©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC

先日ノミネート作品が発表された第92回アカデミー賞でも、作品賞・助演女優賞など6部門でノミネートされている話題作『ジョジョ・ラビット』が、1月17日から日本でも劇場公開された。

少年が空想上の友達であるヒトラーと仲良く遊ぶ予告編からは、少年の目から見た戦争がポップに描かれるブラックコメディ、そんな印象が強かった本作。気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものだったのか?

ストーリー

第二次世界大戦下のドイツ。10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、空想上の友達であるアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)の助けを借りて、青少年集団”ヒトラーユーゲント”の立派な兵士になろうと奮闘していた。しかし、心優しいジョジョは、訓練でウサギを殺すことができず、教官から”ジョジョ・ラビット”という不名誉なあだ名をつけられる。そんな中、ジョジョは母親(スカーレット・ヨハンソン)と二人で暮らす家の隠し部屋に、ユダヤ人少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)が匿われていることに気づく。やがてジョジョは皮肉屋のアドルフの目を気にしながらも、強く勇敢なエルサに惹かれていく──。

予告編

理由1:子供の目から見た戦争の現実が描かれる!

本作の舞台となるのは、第二次大戦末期のドイツ。母親と二人で暮らす10歳の少年ジョジョは、他の多くの子供たちと同様に軍人に憧れ、戦争で戦って国の役に立ちたいと思っている。

ただひとつ大きく違っているのは、ジョジョの想像力が生み出した空想上の友達”アドルフ・ヒトラー”が、困った時に現れてはアドバイスをくれたり叱咤激励してくれること!

そんな彼の目から見た当時のドイツの戦況や暮らしが、時にコメディ要素と共にポップに描かれる点は、予告編で抱いた印象や期待を裏切らなかった。

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だが本作で同時に描かれるのは、そうした夢や幻想に包まれた甘い世界だけではなく、ジョジョが体験する現実の惨さや戦争の恐怖であり、静かで美しいシーンから突然戦争の現実が突きつけられる演出により、観客が受ける衝撃がより増すことになる。

例えば、戦地から帰還した泥だらけの兵士たちが、無表情のままトラックで運ばれていく描写は、映画の序盤でジョジョに”ジョジョ・ラビット”のあだ名をつけた教官たちが、意気揚々とトラックで戦地に向かう映画序盤の描写と対をなしていて、実に見事!

更に、一見すると児童向けのファンタジーのような、ジョジョの空想上の友達設定だが、当時のドイツ国内がヒトラーを疑わない人々によって動いていたことを考慮すると、一気にこの設定が現実味と皮肉を帯びてくる点も上手いのだ。

その他にも、ジョジョが負傷した足のリハビリに通うプールの背景に、腕や足を失った戦傷者が映り込んでいたり、町の様子が厳しい戦況を物語るように次第に荒れていくのも、やがてくる解放の時を観客に予見させてくれる。

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軍人に憧れるジョジョは、友人のヨーキーと参加した訓練キャンプで先輩教官たちから「ウサギを殺せ!」と強要されるが、どうしてもできずに逃がしてしまう。それが原因で、臆病者”ジョジョ・ラビット”とあだ名を付けられてしまうことに…。

もちろん戦争中という状況でなければ、ジョジョの取った行動こそが人間として自然なのだが、当たり前のことをした彼が周囲からバカにされる描写は、その後に登場するエルサとの関係性を暗示するものとなっている。

更に、この訓練中のある事故で重傷を負ったジョジョが、結果的に兵士として戦場に送られることから回避され、自身も顔に傷を負ったことで、より弱者の身に立って考えることができるようになる点も、彼がエルサに対して取る行動に説得力を与えてくれるのだ。

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加えて、家に匿っていたエルサと接する中で、ジョジョが次第に自身の偏見や世界への見方を変化させていく様子が、今まで注意を向けなかった景色や自然の美しさに彼が気付くという描写で語られる演出は素晴らしく、特にジョジョが青い蝶を見つけて思わず追いかけるシーンは、その後の展開と併せて観客に強い印象を残すので必見!

周囲の子供たちのように、軍人として国のために役立てない自分への苛立ちと、自身に降りかかる大きな不幸を経て、10歳のジョジョがどのような成長を遂げるのか?

ジョジョが持つ少年としての豊かな感性や発想と、戦争の恐ろしさを対比させた本作は、アカデミー賞ノミネートも納得の素晴らしさとなっているので、ぜひ彼の成長を劇場でご確認頂ければと思う。

理由2:子供に正しい生き方を教える大人たちが素晴らしい!

ジョジョやエルサなど、戦争の中で生き抜く子供たちの姿が印象的な本作だが、自身の行動で子供たちに正しい道を示す大人たちの姿も、この作品の大きな魅力となっている。

例えば、子供の鋭い感性や可能性を否定することなく、戦時中にあっても人として正しい生き方を息子に教えるジョジョの母親。そして、一見いいかげんな男に見えて、ジョジョに男としての生き方を身をもって示すクレンツェンドルフ大尉など、当時のドイツ国内の大きな流れに飲み込まれなかった大人たちの存在が描かれることで、ジョジョが空想上の友人に決別する描写が、あれほど観客の心に刺さることになるのだ。

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ヒトラーユーゲントの訓練で負った大怪我のため、兵士ではなく奉仕活動や雑用に回されたジョジョの上司となるのが、同じく戦場で片目を失ったために後方業務に回された、クレンツェンドルフ大尉。

表面上はドイツ軍からドロップアウトしたかのように見える彼だが、これはそのままジョジョの境遇と将来を連想させるものでもある。

特に、2年間も音信不通のため、軍や世間の人々からは脱走した臆病者と思われている父親の汚名を晴らすためにも、軍人として国の役に立ちたいと考えるジョジョに対して、クレンツェンドルフ大尉が見せた男の生き方は、大人の責任だけでなく父親代わりの愛情をも思わせて実に見事!

後述する母親役のスカーレット・ヨハンソンの演技だけでなく、クレンツェンドルフ大尉役のサム・ロックウェルにも、ぜひご注目頂ければと思う。

理由3:出演キャスト陣の演技が素晴らしい!

前述したサム・ロックウェルと並んで、今年のアカデミー助演女優賞にノミネートされた、ジョジョの母親役のスカーレット・ヨハンソンの演技は、戦火の中にあっても人間らしく行動することの大切さと、子供に夢を与え続ける母親の強さ・優しさを表現する素晴らしいものとなっている。

中でも印象的だったのが、ジョジョの前で父親の扮装をして一人二役を演じるシーンの、見事なコメディ演技。

夫が不在の中で政治活動に身を投じている彼女の二面性を表現する名シーンでもあるので、ここはぜひお見逃し無く!

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もちろん他の出演キャスト陣の演技も素晴らしいのだが、中でも主人公のジョジョを演じたローマン・グリフィン・デイビスは絶品! しかも、なんと本作が映画初出演というから驚かされる。

将来的に、まだまだ可能性があるとはいえ、彼が主演男優賞にノミネートされても良かったのでは? そう思わずにはいられなかった。

『パラサイト 半地下の家族』が有力候補とされているが、ある意味同じ要素を持つこの『ジョジョ・ラビット』にも、どうかアカデミー賞を獲って欲しい! 鑑賞後にそう思わせる作品なので、全力でオススメします!

最後に

現代ではストレートに描くのが難しい題材を、少年の目から見た心温まるコメディに仕上げることで、子供から大人まで幅広い観客層に届けることに成功した、この『ジョジョ・ラビット』。

事実、自分が鑑賞した公開2日目のレイトショーでは、小学生の子供2人を連れた親子4人での来場も見受けられたほど。

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本作で印象的だったのが、ドイツ軍の戦況が不利になるにつれて、クレンツェンドルフ大尉の軍服の着こなしが次第にだらしなくなっていったり、街中のポスターが剥がれるままになっているなど、やがて来る解放の時をビジュアルで分からせる演出だった。

中でも、エルサとの出会いにより、ジョジョの服装がヒトラーユーゲントの制服から次第に変わっていく描写で、彼の心境の変化や成長を代弁させるのは見事!

加えて、ジョジョが玄関の階段に立つことで、彼とエルサの目線が同じ位置にくるという描写も、戦争によって歪められた子供たちの人生が、お互いを理解した状態で同じスタートラインから始まることを観客に理解させて、実に上手いのだ。

大きな流れに飲み込まれようとしているドイツの中で、社会や祖国に逆らいながらも、人間として正しい行動を選択した人々と、その手本となる姿に自分の偏った考えを改め、大人として成長した主人公ジョジョの自信に溢れた笑顔が印象的な、この『ジョジョ・ラビット』。

国家によって与えられていた、ユダヤ人に対する間違ったイメージや情報、そして戦争で受けた恐怖や迫害に囚われることなく、お互いに悲しみを超えて共に新たな一歩を踏み出そうという本作のメッセージは、現代にこそ必要なものではないか? そう思わずにはいられなかった。

確かにジョジョは、この戦争であまりに多くのものを失い、自身の顔にも大きな傷跡を負ってしまった。

だが、本作のラストで見せるジョジョの笑顔こそは、まさに”勝利の微笑み”であり、同時に、一人前の男として愛する女性を守ることを決意した”男の顔”に他ならない。

“死”や”敗戦”、そして何よりヒトラーの自殺という、それまでの自身の価値観が根底から覆される状況に陥ったジョジョが、自身のエゴよりもエルサの幸せを選択した行動。更に、そこから正々堂々と新たな関係性を作り上げようとする前向きな姿勢には、世界中のどこかで絶え間なく続く戦争行為を止めるための答えが秘められている、そんな考えを抱かされた本作。

間違いなく多くの観客の心に残る名作なので、ぜひ劇場で!

(文:滝口アキラ)