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 現在、『メアリと魔女の花』が大ヒット上映中ですが、ではみなさんは魔女の存在を信じますか?

かつて、本当に魔女が信じられていた時代がありました。いや、今もアメリカ人の半数以上が悪魔の存在を信じているというデータもあります。

西洋の各地に伝わるさまざまな魔女伝説、その奥に秘められたものとは……

《キネマニア共和国〜レインボー通りの映画街vol.246》

映画『ウィッチ』は、そうした人の心の闇の中から魔女の存在を民俗学的見地から問うた、ホラーともオカルトともダークファンタジーともつかない恐怖を描いた、この夏見逃し厳禁の大穴的傑作なのでした!(見る前から何となくすごそうな予感はしていたけど、見たら本当にすごかった!)

魔女という概念に囚われ疑心暗鬼に陥る家族の恐怖

映画『ウィッチ』の舞台は、1630年のアメリカ、ニューイングランド。

新天地を求めてイギリスから移住してきた清教徒が暮らす村の中で、特に敬虔な一家の家長ウィリアムが教会と対立して村を出て、森の近くに荒れ地に小屋を建てて住み着きます。

そんなある日、5人兄弟の長女トマシンがほんの一瞬目を離したすきに(それこそ「いないいないばあ」の「いないいない」で目を手で覆った瞬間)、末弟の赤ん坊サムの姿が消えてしまいました。

狼のせいなのか? それとも魔女のせいなのか?

やんちゃな双子のひとりマーシーが姉のトマシンをなじります。そのときトマシンは、つい「私が森の魔女なのよ」と嘘をついて、聞き分けのない彼女を脅してしまいます。

やがて一家の困窮を憂う長男ケイレブは獲物を獲りに、両親から決して入ってはいけないと禁じられている森の中へ、たまたま彼を見かけたトマシンとともに入っていくのですが……。

まず本作は、いわゆるCGや特殊メイクによるショッカー演出を主眼としたホラー映画ではありません(決してそういった描写が皆無なわけではありませんが……)。

では魔法などが出てくるダーク・ファンタジーかというと、そうでもありません(決してそういった描写が皆無なわけではありませんが……⁉)。

ここで描かれるのは、信仰心の篤い一家族が、それゆえに“魔女”という概念にとらわれ、疑心暗鬼に陥っていく恐怖であり、いわば人間の心の闇を民俗学的かつ高尚なエンタテインメントとして鋭くえぐったものであり、この世は神と悪魔が紙一重の世界であることを痛感させられる作品なのです。

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一度入り込んだら逃れられないじわじわとくる恐怖

過剰な信仰心と家族を守らなければならない使命感に囚われ、その不安を打ち消すように斧で薪を割り続ける姿が印象的な父ウィリアム。

村を出て困窮した生活に疲れ、ストレスのはけ口のように唯一の息子ケイレブを溺愛し、逆に何かとトマシンにつらくあたる母キャサリン。

初潮を迎え、心と身体がアンバランスな多感な時期をおし隠すかのように、敬虔さを保とうとする長女トマシン。

そんな姉の胸のふくらみに心どよめてしまう思春期に突入したばかりの長男ケイレブは、一方では少しでも父と家族を助けようと、幼い心を奮いたたせています。

神話伝承に欠かせない存在でもある“双子”のマーシーとジョナスは、ときに悪魔の化身とも例えられる黒ヤギにフィリップと名付け、彼と会話ができると無邪気にうそぶいています。

赤ん坊のサムは、一家が村を出たことで、未だに洗礼を受けることができないままでした。

このように、家族のひとりひとりにどこかしら負の部分を持たせながら、映画は淡々と、しかしながら着実に彼らを闇の領域へと誘っていきます。

では、その果てにもたらされるのは?

監督は、これがデビューとなったロバート・エガース。ここでは17世紀のニューイングランドの人々の生活や言葉のなまりなど徹底的に調べ尽くした上で自ら脚本を記し、当時の人々の心理をリアルに描出することに腐心。その結果、サンダンス映画祭監督賞など世界中のインディペンデント系やファンタスティック系映画祭で喝采を浴び、現在はサイレント時代のホラー映画の名作『吸血鬼ノスフェラトウ』(22)のリメイクに臨んでいます。

長女トマシンを演じるアニヤ・テイラー=ジョイは、信仰と迷信が混在する時代を生きる10代の少女の葛藤を見事に演じ、M・ナイト・シャマラン監督『スプリット』(16)ヒロインに抜擢されました。今後の活躍も大いに期待したい逸材です。

本作の本当の主役とでもいえる、枯れた森の不気味な風情も見逃してはいけないところで、色を抜いたかのような曇天を活かした映像美も巧みに作品にマッチ。音楽はそれ自体が悪魔の動きを擬音化したかのような効果をもたらすなど、スタッフワークも絶品。

絶叫アミューズメント型の映画ではありませんが、一度この世界観の中に入り込んだが最後、もう抜けられないほどの恐怖がじわじわと見る側に迫ってきます。

そしてラスト、ネタバレは避けますが、そうなってしまったのか⁉ といったカタルシス、ぜひ体感してみてください。

少なくとも、映画ファンを自負する方でこれを見逃してしまうのは、あまりにももったいないと断言しておきます。

個人的には、今年のベスト・テン入り間違いなしの傑作です。

(文:増當竜也)