◇21日 大相撲秋場所10日目(両国国技館)

 10日目の土俵はこの一番に尽きる。結びの照ノ富士と宇良の一戦。私は前日の「はやわざ御免」でさっさと負けて、さっさと帰ってこいと言ってやったのに、宇良は人の言うことも聞かずに、事もあろうに最強の横綱照ノ富士に対して果敢に立ち向かったのである。

 あまり夢中になり過ぎてどのような展開になったのか、はっきり思い出せない。切れ切れにしか覚えていない両者の動きを継ぎ合わせると、次のようになるのではないだろうか。

 宇良の立ち合いは、例のように徳俵ギリギリまで下がって相手の出方を見る。照ノ富士は懐に入られるのを警戒し、小刻みに突っ張る。しかし、突っ張りで勝負を付ける気はないようだ。要するに、ガッチリ捕まえる作戦だったはずだ。

 宇良にはあれほど無駄な抵抗はするなと忠告しているのに、まげを振り乱して必死に防戦している。しているどころか、大胆不敵にも横綱の足を取りにいくではないか。ここまで適当にあしらっていた照ノ富士が真剣になってきた。左の上手を取ろうとするが、宇良は体勢を低くして取らせない。横綱に焦りの色が出始める。どうやら本気になってきた。

 強引に小手投げを打つ。宇良の右肘がくの字に曲がっている。並の力士ならここで右肘をけがしてもおかしくはないほどに強烈だった。だが、宇良は柔らかくできているのでスルリと抜いて難を逃れた。しかし宇良の抵抗もここまでだった。

 左上手をガッチリ取られ、上手投げを打たれると体が一回転して裏返し。本当はこれで勝負ありだが、宇良はなおも一重に取ったまわしにしがみついて、何とか体勢を立て直そうとするではないか。恐るべきしぶとさと、勝負に対する執念だろうか。

 ここまでしつこく粘ると「素人相撲」のようだとひどく叱られるところだが、照ノ富士はさすがに大人だった。ダメを押すこともなく優しく押し倒した。この動作ひとつにしても照ノ富士は立派であった。誰とは言わないが、気の荒い力士ならもっと手荒い事態になっていたと思う。

 宇良はしぶといのは結構だが、このような誰が見ても挽回不能なことになったら、手は離さなければ相手にけがをさせるかもしれない。力士はこんな相撲を素人相撲と言って一番に嫌うから今後は注意をした方がいい。それは宇良のためでもある。

 しかし、良くやった。お客さんもテレビを見た人も大喜びだったに違いない。私はほとんど仕事を忘れていた。もうグッタリである。早く飯食って寝る。なに? あと他の相撲? 10日目はこの一番で十分です。他に印象に残る相撲はなし。優勝争いも照ノ富士で大勢に影響はありません。では、おやすみなさい。(元横綱)