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暑いですね……。

こんなときは冷房の効いた映画館が一番ではありますが、夏休み映画は往々にして活気のあるイケイケなものが主流で、ときにはひんやりと甘く涼しい、ほんでもって、少しほろ苦い大人のアイスクリームのような映画も見たいもの……

《キネマニア共和国〜レインボー通りの映画街vol.248》

韓国映画『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』は、そんな気分のときにぴったりな、ファンタスティックながらも最後には人生の機微について深く考えさせられる作品です。

妻を亡くした男と意識不明の女、その魂の交流の果てに……

『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』は、保険会社の調査員ガンス(キム・ナムギル)が主人公。妻を事故で亡くして無気力な日々を過ごす彼は、会社が手をこまねいている案件を担当することになりました。

車にはねられ、2か月も意識不明の状態にある女性ミソ(チョン・ウヒ)。

自殺の可能性ありとして、何とか示談に持ち込みたい会社の意を受けて、ガンスはミソが入院する病院へ赴きます。

ベッドに横たわったまま動かないミソを確認するガンス。

そのとき、背後から彼に声をかける女性がいました。

ミソそっくりのその女性は、不思議なことに、ガンスしかその姿を見ることができません。

鏡にも映りません。

どうやら彼女は事故に遭ったその日から、魂が肉体を抜け出してしまったようなのです。

生きているから、幽霊ではありません。

これがホラー映画なら、生霊とでも表記したいところですが、本作はあくまでもロマンティックな衣をまとわせたビターなファンタジック・ストーリーです。

視覚障碍者でもあるミソですが、肉体を抜け出している間は目が見えているようです。

ミソに振り回されつつ、彼女の生い立ちなど調べていくうちに彼女のことが気になりだしていくガンスは、同時に会社との板挟みに陥っていきます。

果たしてミソの事故の真相は? 

そしてガンスの空虚な心の彷徨の行き着く先は?

人生の哀しき機微をあくまでも人肌感覚で

主人公ガンスには、『パイレーツ』(15)や『無頼漢 乾いた罪』(15)『花、香る歌』(16)など、甘いマスクの中にどこかしらシニカルな憂いを秘めた個性で日本でも人気を集め続けているキム・ナムギル。

ミソ役には、『母なる証明』(09)や『サニー 永遠の仲間たち』(11)で注目され、『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』(14)で青龍映画主演女優賞を受賞した若手実力派女優のチョン・ウヒ。今年日本で公開された問題作『哭声/コクソン』(16)でも熱演しています。

監督・脚本は平安寿子・原作の『アドリブ・ナイト』(08)『素晴らしい一日』(11)、井上荒野・原作の『愛してる、愛してない』(13)と、日本の小説の翻案映画化で注目され、近作に『男と女』(17)があるイ・ユンギ。

本作の魅力は、保険会社というある種クールに立ち回らねばならない職務に就く男が、最愛の妻の死と、その直後に出会った女性の魂との邂逅によって、いつしか人の情に気づかされていく過程と、複雑な境遇にある女の哀しみが果たして癒されていくのか、そしてふたりの間に芽生えていくものを、熱くならず、かといって褪めすぎない、いわば人肌感覚の程良さで描出していくところにあるでしょう。

その一方で、なぜガンスが厭世的になってしまったのか、やがてその理由も明らかにされていきますが、これによってミソの立ち位置が俄然映画的に活きることになるとともに、本作独自の根底に哀しみを帯びた人生観が徐々に露呈していきます。

主演ふたりの好演も大いに作品に貢献しており、特にチョン・ウヒのさりげない明るさの奥に秘められた哀しみの発露には舌を巻きます(今、この役を演じられる日本人女優はいるだろうか……?)。

そしてラスト。ネタバレは避けますが、正直、観る前はヒンヤリとした甘くほろ苦いアイスクリームを想像していたものの、観賞後はおよそ今の日本映画ではありえない、しかし韓国ならではの伝統的思想に裏打ちされた結末といっていいかもしれません。

ある意味、カップルで見るのにもっともふさわしい作品といってもいいでしょう。

(文:増當竜也)