◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
帯広のばんえい競馬で16日、年間最高峰競走「ばんえい記念」が開催される。ばんえい競馬は馬体重1トン前後もある重種馬が、重い鉄ソリを引く力比べの競走。200メートルのセパレートコースに高さ約1メートルと1・6メートルの障害2つが置かれる。ばんえい記念は馬の引く荷物が1トン(馬齢によっては990キロ)と、全競走で最も重い設定で争われる。
これが馬たちの力比べになるのは、2つの障害に高さがあることと、鉄そりと走路に摩擦が生じるからだ。障害では、その高さに要する力学的エネルギーが理論的に評価できる。ややこしいのは摩擦の方だ。
摩擦は高校物理で扱う基本的な物理現象だ。鉄そりを引く系であれば、摩擦力は荷物の質量に比例して大きくなる。問題はこの比例関係の比例係数だ。静止している物体を動かすのに利いてくるのが静止摩擦係数。動いている物体にかかるのが動摩擦係数。一般に静止摩擦係数の方が動摩擦係数より大きく、これら摩擦係数は接触している2つの物体だけで決まり(見かけの)接触面積や動き出した物体の速度にはよらない。
ところが、接触している物体が決まっても、そこに生じる摩擦係数を理論的に導き出すことはほとんど不可能だ。例えば「よく磨いた鋼鉄(Fe)同士」と状況を設定しただけでは、摩擦係数を理論的に導くことはできない。
摩擦は実はミクロな物理現象。「よく磨いた鋼鉄」であっても、十分ミクロに視点を寄れば表面に凹凸がある。極端な話、原子レベルまで見れば、鉄原子1個は球体と見なせるから、どんなに理想的に整然と並べても数学的な意味における”平面”にはならない。この凹凸同士で起こる弾性エネルギーのやりとりが摩擦だから、結局のところ、具体的な物体同士で生じる摩擦は、実験的に計らないと知ることができない。
ただし、状況の変化による変化には言えることがある。物体同士の接触面に水が入り込めば、潤滑油のように働いて摩擦係数が減る。馬場水分が大きい時を「軽馬場」、乾いていると「重馬場」と言うのは、このためだ。しかし馬場水分と摩擦係数の関係を実験的に調べた報告はまだない。馬場水分により、どれくらい「軽く」なるのかは経験則の範囲だ。だれかが実際に帯広で実験を組んで論文にしてくれれば、ばんえい初心者も予想、分析がしやすくなると思うのだが。


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