ⓒ2019「引っ越し大名!」製作委員会

2019年8月30日より全国公開される『引っ越し大名!』は、星野源扮する引きこもり侍がいきなり引っ越し奉行に任命され、全ての藩士とその家族を連れて別の国に引っ越すという、失敗したら切腹ものの壮大なミッションに腐心するという時代劇映画です。

江戸時代、こういったことは実際によく行われており、要するに国家権力(ここでは徳川幕府)とは常に民衆を振り回すものですが、その中には武士も含まれていたということ。

侍だって本当はそんなに勇ましいものではなく、サラリーマンみたいなものだった⁉

そんなユニークな事実を伝える時代劇が、このところ松竹でコンスタントに発表されては好評を博しています。

今回はそんな松竹オモシロ時代劇をいくつか紹介していきましょう!

下級武士家庭の内情を描く『武士の家計簿』『武士の献立』

侍をチャンチャンバラバラの世界ではなく、サラリーマン社会的観点から描き、現在に至るブームのきっかけを作ったのは森田芳光監督の『武士の家計簿』(10)でしょう。武士の家計簿

原作は歴史学者・磯田道史の教養書で、これは加賀藩の御算用者(いわゆる会計処理の役人)を代々務めた下級藩士・猪山家の入払帳や書簡などから武家社会の風習などを分析したもの。

これを基に、映画は膨大に膨れ上がった猪山家の借金返済に奔走する8代目・猪山直之(堺雅人)とその家族の奮闘と家族の絆などが幕末から明治維新の動乱を背景に描かれていきます。

下級武士とはいえ、やはり侍としてのプライドや見栄が先行し、ついつい散財しがちな親(中村雅俊&松坂慶子/ともに好演!)たちを嘆かせつつ、売るものを売り、節約するところは頑張る主人公とその妻(仲間由紀恵)の涙ぐましさなどを微笑ましく見据えつつ、実は時を超えた現代の家庭と何ら変わらないことに人の世の悠久に想いを馳せられたりもします。

本作が好評をもって迎え入れられたことで、同じく加賀藩に包丁侍(将軍家や大名お抱えの御料理人のこと)として代々仕える舟木家に嫁いだ嫁(上戸彩)と、実は料理がまるっきり駄目な夫(高良健吾)の夫婦愛を描いた『武士の献立』(13)が製作されました。

(C)2013「武士の献立」製作委員会 

監督は『釣りバカ日誌』シリーズの浅原雄三ということもあって(西田敏行も出演!)、ユーモアとヒューマニズムを両立させたウエルメイドな作品に仕上がっていますが、劇中のエピソードに加賀騒動を盛り込むなど、起伏あるドラマ展開にも怠りはありません。

なお舟木家は足軽に近い身分ながらも大名家の健康を食の面から守り、饗応料理を作って藩の威信を示すなど、対外的にも重要なポストにあった実在の一族です。

金融経済面から時代を描く『殿、利息でござる!』

『武士の家計簿』同様、磯田道史による評伝『穀田屋十三郎』(『無私の日本人』所収)を原作に、18世紀後半の仙台藩吉岡宿の窮状を救った町人たちの実話を描いたのが中村義洋監督の『殿、利息でござる!』(16)です。

(C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会 

当時、仙台藩では宿場町間の物資輸送を行う「伝馬役」に藩から助成金が出ていましたが、吉岡宿は藩の直轄領でないために助成金が支給されず、町は困窮していました。

この惨状を案じた造り酒屋の穀田屋十三郎(阿部サダオ)らは、宿の有志で集めたお金を藩に貸し、その利息を伝馬役にあてようと画策するのでした!

その顛末がどうなるかは見てのお楽しみとして、こうした金融経済の面から時代劇を描こうというのも面白い試みで、今年公開されたばかりの『居眠り磐音』も両替のレイティングがドラマの大きなカギを握る作りとなっていました。

また本作の中村義洋監督は現在、山本博文『「忠臣蔵」の決算書』を原作に赤穂浪士の討ち入りに際して一体どれだけの費用を必要としたのかを描く『決算!忠臣蔵』を制作中(11月22日に公開予定)。

消費税がまた上がってしまうなど、人々の生活がどんどん困窮していく昨今、時代劇を見るにしても武士道云々よりも生活に密着したもののほうに興味を示すのも道理かもしれませんね。

理不尽な権力への反抗『超高速!参勤交代』2部作

国家権力の民衆に対する理不尽なイジメは今も昔も変わることなく、江戸時代にもこんな大変な事件が起きていました。

(C)2014「超高速!参勤交代」製作委員会 

『超高速!参勤交代』(14)は、第37回城戸賞を受賞した土橋章宏の脚本(13年には自身の筆で小説化)を基にしたもので、その内容は8代将軍徳川吉宗治政下の1735年、1年間の江戸勤めを終えて帰国したばかりの陸奥国磐城の小藩・湯長谷藩に突如再度の、しかもたった5日間で参勤せよとの命令が下されました。

これは無理難題をふっかけて湯長谷藩を取りつぶし、同藩が所有する金山を我がものにしようとする江戸幕府老中(陣内孝則)の謀略であり、しかし藩主の内藤(佐々木蔵之介)は少人数で山中を走り抜けつつ参勤を成し遂げるべく出立します。

一見ドタバタ・コメディ的なテイストの中から悪しき権力に対する反抗心など骨太の要素を巧みにまぶし、殺陣シーンなどのサービスにも怠りない一級のエンタテインメントに仕上がっています。

なお、本作がクリーンヒットになったことで製作サイドは「参勤(江戸行き)があるなら、交代(国へ帰還)もあるよね」といった理屈で、急遽続編を企画。現場スタッフは「そんな無茶な!」と、あたかも本作の湯長谷藩の面々のように困り果てつつも(⁉)、見事に『超高速!参勤交代リターンズ』(16)を完成させ、前作以上のスケール&サービス精神で観客を大いに喜ばせてくれました。

(C)2014「超高速!参勤交代」製作委員会 

この2部作のメガホンをとったのは本木克英監督は、今はなき松竹大船撮影所に浅原雄三監督と同期で入所し、いわば松竹大船調の伝統を共に受け継ぐ逸材で、今年は『居眠り磐音』を発表したばかり。

侍社会をメインの舞台としながらも、庶民の義理人情や喜怒哀楽こそを重視した大船調的な時代劇映画の制作は、やはり松竹ならではの賜物ともいえるでしょう。

(文:増當竜也)