7月15日(土)より公開中の映画『アリーキャット』は、ハリウッド進出を果たした窪塚洋介、結成20周年を迎えたDragon AshのKjこと降谷建志が初タッグを組んだ話題作。そんな『アリーキャット』の榊英雄監督に単独インタビューを実施し、作品の見どころ、撮影秘話などをお聞きしてきました。

あらすじ

(C)2017「アリーキャット」製作委員会

怪我の後遺症に悩みながら警備員のアルバイトで食いつなぐ元ボクサーのマルと、自動車整備工場で気ままに働くリリィ。猫がきっかけで出会った2人が、ひとりの女性を守るために奮闘する物語。

── 本作『アリーキャット』をつくることになったきっかけと、2人をキャスティングした背景などをお聞かせいただけますでしょうか?

榊英雄監督(以下、榊) プロデューサーの中野さんと、「最近、男くさい映画が少ないよね」って話をしていて。青春ものもいいけど、オリジナルで何かやりたいという話になったことがきっかけです。

それで、男の話ならバディ・ムービーがいいよねって話になったんです。(※バディ・ムービー:2人の主人公が活躍する映画)

自然とマルとリリィというキャラクターが生まれ、同時に窪塚洋介君をキャスティングしたいとなりました。そのあとに、リリィを演じるのは役者なのか、それとも違う人をぶつけるのかと悩んでいたところに、Kjこと降谷建志君が役者をもっとやってみたいという話を聞いて、それでオファーしました。

(C)2017「アリーキャット」製作委員会

キャスティングに関してもっと言えば、昔の窪塚君であればリリィなんですよ。そして、パブリックイメージから言えば、降谷君がマルっぽい。でも、僕はマルの方を窪塚君にしたいし、降谷君はなんとなく愛嬌のある人なのではなかろうか、という想像の中でリリィの役を振りました。それが結果として大正解となりました。

窪塚君も「何も言われなかったらリリィの方をやりたかった」と言っていましたが、自分の中で何か挑戦したい、違う面を出したかったところもあったと思います。僕自身、『池袋ウエストゲートパーク』とか『ピンポン』などのいわゆる窪塚テイストをいまさら撮りたくないというエゴもありました。

その結果、マルはどこか冷めていて、リリィは愛嬌のあるキャラと、2人をしっかりと分けることができましたね。でも、やっぱり役者同士、楽しいとついそのキャラクターを超えたくなるわけで、窪塚君にはずっと我慢してもらいました。途中で「つらかったっすよ、監督…」なんてこともありました(笑)。

── タイトルの『アリーキャット』(意味:野良猫)は後から付けられたものだとお聞きしましたが、どのようにして決められたのでしょうか?

もともとは『アーリーキャット』だったんですよ。仮題として。でも、英語が達者な人たちに聞いてみたら、アーリーよりアリーの方が良いなんて意見もあって。それで現場でもみんなでいろいろ考えてみたんですよ。

「ランブルキャットはどうですか?」 それだと強すぎる。

「プッシーキャットはどうでうか?」 いやいやそういうことじゃない。

みたいな。で、やっぱり弱くて、それでいて強くもない感じがいいから、1番ベースの『アーリーキャット』から『アリーキャット』になったんです。

── 撮影期間が2週間ほどしかなかったそうですが、苦労されたエピソードと逆に短くて良かったエピソードを教えてください。

榊 できれば大予算で2カ月ほどゆっくりと、みんなでランチを座って食べながら撮影したいところですが、そういう状況じゃないときの方が多いです。天候にも左右されますし、大雪が降って中止になったこともありました。1日撮影が延びると、頭の中でチャリンチャリンと経費を計算しなくてはいけないわけで…。

ただ、主演の2人のスケジュールや、制作費の中でいうと、あと何日間しかないってなったとき、その日に撮りたいもの、撮らなくてはいけないものを調整し、別日で何を撮るかなど瞬間瞬間で判断しなくてはいけない。

結果、全員がぎゅっと集中して、この2週間に相当なエネルギーを使ったのは事実なんですよね。2週間で撮り上げないといけないっていうプレッシャーがありますから。撮りこぼしちゃいけない、リカバーの予備日がないんですよ。雨が降ってほしくないと言っても、降っても撮るしかないこともある。

そのときそのときにどうするかってことに対しての執着と集中力がものすごく芽生える。これが1カ月だったらもっと違う作品になっていたと思います。長い期間の撮影もそれはそれで良いんですけど、集中力を切らさないように撮ることは大変ですからね。初めから終わりまで、1日をすごく濃厚に考えていましたよ。

── 作中にて、ナポリタンとコーラを頼むシーンがあります。浅野忠信さん主演の『Helpless』でもその組み合わせが出てきますが、意識されたのでしょうか?

榊 ほんとですか? 青山真治監督のでしょ? どうしてでしょうね。僕がナポリタンとコーラを指定したんですよ。多分それを見てたのかなぁ…。

青山さんは同じ九州人同士の先輩後輩なので、好きなことを言い合える仲なんです。最近は、青山さんのことを嫌いって本人にも言えるくらい。もしかしたら青山さんへのリスペクトがあったのかもしれない。言いたくないけど。これは書いておいてください(笑)。

── コーラに関しては作中でも何度か出てきますが、なぜお酒ではなくコーラだったのでしょうか?

榊 お酒に逃げたくないっていうのが1つあります。あまりお酒のパートがないこともありますが。あと、コーラの瓶ってセクシーな感じがするんですよ。あのちっちゃい瓶って。

最近も子どもたちとお台場に遊びに行った時に、瓶のコーラが入った販売機があって。自分で栓を抜くタイプの。すぐに買いましたもん。なぜかみんな飲んでるんですよね、子どもだけじゃなくて、お父さんもお母さんも。

あの何とも言えない瓶の魅力を2人の珍道中の旅にいれることで、無理にお酒を入れる必要はなかったですね。

── マルとリリィの2人。いつかは大きいことをしたいと思いながらも、実際に目の前で大きな事件が起きた時にビビってしまうダサいところが「あるある」で印象的でしたが、男ってそういうものですよね。

榊 ヘタレの男2人ね。(笑)

なんかこう…路地裏の猫じゃないですか、アリーキャットって。すみっこに生息しているにすぎない。生きているっていうよりも生息しているような猫。マルとリリィもそんな猫のような人間なんですよ。

まあ多分、負けも知っていれば勝ちも知っているけど、負けが多くて今の感じになってる。その中で、日々生息する感じで生きている中で、たまたま大きいことをやろうってきっかけが来て、表に出ようとするんだけど、大通りだと車が多いからビビってしまう。

で、「行けぇー!」って勢いで渡っちゃうんですよ。そこで車にはねられて死んでしまう猫もいれば、渡りきる猫もいるようなもの。1回ひかれたけど何とか戻ってきたりして、また渡ろうとするとか。そう考えると2人のことがすごくわかりやすくなるかと思います。

── 三浦誠己さん演じる経営コンサルタント・柿沢が1番怖かったです。柿沢というモンスターをつくるにあたり、モデルにした人物などはいるのでしょうか?

榊 やっぱり大事な悪役は欲しいと思っていました。ただし誰かをモデルにするというよりは、誰が演じるのかってところから入りますね。僕はどうしても三浦誠己さんにやってほしいと思っていました。

(C)2017「アリーキャット」製作委員会

僕の大好きな俳優の1人で、できれば全作品にどんな形でも出てほしいと思っている役者さんです。そんな彼が興味を持って、演じたいと思わせるような役を書いてくれと脚本家に依頼しましたね。

表面的には笑顔なんですけど、頭を下げるのはご飯を食べるような、日々のなんでもないことでいくらでも下げられますよ、みたいな。でもその心持ちはものすごくどす黒い。そんな男を彼が演じてくれたので良かったですね。裏も表も精通していて何が何だかわからないけど、1番悪いのはお前だ、とはっきり言えるような。

でも、もっと悪いのは市川由衣さんの役の冴子なんですけどね。「お前と出会ったばっかりに…」みたいな。(笑)

(C)2017「アリーキャット」製作委員会

── その市川由衣さんが演じる冴子ですが、かなりきわどいシーンがありますよね?

やっぱり俳優にとってそこはナーバスになるところですから、もちろん市川さんも心配だったと思うので、大丈夫だよって話をしました。高川裕也さんとのシーンでしたので、高川さんと段取りを確認しながら、それを説明して、やってもらったんです。

── 火野正平さんに2人がガチで蹴られるシーンがありましたが、撮影現場ではどのようなやりとりがあったのでしょうか?

榊 火野さんには思いっきり、本気でやってくださいとお願いしました。となりでリリィこと降谷君が「え?」って言ってましたけど(笑)。

ちゃんと痛くないところを蹴ってくれるよって言ってたんですけど、全然思いっきり蹴ってましたね。アザになっちゃったみたいですけど、みんな楽しかったみたい。2人とも「勲章ですよ」と言ってくれて。

(C)2017「アリーキャット」製作委員会

あそこをゆるく流していると、2人のシーンを割らなくちゃいけなくなりますから。少しはカットを入れてますけど、できればあれを長回しで、引きで撮りたかったのでありがたかったですね。

── 監督ご自身は、マルとリリィ、どちらが自分に近いと思われますか?

榊 (即答で)リリィですね。僕がリリィをやったら降谷君とは違うリリィをやります。ってそれじゃ話にならないですね(笑)。

でも、やっぱり僕はリリィですね。マルはどうしても出来ない。そういうタマじゃないし。

── マルはあまりふざけるところがないですからね。

榊 ないですね。でもそれが今の窪塚君だと思うんですよね。『池袋ウエストゲートパーク』をやってた頃から抜けた感じの。新しい考え方を自分の中で確立しているからこそ、今のマルをやれたというか。

これまでならリリィのように動いていたはずだけど、そこじゃなくて。もうリリィの年齢を過ぎていると言うか。格好とか、経験とか。みんな大人ですよね、もちろんリリィを演じてくれた降谷君も。

── 最後に、シネマズ by 松竹の読者へ絶対に見たくなるひとことをお願いします。

榊 やはり窪塚君と降谷君の2人ですよね。マルとリリィ。2人のコンビ感とお芝居。世代の中のスターだしカリスマでもあるけど、その前にしっかりと素敵なドラマを2人が演じてくれている。

映画という虚構の中で旅をするならば、素晴らしいベストパートナーであり、ガイドであること。小さな小さな旅ですけど、時にはジェットコースターのように、時にはすごく静かな映画になっています。ぜひ2人と一緒に楽しんでもらえたらと思っています。

(取材・文・撮影:ゆうせい)

公式サイト http://alleycat-movie.com/