◇渋谷真コラム・龍の背に乗って
◇1日 中日3―2巨人(バンテリンドームナゴヤ)
一塁は空いていた。次打者は投手の井上。ネクストバッターズサークルでは、大城卓がフル装備で備えていた。門脇で勝負か。あえて申告敬遠を選び、難敵の井上を降板させるか。同点の7回2死二、三塁は勝敗の分岐点となった。
「(門脇と大城卓の)2人でひとつ(のアウトを)取ればいいと。勝負していく中で、次も考えながら投げました」
マウンドに山井投手コーチが行き、意思確認。岩崎は門脇を意表を突くストレート2球で追い込み、フォークで3球勝負。低いライナーが中堅・岡林のグラブに収まった。直後に勝ち越し点。岩崎には4年ぶり、移籍後初勝利がついた。
お立ち台では「中日に来て何もできていないのに…」と涙ぐみ、声を詰まらせた。涙の理由は3年前の移籍後から始まった苦難の道のりにある。2022年の開幕カードで右肘を故障。ほぼ半年後の9月に手術を選択した。
「スピードが落ちないよう、先生がトミー・ジョン(TJ)じゃない部分もやってくれた」
断裂、損傷した右肘に、左手首から靱帯(じんたい)を移植する。これが通常のTJだ。岩崎はそこに人工靱帯を加えている。大谷翔平の2度目がこの「ハイブリッド式」といわれ、大リーグでは強度が増すとの報告もある。だが、国内では数例。岩崎はさらに屈筋の肉離れも併発しており、右太ももの筋膜を骨に添えた。こちらは肩ではあったが、肘では国内初。アスリートは前例のない手術にはためらいが出る。岩崎も迷った。実にサードオピニオンまで仰ぎ、医師を信じて腹をくくった。
「年齢にあらがってやっていくつもりです。スピードが落ちたら辞める時。去年の12月から、強めにキャッチボールをやっても違和感がない。いけるという思いがあったんです。もう肘(のこと)を考えるんじゃなく、この試合で終わってもいいと思って投げてます」
最速154キロ。未知の手術とリハビリを乗り越え、明らかに球速は上がっている。本拠地初勝利。松山から渡された勝利球を、井上監督に差し出したが「おまえが持っておけ」と戻された。竜の一員。胸を張って、飾ってもらいたい。


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