■ディーゼルハイブリッドではなく、CX-60の本命モデルは間違いなくPHEV
マツダのSUVラインアップは、3列シートSUVブームを築いたフラッグシップSUVのCX-8からコンパクトSUVのCX-3まで、計5車種と充実しています。さらに2022年9月からは、新世代ラージ商品群の第1弾モデルであるCX-60を追加し、6車種となりました。

CX-60は新開発の縦置きエンジンプラットフォームと高出力パワートレイン。さらに、最新の環境・安全性能や安心感を提供する新世代SUVとなっています。
すでに、e-SKYACTIV-Dと呼ばれる3.3L直列6気筒ディーゼルターボ+48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載したXD-HYBRIDには試乗していますが、今回はマツダ初のe-SKYACTIV PHEVと呼ばれる2.5L直列4気筒エンジン+モーターのPHEV(プラグインハイブリッド)システム搭載車を約1,000kmのロングドライブすることができましたので、インプレションを紹介します。

CX-60は、今回試乗した2.5LエンジンのPHEVシステムであるe-SKYACTIV PHEVをはじめ、3.3L直列6気筒ディーゼルターボ+48Vマイルドハイブリッドシステムのe-SKYACTIVE。
さらに3.3L直列6気筒ディーゼルターボのSKYACTIVE-D3.3、2.5L直列4気筒ガソリンエンジンのSKYACTIVE-G 2.5という4種類のパワートレインを設定しています。

この4種類のパワートレインに組み合わされるトランスミッションは、新開発のトルコンレス8速AT。従来モデルより多段化され、滑らかで応答性の良い変速と優れた燃費性能を両立しています。

駆動方式は、高いトラクション性能と理想的なハンドリング特性を実現した、ハイパフォーマンスなシステムであるi-ACTIV AWDと呼ばれる4WDを中心に、2.5L直列4気筒ガソリンエンジンを搭載した25Sと、3.3L直列6気筒ディーゼルターボのXDには2WD(FR)も用意されています。

今回試乗したのは、CX-60 PHEV プレミアムモダンで、車両本体価格は626万4500円。CX-60の最上級グレードで、ドライバー・パーソナライゼーション・システムパッケージやパノラマサンルーフも標準装備した豪華仕様です。

CX-60 PHEVプレミアムモダンが搭載しているパワートレインは、最高出力188ps・最大トルク250Nmを発生する2.5L直列4気筒自然吸気エンジンに、最高出力175ps・最大トルク270Nmを発生するモーター。そして17.8kWhのバッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッドシステムです。
エンジンとモーター、そしてモーターとトランスミッションの間にそれぞれクラッチを設置し、モーターのみ、エンジン+モーターという走行シーンに合わせて最適なモードで走行します。燃費性能はWLTCモードで14.6km/L。満受電時のEVモードでの走行可能距離は74kmです。

CX-60 PHEVは多様な充電環境に対応しています。200V 6kWの普通充電では、残り0%でも3時間で満充電となりますし、CHAdeMO規格に対応した急速充電器ならば、20%から80%まで約25分です。
またCX-60 PHEVは、車両に搭載された大容量電池から家庭用電気機器などに給電できるV2L。また充放電設備を介して、家の電力として利用できるV2Hにも対応しています。

今回試乗したのは2023年の交通安全を祈願して東京から伊勢神宮に初詣を行い、新名神から滋賀県でUターンして名神高速で帰京するプランでした。
しかし、ロングインプレッションを行う直前に大雪によって新名神高速が長時間の通行止めとなり、往路を東京から東名・新東名そして名神を経由して滋賀で1泊。復路で新名神を利用し、伊勢神宮でお参りして東京へ戻るというルートに変更を余儀なくされました。
●磨きの掛かったADASと欧州を意識した乗り心地で1000kmを疲れ知らずで走破

試乗車のCX-60はスタッドレスタイヤを装着していますが、一般道でその効果が発揮されただけで、高速道路はほぼドライ路面でした。高速道路では全車速追従機能付のマツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)をフル活用して走行します。

レーンキープ・アシスト・システムの介入も非常に自然で、自分が動かしているのか、システムが行っているのかがわからないぐらいです。今回のロングドライブで進化を感じたのが、マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)の制御です。

これまでは、先行車に追いついてから車線変更を行い追い越ししようとすると、車線変更してから、加速するまでに若干のタイムラグがありました。
しかしCX-60はこの部分が解消されていて、車線変更が終わるとすぐに加速してくれるので、ストレスを感じなくなりました。


車両重量が2,090kgというCX-60 PHEV プレミアムモダンですが、ステアリングフィールは抜群です。名神高速でのアップダウンと、カーブが続く関ヶ原付近でも、切り始めからのリニアな動き、そして、無駄なくピタッとライントレースできて非常に気持ちが良く、国産SUVの中でもトップレベルのフィーリングです。


国内市場において、CX-60 PHEVの受注比率は1割にも満たないです(2022年9月現在)。しかし、環境規制の厳しい欧州市場では、このPHEVが主力となるはずです。
したがって、試乗したCX-60 PHEVの芯がしっかりとした欧州車のような乗り心地は、メイン市場に合わせたチューンが施されているのは納得できます。しかも、フラットな乗り味は、疲れにくいだけでなく、乗員に安心感も提供します。


PHEVシステムは、高い静粛性と全域での滑らかな加速性能が魅力です。その滑らかさと静粛性は4L V8エンジン級に感じました。
特にマツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)を使用して、上り坂で速度が落ちないように加速する場合でも、エンジン音は車内に侵入しませんし、滑らかに設定速度まで回復してくれます。


今回は後席にも乗車し4人で移動しましたが、XD-HYBRIDを試乗した際に感じたリアサスペンションのつっぱるような硬さも解消されています。また、座り心地の良いリアシートはロングドライブでも疲れ知らずで、非常に快適に過ごすことができました。ただ、リクライニングができればさらに良かったと思います。


最も気になった点は、仕方ないことなのですが、高速道路を走行中にバッテリーの充電モードを使用すると、瞬間燃費はそれまで15km/L近くを示していたのが、8〜9kmくらいまで下がってしまいます。


PHEVはエネルギーが地産地消できることがメリットと考えていますが、これだけ下がってしまうのであれば、積極的にチャージモードは使わず、トイレ休憩などで10分でも空いていれば急速充電器での充電をオススメします。
今回のトータル燃費は燃費計で13.8km/L。新東名高速を120km/h巡行するとカタログ数値よりも低くなってしまいます。しかし、8速ATのおかげで、下がり幅は抑えられています。


ともあれ、高速安定性の高さ、高い静粛性、優れた乗り心地、運転支援システムの性能の高さを備えたCX-60のグランドツアラーとしてのポテンシャルは高く、GT-SUVと言える実力だと思いました。
2022年にCX-5でロングドライブをしましたが、FR駆動をベースとしているCX-60のほうがグランドツアラー性能は高いと言えるでしょう。

CX-60 PHEV プレミアムモダンの車両本体価格は626万4500円。ライバル車といえるトヨタ・ハリアーPHEV Zは620万円。三菱・アウトランダーPHEV Pが548万5700円なので、新設計のプラットフォーム、パワートレインを考えると高くは感じません。
ただ、ハリアーPHEVの満充電時のEV走行可能距離が93km、アウトランダーPHEVが83km。対してCX-60 PHEV は74kmとやや見劣りしてしまいます。この数値を延ばすことが当面の課題といえるかもしれません。
(文・写真:萩原 文博)