(C)Jacek Drygala

7月22日(土)より公開となるポーランド映画『君はひとりじゃない』。

第65回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞し、ポーランドのアカデミー賞であるイーグル賞では作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞を受賞。父と娘の再生を不思議なセラピストを交えて描いていく作品です。

シネマズでは今回マウゴシュカ・シュモフスカ監督へ電話インタビューを実施。この映画をご覧になられた方の映画の解釈がより深いものとの思いから、映画制作の道のりを中心にお話を伺ってきました。

──まず映画を拝見させて頂き、様々なことが起こる中でラストに父娘の心が通い合うというある種人生の本質へとたどり着く感動のラストが印象的でした。素敵な時間を頂けたことに感謝申し上げます。本国、そして海外でお客さんの反応はいかがですか。

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 ありがとうございます!(ラストシーンについてではないですが、)本作はベルリン国際映画祭のコンペでプレミアを行いましたが、諸外国の観客の皆さんが大笑いした一方でポーランド人はそうでもありませんでした。割と“ポーランドの文化とは”という具体的なところをついているユーモアな作品なのでポーランドの国民は至って真面目に観ていたようです。

──脚本もご自身で執筆をされていますが、どのような経緯で映画作り(脚本執筆)へ至りましたか。

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 当初は拒食症をテーマにした話にしようとしていました。しかしそれではあまりにも幅の無い、多くの人に語りかける映画にはならないと思い、“オルガ”というキャラクターをつくり、彼女と父親の関係を描くストーリーにしました。そんなときにプライベートで偶然アンナに似た女性に会いました。彼女は非常にスピリチュアルな人でヘンテコなことを言う人だったんです。それでその彼女に基づいたキャラクターを創造しました。そして、もともとこの父親役はヤヌシュ・ガヨスに演じてもらうことは決めていました。彼が、代々的に公開されている他の作品で検察官を演じていて、同じ役をやってもらうわけにはいかなかったんですけど、本作でも非常に検察官役が合っていました。映画って色んなパズルが上手くハマって進んでいけばこういうミラクルが起こるんですよね。

(C)Jacek Drygala

──父娘でこの物語を描こうと思った理由は何でしょうか。(母娘、母息子、父息子などの選択肢がある中で)

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 これは私の非常に個人的なところから来るのかもしれませんが、私は父と非常に強固な関係であり、幸い良好な関係でした。父は13年前に亡くなっているのですが、その父からは多大なる影響を受けました。。本作に出てくる父と娘は良好な関係ではないので、自分の経験を反転させたものなのかもしれません。

──撮影のミハウ・エングレルトさんと共同脚本ですが、どのようなやり取りで進められましたか。

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 私はミハウ・エングレルトとはよく組んでいて、彼は珍しく脚本を書く撮影監督なんです。彼と一緒に世界観をどういう風に描くか話合いを1年がかりで重ね、構築していきました。そしたらあのような世界観になったんですけど、なぜああなったかは今は言い表せないですね。

(C)Jacek Drygala

──セラピストがセラピーの方法含めかなり個性的で強烈な印象を残します。あの着想はどこからきたのでしょうか。(実在の方をモチーフにされていたりするのでしょうか)

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 何人かの知り合いをベースにしています。スピリチュアル系のお店を経営している面白い女性がいて、スピリチュアルな話を仰々しくするんです。その人をキャラクターにしたいと思ったのが1点です。また、セラピストをしている人にも会う機会もあり、その人をキャラクターにしたいと思いました。その2つがミックスされてアンナというキャラクターが出来上がりました。演じたマヤ・オスタシェフスカも面白い人で、仏教徒で結構スピリチュアルな人なんです。そういう彼女自身の要素もあって上手く体現してくれました。そして彼女自身からも色々な要素が加えられました。

──摂食障害の患者さんは見ていて辛い部分がありましたが、あの撮影はどのようにされておられるのでしょうか。

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 拒食症の患者を演じた少女達は実際Facebookで募集しました。その中にオルガを演じたユスティナ・スワラもいました。ユスティナ自身は拒食症を患っているわけではないので、数キロ落とすようにお願いしました。そんな彼女は実際はファーストフードばかり食べる子なんですよ。他の女の子達は過去に拒食症を患っている子もいました。拒食症はずっとついて回る病気なので、100%回復しているというわけではありませんでした。皆さんに1日だけ撮影をお願いしたいと言ったら、OKと言ってくれて、セラピーシーンはドキュメンタリータッチで撮影されました。実際にその場にいた本物のセラピストは「非常に彼女たちの心が浄化されるような体験になったね。」とお話してくれました。あのシーンでオルガが泣く場面がありますが、あれはユスティナが演技が上手くいかないフラストレーションで泣いているんです。あれは芝居ではないリアルな涙なんですよ(笑)

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──摂食障害の患者さんを描くに当たって、ユスティナ・スワラさんへはどのような演技指示をされましたか。

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 ユスティナはもともと激やせしている女の子ではないので5キロ体重落としてくれと頼みました。ピザばかり食べる子でまずは3キロ落としてもらって、さらにまた落としてと頼んで、と徐々に落としてもらいました。面白いことに彼女は撮影後にみるみるうちに太っていきました(笑)

──クライマックスのシーンの意図や思いを教えてください。

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 あのラストは徐々に作られていきました。丸一日あのシーンのためにスケジュールを確保していたので、色々やってみました。最初は脚本に色々とセリフが書き込まれていましたが、セリフが上手くハマらずセリフの無いラストになりました。そしてユスティナが涙目になるよう私が彼女を説き伏せながら撮影をしました。それを見ていた父役のヤヌシュ・ガヨスが当初は泣くのは僕の主義ではないと言っていたのですが、ユスティナが泣くのを見て、僕も泣くしかないなとパッと泣いてくれました。最後に“You’ll never walk alone”という曲が流れますが、これはリバプールFCのサポーターソングとして有名なわけですけど、編集中にこの曲を使おうと思いつきました。

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──映画では亡くなった方との交信が描かれますが、非常に感動的で説得力を持つものに真相が明かされるまでは思いました。監督自身は何かこういう不思議な体験をされたことはありますか。

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 そういう説明がつかないような体験はしたことはないんです。元々私は実利主義ですので、そういうスピリチュアルな考え方からは距離を置くようにしています。

──大切な人を失う喪失感と、そこからの再生を描いていますが、監督にとっての「大切な人を失うことと、そこからの再生」は映画で描かれていることそのものですか。

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 この映画は喪失とその回復を描いていますが、それと同時に現代においていかに人と人がいかに向き合えていないか、コミュニケーションがとれていないかということを描いています。この父と娘を見ていてもわかりますが、お互いがそれぞれに悲しみに打ちひしがれていてお互いを見つめ合えていない。アンナも自分の赤ちゃんを失ったことにさいなまれていて、他の人とのコミュニケーションがうまくとれていないということを描いています。だから喪失ばかりに目を向けるのではなく、いまこの瞬間現実に目を向けることが大事なんだと伝えたいです。非常に仏教的な事を描いています。つまり‟禅“的なことですよね。

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──日本では、喪失感や孤独感を抱いて生きている方がたくさんいます。そんな日本人へこの映画の魅力を含めたメッセージを頂けますか。

マウゴシュカ・シュモフスカ監督 日本で公開してもらえることが、大変誇りに思いますし本当に嬉しいです。『君はひとりじゃない』はキリスト教であっても仏教であっても無宗教であってもそれらすべてを受け入れるような懐があります。異文化と言えど日本の皆さんにも共感してもらえるとこがあるんじゃないでしょうか。

(取材・文:柳下修平)