■マツダ100周年特別記念車は「R360クーペ」をオマージュ。

東洋コルク工業として創立したマツダは、2020年1月に創立100年を迎えています。その記念として「100周年特別記念車」をほぼ全ラインナップに展開しているのは、ご存知でしょうか。

100周年記念エンブレムを各部に配した記念車は、いずれも白いボディに赤い内装の組み合わせとなっているのが特徴。それは、マツダがかつて製造していた軽自動車「R360クーペ」をオマージュしたものだといいます。

R360クーペ
戦後、国産車として初めてクーペと車名に入れたのが「R360クーペ」

なぜ、マツダが100周年記念車で「R360クーペ」をオマージュするのでしょうか。それは、このクルマがマツダとして最初の乗用車だったからです。

当時、東洋工業という社名でしたが、それまでのマツダ車は3輪トラックを中心とする商用車メーカーでした。1960年に「R360クーペ」を生み出したことで乗用車メーカーとして歩み始めたのです。まさに記念すべきモデルで、100周年記念車のモチーフとするにはもっともふさわしいといえます。

R360クーペ
マツダ初の乗用車として1960年に生まれたのがR360クーペ。

のちに「ロータリーの父」と呼ばれ、マツダの社長も務めた伝説的エンジニア・山本健一氏をリーダーに開発されたR360クーペは、車名の数字からもわかるように当時の軽自動車規格に合わせたクルマでしたが、非常にユニークなモデルでした。

軽自動車ということで大人2人が乗れればいいというコンセプトから、2+2パッケージとなり、キャビンは小さく、戦後の国産車としては初めてクーペを名乗ります。

駆動方式はRR(リアエンジン・リア駆動)、パワートレインはこれまたユニークなV型2気筒OHVエンジンで、トランスミッションは4速MTのほかトルクコンバーターを使った2速ATも設定されていました。

R360クーペエンジン
バンク角90度のV型2気筒エンジンは空冷式。総排気量356cc、最高出力は16馬力

さらに1962年、マツダは軽乗用車として、画期的なモデルを登場させました。それが「キャロル」です。いまではスズキからのOEMを受けているアルトの兄弟車に使われている車名は、非常に歴史のあるものであり、また当初はマツダの完全オリジナルなモデルでした。

初代キャロル
キャロルのエンジンは水冷4気筒OHV。総排気量は358cc、最高出力は18馬力。写真は1963年9月撮影

R360クーペの2年後に登場していますから、現代の視点からするとパワートレインなどの基本メカニズムはR360クーペと共通と考えがちですが、当時は違います。駆動方式こそRRと共通でしたが、キャロルのエンジンは”水冷”で” 4気筒”となっていました。軽自動車は空冷・2気筒が当たり前という時代ですから、これは非常にインパクトがありました。

さらにキャロルはR360クーペとは異なり、ファミリーカーとして企画されていました。そのため1963年9月には4ドアボディも追加設定されます。そして、このときがマツダ軽自動車の全盛期となりました。

キャロル4ドア
1963年9月キャロルに4ドアを追加。その翌月にマツダ史上最高の軽自動車販売を実現する

全国軽自動車協会連合会のデータによると、マツダの軽自動車が過去最高に売れたのは1963年10月で、その台数は15,183台となっています。まさにR360ク-ペとキャロルの2モデルが現役だった時に記録しているのです。そうして軽自動車を足掛かりにマツダは乗用車ブランドとして認知されていったというわけです。

キャロル後ろ姿
クリフカットと呼ばれるユニークなリアウインドウの形状が印象的。白いボディに赤いルーフという組み合わせはキャロルでも採用されていた。写真は1966年1月撮影

ちなみに、マツダ初の乗用車として誕生したR360クーペは1966年に生産を終了、初代キャロルは1970年に生産が終わっています。

現在はスズキからOEMで軽自動車を販売しているマツダですから、おそらく1963年10月の過去最高記録を塗り替えることはないでしょう。それでもマツダのルーツが軽自動車にあるという事実は変わりませんし、軽自動車からスタートしたという事実を大事にしていこうという気持ちがあることは、今回の100周年記念車においてR360クーペをオマージュしたことからも明らかです。

R360クーペ内装
白いボディにワインレッド系の赤という大胆な色使いがマッチしている。写真のR360クーペはマツダによりレストアされたもの
マツダ100周年特別記念車
「100周年特別記念車」は国内で販売する登録乗用車全車種に設定。2021年3月末までの期間限定販売となる

(自動車コラムニスト・山本晋也)