に発信していた。

 ただ芸能界で生き残るハードルの高さを考えると、力士のセカンドキャリアとしてもてはやすのは早計。富栄とともに、大相撲を題材に全世界ネット配信されたドラマ「サンクチュアリ―聖域―」に出演した元幕内大喜鵬の山口雅弘さん(34)も「同世代が一般社会で頑張ってきた中、力士には社会経験が足りていない」と警鐘を鳴らす。

 とはいえ、富栄ドラムは俳優として歩み出した。「VIVANT」では声を発しない役回り。次はどんな役柄で、視聴者を喜ばせてくれるのだろか。新天地では、どこまでも番付を上げていってほしい。(大相撲、ボクシング担当・志村拓)