■技術面でリードする その原動力はストロングハイブリッド

ライダーのエンジンに対する支持は圧倒的で、乗用車のようにカーボンニュートラルに舵を切る展望は簡単には見えません。技術的にも二輪車は性能と航続距離をバランスさせることが難しく、販売と開発の両面から二輪車メーカーは踏み出すことを躊躇しています。

そんな中で、新会社「カワサキモータース」は、カーボンニュートラルを事業方針の柱の1つに位置づけました。同社のコミットメントは、2025年というきわめて近い時期に、10機種以上でハイブリッドを含む電動化を導入。2035年までに先進国向けの主要機種で同じく電動化を完了させることです。

伊藤浩社長
カワサキモータース 伊藤浩社長

これは2つの意味で、大きな驚きでした。

カワサキモータースのラインナップは、そのほとんどがミドルクラス以上に集中しています。2019年からの同社は、イタリアの高級二輪車メーカーBimota(ビモータ)と合弁会社を設立し、そのモデルにスーパーチャージャー搭載のエンジンを提供するなど、ハイエンドのエンジンバイクにますます磨きをかけていました。

ビモータTESI-H2 NinjaH2のスーパーチャージャー付エンジンをTESIシャーシに搭載 合弁会社の成果だ

新車購入者の平均年齢が50歳を超えて、趣味に支出する可処分所得が高いユーザーは、こうしたカワサキの内燃機関に対する姿勢に強い信頼を寄せています。同社のこれまでの戦略は「男カワサキ」。まさにこうしたこだわりのユーザーの気持ちをわしづかみにするものでした。それゆえにエンジンからカーボンニュートラルに舵を切ることは世間の流れからみると当然でも、戦略を間違えれば、貴重な支持層を失ってしまう可能性を秘めているわけです。

カーボンニュートラルに取り組みよって、新たな価値を創造することができるのか。伊藤浩社長の発言からは、この心配を一蹴する確かな手ごたえを感じさせます。
「当社の特にハイブリッドは技術の粋を集めたというか、すごい技術がたくさん入ってます。かなりのところまで開発が来ているので、技術の面で業界をリードしていきたい」

BEV開発車の給電口はシート左前、エンジン車でいうガソリンタンク横にあった。CHdeMO急速充電にも対応している。

●ストロング・ハイブリッドは、エンジン支持層にも新たな価値を提供する

公開されたハイブリッド開発車は、わざわざエンジンやモーターの配置が見えるようにカウリングが取り外されていました。ハンドル回りはダミーで、モーターを動かすバッテリーなど重要部品も伏せられていましたが、開発が着実に進んでいることを実車展示が裏付けました。

ストロングハイブリッド開発車。クランクケース上はテスト用の自動変速機。さらにその上にあるアルミ筐体がモーター。駆動系バッテリーはシート下に格納されていた。

伊藤社長は、開発中のハイブリッドは「ストロング・ハイブリッド」であることも強調しました。二輪車ストロング・ハイブリッドの開発は世界初です。開発車はエンジンとモーターのハイブリッド走行だけでなく、エンジン、モーター、それぞれ単独でも走行可能です。

ハイブリッドはエンジン車以上の強力な加速感が得られる上に、さらに快適なエギゾーストノートを感じることもできます。単にエンジンを置き換える環境性能だけでなく、エンジンを上回る体験が得られる。そんな期待感に満ちています。

会場では、ハイブリッドと同じミドルクラスのBEV(バッテリーEV)も展示されていました。また、排気量998ccのNinja H2Rのエンジンを基本とした水素エンジン開発をスタートさせたことも明らかにされました。それでも同社のカーボンニュートラルは、ハイブリッドを軸に展開される可能性はかなり高いです。

カワサキ BEVスポーツバイク
分社化でさらに明確な経営戦略の柱に。説明会会場に展示されたバッテリーEVスポーツバイク

同社の先進性は、10月1日に行われた日本自動車工業会二輪車委員会のカーボンニュートラルの取り組み内容との違いからもわかります。

二輪車委員会は、二輪車のカーボンニュートラルは小排気量クラスのコミューターから始まり、その手法もBEVによるバッテリー交換式。自工会としてその実証中であることを伝えました。ミドルクラス以上の展望については触れませんでした。目標年を2050年に置いた上での取り組みでした。

二輪車は環境に与える負荷が小さく、政府のカーボンニュートラル実現の対象に二輪車は含まれていません。タイミングを待つべきか、それとも今から果敢に攻めるべきか。新会社設立と共にカワサキモータースはフロントランナーとしての道を選択しました。

(文・写真 中島 みなみ)