プランナーは何でも屋?

前回もお伝えしたとおり、IoTの話題で騒がしくなってきた昨今、いろいろな企業がモノづくりを始めたがっています。これまでプログラミングしかしたことがなかったエンジニアもプランナーとしての役割を求められるといったケースも増えてきているようです。

そもそもプランナーの仕事とはどういったものなのでしょう?

プランナーに対するありがちな誤解の一つに、「プランナー=製品のアイデア出しをする人」というものがあります。

確かに製品のアイデア出しもプランナーの仕事の一部ではありますが、実際にはプランナーになるともっと広範囲の業務への関与が求められます。その具体例が以下のようなものです。

マーケティング・リサーチ 価格、納期案の策定、管理 中長期計画の作成 関係者向けのプレゼンテーション 販売・広報担当者向けの製品資料の作成 プロジェクト中に起きる諸々の紛争解決 関係者に向けた動機付け 社外人脈の発掘や維持

当然、プランナーだけで製品は作れませんので、エンジニアや営業やマーケティング部門の協力も不可欠となってきます。そのためプランナーは彼らを巻き込みながらプロジェクトを推進するために日々、余念が欠かせません。

また、プランナーの仕事の華やかな側面ばかりが取り上げられがちですが、現実はむしろ泥臭いことの方が多いように思います。

関係者の板挟みになったり、誰も近づこうとしない面倒な仕事を率先して拾い上げることでプロジェクトが停滞するのを阻止したり、アイデアが浮かばずにプレッシャーに押し潰されそうなったりします。

やっとの思いで作り上げたアイデアはあっさりと全否定されてしまったりなど、このようなことが毎日のように起きて続けます。

これらを踏まえると「問題解決能力」、「論理的思考力」、「人を繋ぐ力」、「打たれ強さ」などはプランナーにとって特に重要なスキルと言ってもいいかもしれません。

プランナーの仕事の第一歩 〜 製品のことを好きになろう

「任されたものの製品のことが分からない」、「そもそも担当している品が好きなわけではない」といったコンプレックスを抱えたまま日々のプロジェクトに追われているプランナーも少なくないようです。この深刻な状況は何としてでも打破する必要があります。

というのも他部門との協調しつつ広範囲の業務に関与するからこそ、旗振り役のプランナーが製品に愛情を持つことがプロジェクトの成功に欠かせません。

さもなければプランナーは以下のように負のループに陥ってしまい、プロジェクトの推進に支障が出てしまうからです。

製品が好きではない

仕事に熱が入らない

製品、ユーザーに対する理解が深まらない

創造的なアイデアが浮かばない

情報や「想い」の発信力が低下する

関係者の共感を獲得し、一体感を構築することができない

プランナーとしての自信が失われていく

さらに製品と距離を置き始める

仕事に熱が入らない

製品、ユーザーに対する理解が深まらない


モノづくりの最初の一歩は「アンテナ磨き」から

元から好きな製品のプランニングに携われたら言うことはありませんが、そうもいかないのが世の常です。周りが都合良く変わってくれるわけもありませんので、プランナー自身が振る舞いや考え⽅を変えながら製品に対する愛着を深めていくしかありません。

この、どこから手を付けていいのか分からなそうな課題を掘り下げて行く前にプランナーが製品を好きになれない理由を考えてみたいと思います。

製品を好きになれないプランナーの多くは、どこかで「苦手意識」を抱えています。この「苦手意識」が製品を理解する妨げにとなり、結果として理解できないことを繰り返してしまい、いつまでも「苦手意識」は解消されません。

理解できない理由は、全体像が把握できないからであり、この問題は語彙力や肌感覚を得ることで徐々に解消されていきます。そして語彙力や肌感覚は、発見と経験の積み重ねにより得られていきます。

このように焦らずに問題の要因を特定し、目先に小枝のように横たわる小さな問題から解決することから始めていくといいでしょう。この作業を僕は「アンテナ磨き」と呼んでいます。

「アンテナ磨き」からプロジェクトを軌道に乗せるまでの具体的なステップは以下のイラストのようなものです。

以降では、「アンテナ磨き」の具体的な方法をいくつかご紹介させていただこうと思います。

「アンテナ磨き」の実践例

アンテナ磨き その1 〜 自分自身がユーザーになる

あれこれ難しく考える前に、まずは参考になりそうな製品を入手してユーザーになりましょう。作品(製品)を作る上で自分が知ろうとする相手の目線に立つということは、プランナー以外にも広く実践されているテクニックです。

ハリウッドスターは撮影が始まる前の役作りの期間を非常に重視することはよく知られています。一流のレコーディングエンジニアですらiPhoneに付属するイヤホン使い、リスナーになりきって音質をチェックしたりすることもあります。

このようにしてユーザー視点に立つことでユーザーに対する共感が生まれ、勘頼りに手当たり次第にいろいろと調査をするのではなく、ポイントを定めた効率的な調査ができるようになります。

また、調査が効率化することに加え、製品の仕様・値段感覚・使い勝手などについて、プランナーが自分の言葉として語れるようになってきます。このことが後にプランナーの発信力として活きてきます。

最初の頃は製品を触ったけど結局、よく分からなかったということもあるでしょう。それでも問題はありません。

この時点であなたは「分からなかった」ということを学んでいます。ここで問題になっているのは「分からないあなた」ではなく、「分かりにくい製品」です。混乱せずに落ち着いて製品ことを考えるようにしましょう。

なかなかピンとこないかもしれませんね。僕は、その製品の理由、問題点、解決策の3点を考えることをお勧めしています。以下にその具体例を示します(理由に対する問題点、解決策はあくまで一例ですので、その状況に応じて異なってきます)。


理由問題点解決策製品が発するメッセージが
総花的で何から手を付けるべきか分からなかった商品コンセプトが
不明瞭•重要度の高いユーザーを特定する
•メッセージを重要度の高いユーザーに向けたものへと絞り込む操作手順が複雑で
覚えられなかったユーザー・インターフェイスが不完全•機能の優先順位付けと絞り込みを行う
•操作子のレイアウトや形状、色を見直す
•操作画面の階層構造を見直すマニュアルが難解で
読んでも問題が解決されなかったマニュアルが分厚く、文章も難解•図表を挿入してビジュアルを改善する
•巻末に索引を設けて検索性を高める
•製品本体にチュートリアルを組み込む(正しく操作をしても)期待されたほどの
感動が得られなかったアウトプットの
質が低い•あるべき品質、品質達成に向けた研究課題を洗い出す
•製品の価格を見直した上での販売計画を立てる

普段からモノに触れる際にこのようなことを意識しておくと、モノに対する分析力が高まりますので是非、試してみてください。

アンテナ磨き その2 〜 現場に足を運んでみる

僕自身が、駆け出しのプランナーの頃、現場に足を運ぶことの重要さについて身をもって体験した出来事があります。ここでは、その話をしようと思います。

勤務先のコルグで長らくクラブシーンに向けた商品企画を担当していた僕はある日、会社の事情によりまったくの畑違いで、未経験のギターアンプの商品企画を担当することになりました。僕にとってもまったくの寝耳に水の出来事でした。

ギターアンプといえば1950年代に真空管アンプが開発されて以降、そのフォーマットがほぼ完成されています。それ以降、いまだにギタリストはビンテージ製品を愛用し、歴史やブランドに裏付けられる情感的価値(第一章参照)が重視されるような市場です。

もちろん、例外もありますが、いまだにそのような製品が市場で最重要な地位を担っていると言っても過言ではありません。

当時、次から次へとスタンダードが入れ替わり、機能的価値と使用的価値が重視されていたクラブシーン向けの製品とは真逆のような製品です。

当初は、ギターアンプのことをいくら本やネットで調べても、考えが纏まりません。製品について情報を集めるに混乱が収まるどころか悪化するばかりでした。

そこで、取り敢えずライブハウスに頻繁に足運ぶことから始めてみたのです。そこにいるお客さんと他愛もない談笑を繰り返すうちに以下のような話を聞くことができました。

この会場は酒代が安くて助かるよ ここに置かれたMarshall*のギターアンプが好きなんだけど真空管の状態が最悪でさー… バンド仲間が喧嘩しちゃってギタリストが蒸発しちゃった あそこのライブハウスのPAは僕が作った音を台無しにしちゃうんだよ

次に、ギタリストを観察すると以下のようないろいろな人がいることにも気付きました。

曲中に頻繁にギターの弦のチューニングをする人とそうでない人 曲間でギターを接続するギターアンプを変える人とそうでない人 ライブが終わった後に重そうにアンプヘッド*とケースを抱えながら更にギターを背負っている人 出口に立って来場してくれたお客さん一人一人に声かけしている人 ギターに接続されたパソコンのトラブルで音が出なくなってしまった人

アンプヘッド
プリアンプとパワーアンプのみで構成され、スピーカーが付属しないアンプ。ライブ会場に置かれたスピーカーにアンプヘッドを接続して使用する。
▲アンプヘッド(VOX AC30H)


こうしてギタリストとしてのユーザーが抱える独自の課題、価値観、ライフスタイルなども見えてくるようになりました。そして、これまで集めていた「製品に関する情報」と「ユーザーに関する情報」を結びつけることでいろいろな解釈が生まれてくるようにもなりました。

ユーザーに直接、接することで得られる情報は⼀次情報と⾔われ、質が⾼く多様な解釈を促すと⾔われています。本やネット得られる情報は⼆次情報と⾔われ、情報の量を確保する上では優位ですが情報の質という⾯ではイマイチです。

本やネット得られる情報は二次情報と言われ、情報の量を確保する上では優位ですが情報の質という面ではイマイチです。ユーザーに直接、接することで得られる情報は一次情報と言われ、質が高く多様な解釈を促すと言われています。それぞれにメリットとデメリットがありますので状況に応じて使い分けるのがベストです。

ここでは、一次情報と二次情報を組み合わせたことが理解度の向上に役立ち、その結果、苦手意識を取り払うことに成功した一例として僕自身の経験を紹介しました。

日々の業務においてもテクノロジーやモノに触れる機会が多く、製品に関して豊富な知識を備えるエンジニアは、自分よりもモノに慣れていないユーザーに接する意味をなかなか見出せないことがあるようですが「製品」を知ることと「ユーザー」を知ることは別物です。

例えば、エンジニアにとっては当たり前に使いこなせる機能をユーザーがまったく使えていない場合、反射的にユーザーの行為を批評するのではなく「使えていない」という事実を知ったことに価値を見出さなくてはなりません。

ユーザーが一見、誤った製品の使い方をしているように見えても実はその考えの方が合理的で、有効な手法を提案できていなかった作り手が誤っていたというのもよくある話です。

「ユーザーを知る」つもりで現場に出かけてみれば、多くの気付きが得られると思います。

アンテナ磨き その3 〜 歴史を辿ってみる

時代を経て製品の形は変わっていきますが、それらの製品が解決しようとしている本質的なニーズは昔から変わっていません。いくつかの挙げてみましょう。


過去の製品現代の製品ニーズ影絵プロジェクター公衆に向けて画像を投影したい中世貴族と移動を共にした移動楽団スマホ音楽を持ち運びたい人力車自動車早く、遠くに移動したいそろばんパソコン情報処理の効率を高めたい

「過去の製品」は往々にしてシンプルであることが一般的です。一方で市場が成熟した後に生まれた「現代の製品」は機能が満載で余計なものが多くなりがちなのも事実です。

この点に着目すれば、製品の歴史とともに加えられた機能を順に探っていくことで、「現代の製品」に加えられた満載の機能の個々の重要度も判別し易くなってきます。

多機能な製品を見ていると、フラットに物事を見ることが難しくなってしまうことがあります。そのような時はシンプルな「過去の製品」に着目することで課題を単純化してみることで新しい視点がひらけてくるかもしれません。

アンテナ磨き その4 〜 製品を身の周りに置いておこう

アンテナ磨きその1〜3でも自分には難しいと思われた方がおられるかもしれません。でも、安心してください!もっと簡単で今日からすぐに始められるネタを用意しました。

それは参考になりそうなモノを毎日、目にすることになる場所、例えば、デスク、洗面台、玄関、トイレ、車内などに置くことです。

そのモノを観る度に「なぜ、このノブを使っているのだろう?」、「なぜ、この色だったのだろう?」、「なぜ、端子をここに配置したのだろう?」、「この素材は何だろう?」、「どんな場所にあると便利だろう?」、「このケースにはどんな加工方法が使われているのだろう?」など考えてみることが大事です。

モノを観て疑問を多く思い浮かべることができる人の多くは「モノの見方のパターン」を知っています。疑問を思い浮かべる能力が想像力だけに依存していと誤解されがちですが、強いていうならばスキルと表現する方が正しいように思います。そして、このスキルは「考える経験」を多く積むことで身に付けることができます。

モノを観て疑問が浮かべられるようになれば、そこを起点にアイデアが出やすくなり、少なくとも何をしていいかわからないと途方に暮れるようなことは減ってくるはずです。

そしてこの方法は、ユーザーを観ることにも応用できます。

本章の終わりに向けて

製品を愛していない人の言葉は、「データでは〜だった」、「あの人が〜と言っていた」と単に事実を並べているだけのものや、データをそれらしくフレームワークに当て込んだだけのものになりがちです。

それらがまったくの無意味というのは言い過ぎでしょうが、ネットに情報が溢れ事実を整理して並べることは誰にでも可能になりつつあります。

これからのプランナーに求められるのは情報の取捨選択、一般化や具体化と言ったプロセスを通じて、一歩踏み込んだ独自の結論を導くことであり、そうすることで初めてユーザーの驚きや感動が巻き起こります。

プランナーが製品に共感することや製品と好きになることがその第一歩です。

あいにく、製品を好きになるための即効薬はありません。そのためこれまで紹介した方法を遠回りと感じるかもしれませんが製品との距離が縮まるにつれ、自分自身がやってきたことに意味を見出していただけると信じています。

(イラスト:高田真弓)
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●著者プロフィール

河村裕司
経済産業大臣登録 中小企業診断士。株式会社コルグ開発部。自社ブランド、他社とのコラボレーションなどにおいて電子楽器のプロデュースを行う。代表作にKORG KAOSS PAD 3、KAOSS PAD mini。VOX Valvetornix、ToneLabなど。担当製品の受賞歴にヨーロッパ最大の楽器見本市Musik Messe主催、Mipa AwardにおいてBest DJ Tool/Software賞、米国DJ Mag紙主催、TECH AWARDSにおいてInnovative New DJ Product賞など。朝日中小企業経営情報センター発行の情報誌「ACC INFORMATION」No38に執筆論文「愛されるモノづくり」を掲載中。Facebookはこちら