LINE NEWSが目指すものは?
「立薗理彦の次世代メディア探検隊」第1弾は、LINEプラットフォームで一日に200本以上の記事を配信しているLINE NEWS。
彼らが目指す先は何かをインタビューした。
▲立薗理彦氏(右)、上田恭史氏(中央)、末弘良雄氏(左)
立薗理彦氏:エンジニア。ニュースサイト“ナタリー”立ち上げ時のCTOとして、バックエンドとUIの開発を行う。その後、サンフランシスコのngmoco社でゲームエンジンの開発にも従事。帰国後、ジャーナリストの津田大介氏と共にアンケートサービス“ゼゼヒヒ”・政治メディア“ポリタス”を立ち上げた。
<インタビュイー>上田恭史氏:LINE株式会社 LINE NEWS 企画チーム マネージャー。ライブドアでlivedoorニュース、NAVERでNAVERまとめの企画経験あり。
末弘良雄氏:LINE株式会社 LINE NEWS 編集長ライブドアでエンジニアとしてキャリアスタート後、編集職に。LINE NEWSの編集全般に関わる。
1200万MAU集める「LINE NEWS」の利用実態は?
―― 本日はよろしくお願いします。まずはLINE NEWSについてご紹介をお願いします。
上田:LINE NEWSはLINEが提供するニュースサービスです。LINEアプリ上のLINE NEWS公式アカウントからのニュース配信とスマホ向けのアプリがあります。トラフィックの大半は、LINEアプリ内のLINE NEWS公式アカウント経由で、LINEアプリ上でニュースが読まれています。
―― ユーザー数や中心となるユーザー層について教えてください。
▲メディアのUIを考え続けて早数年というキャリアを持つ立薗氏。
上田氏:1200万MAU(月間アクティブユーザー数)となっています。この1年から半年の間は、おかげさまで右肩上がりに伸びています。ユーザーの年齢情報は取得していないのではっきりとはいえませんが、LINEに近いユーザー層に利用されていると思います。
―― どのような記事を配信していますか?
末弘氏:基本的には、幅広い年齢層に読まれるという前提で、記事も幅広く選んでいます。LINE NEWS公式アカウントでは、現在「LINE NEWS DIGEST」と「LINE NEWS マガジン」という大きく2種類の配信方法で展開しています。
「LINE NEWS DIGEST」は、名前のとおりその日あったニュースからLINE NEWS編集部が厳選した、世の中にとって重要だと思われるニュースや、話題性のあるニュースが、朝と昼と夕方に配信されます。
「LINE NEWS マガジン」は、例えば男性向けのグルメ情報や、ママ向けのお助け情報、可愛い動物だけを集めたもの、といったテーマや属性を絞った内容になっており、ユーザーが自分の読みたいマガジンを登録しておくだけで情報が配信されます。その分野の専門家が選ぶ専門情報という位置付けです。
▲LINE NEWS DIGEST。LINEのLINE NEWS公式アカウント経由で配信され、個々の記事はウェブビューで表示される。
―― よく読まれている記事の傾向はありますか?
末弘氏:幅広いテーマを扱っていますが、やはり災害や事件などの時事性の高い話題や、芸能人や著名人の結婚などのエンタメ情報がよく読まれています。それに次いで自分に身近な話題、たとえば「コンビニでこんな新商品が登場した」といった話題も読まれますね。
▲上田恭史氏 LINE NEWSを統括している。
―― 利用される時間帯の傾向はどのようなものでしょうか?
末弘氏:LINEアプリ経由で通知がくることもあり、朝の通勤通学中、昼休み、就寝前など、皆さんがスマホを多く触る時間帯に利用されている傾向があります。その時間帯に合わせて配信内容も編集しています。
一般的にPCサイトのニュース媒体ですと、土日や年始年末といった休日にトラフィックが減る傾向がありますが、LINE NEWSの場合は逆に増えます。
―― 私もメディア運営に関わってきたなかで、以前は土日はトラフィックが減るというイメージがありましたが、それが最近はむしろ増えるようになりました。何か理由があるのでしょうか?
末弘氏:LINE NEWSの場合は、スマホがメインですので、土日などスマホを自由に使える時間と比例するということではないでしょうか。
上田氏:深夜に寝る直前まで使うというのは、スマホの特徴ですね。
―― スマホが中心になったことで、メディアの利用のされ方にも変化が起きているんですね。LINE NEWSを読んだあと、ユーザーはどのようなアクションをしているのでしょうか?
上田氏:LINE、Facebook、Twitterのシェア用ボタンを用意していますが、もっとも押されているのはLINEでのシェアです。ただ、LINEで送信されるメッセージそのものは把握できないので、具体的のどの程度シェアされて拡散したのかまでは分かりません。
最近Twitterなどでよく見かけるのが、スマホのスクリーンショットを撮って、画像でシェアするやり方です。LINEでも同様の使い方がされていると思います。
―― スクリーンショットをシェアするというのは面白いですね。
上田氏:習慣も大きいと思いますが、ニュースの内容そのものだけでなく、LINE経由で来た、LINE NEWSで採り上げられていた、という文脈も含めて相手に伝えるという意図があるのではないでしょうか。
LINE NEWSは、なるべく一画面で収まるようなデザインにしていることもあり、やりやすいのかもしれません。
「読む」よりも「見る」感覚。LINE NEWS誕生の裏側
―― 一画面に収まるようにデザインしているのは、長いと読まれないといった理由があるのでしょうか?
末弘:読まれないからというよりは、もともとが「サクッと読めて分かりやすい」というコンセプトなので、スマホ最適化として突き詰めたら現在のかたちになりました。
―― スマホが主戦場になったことで、長い記事は読まれるか読まれないかという論争が起こっています。個人的には、スマホで読まれるようになると、長いのは厳しいかなと思っていましたが、その点については?
▲LINE NEWSマガジン。ユーザーが登録したマガジンが配信される。
末弘:その話題の性質によりけりだと思います。
―― 完読したかどうかは調査されてますか?
上田 構造上、完読したかどうかの判断は難しいですが、連なって表示される記事ページのどこまで見られたか(表示したか)は把握しています。LINE NEWSは、「読む」よりも「見る」に近い感覚でサービスを提供しています。
―― スクロールして読み進めると、自動的に次の記事に移動するデザインが特徴的ですよね。これは、どのような経緯で生まれたものですか?
上田:LINE NEWSを開始したのは2013年ですが、すでに多くのスマホ向けニュースがいくつもある状況でした。当時決めたのは、スマホに完全特化するということ。シェアされたときにも見てもらうために記事のページは各デバイス向けに用意していますが、PC版はトップページすらありません。
記事画面も、スマホでもひと目で把握できるようにするため、コンパクトなデザインになりました。また、通信状況を考えると、クリックでページを切り替えるよりは、スクロールで読み進められる方がいいということで、現在の形になりました。
―― 編集者とデザイナーのどちらから提案したものですか?
上田氏:LINE NEWSでは、大きく分けて企画・編集・制作開発の3チームがあり、要件はまず企画が出しますが、具体的なデザインや機能はチーム間で話し合いながら決めています。
ニュースを要約で紹介したり、引用を活用したりといったやり方は、livedoorニュースやNAVERまとめが持っていた要素が反映されていると思います。
―― 元になる記事にリンクをしながら短いまとめを表示するというフォーマットになっていますが、リンク先に対する送客はどの程度意識していますか?
末弘氏:元記事の内容を簡潔にまとめるという手法は、livedoorニュースの「ざっくり言うと」という3行まとめ的な見せ方が元になっています。
ただ、LINE NEWSだけで必ずしも完結するわけではなくて、実際にユーザーから「元記事を読みたくなった」「元記事を理解する手助けになった」という声もあります。LINE NEWSだけで完結するわけではないですが、かといって不十分なまとめだと価値が薄れるので、そのバランスは常に模索しています。
▲末弘良雄氏 livedoorニュースからずっとニュース畑。
編集部とエンジニアのコラボレーションは?
―― 編集者とエンジニアのコラボレーションや日々のやり取りは、どのように行われているのでしょうか。たとえば新機能の開発では決まったサイクルがありますか?
上田氏:大きな機能追加などは概ね半年に1回といったペースで行っていますが、細かい修正や改善は、日々やっています。ただ、審査等で一定の期間を要するアプリよりも、LINEアプリ内のウェブの方が、開発から反映までのサイクルは短いです。
エンジニアとは同じチームではありませんが、プロジェクトごとに接点があり、全体としては週2回の定例ミーティングで意見交換や進捗確認を行う体制です。
―― 編集者とエンジニアが一緒のチームの方がいいという考えはありませんか?
上田氏:LINE NEWSでは、編集と制作開発を企画が繋ぐ形になります。別組織だと、こちらはお願いする立場になりますが、それがやりづらいという雰囲気はないです。
むしろ、専門職として技術やデザインのトレンドを追うことや、会社としてのリソース配分を考えると、別の組織の方が良いことも多いのではないでしょうか。例えば、技術を分からない者が上長だったらエンジニアも嫌でしょうし(笑)。
―― 世界的に見るとメディアは変革期にあり、さまざまなチャレンジが行われています。その中でエンジニアを編集に参加させるといった試みも盛んですよね?
末弘氏:LINE NEWSでは、そういう動きは少ないですね。機械的にニュースを抽出して配信するといったサービスが台頭している状況で、LINE NEWSはここまでやるかというくらい人手をかけていますね。
編集部には絶えず誰かがいてニュースを更新していますが、シフト制なので残業しないように時間が来たら切り上げるようにはしています。
―― エンジニアが記事の企画や編集に関与することはないのでしょうか?
上田氏:個々の記事に対してはありません。ただ、サービスとして新しいことを始める際には、「ダイジェストならこういうユーザーインターフェイスがいいのでは」「文字数はこれくらいじゃないと分からない」「こういう風に届かないとユーザーは気づかないよね」といった感じで、要件をかたちにするための意見・アイデアは、デザイナーやエンジニアからも数多く出してもらいます。
―― どちらが強いといったことはありますか?
上田氏:もともと、元ライブドアは開発の発言力が強く、元NAVERはUIが強いという傾向があります。つまり両方強いので、その調整が大変です(笑)。どちらの意見も常に一理はあるのですが、そのままでは前に進まない場合、最後は企画が責任を持って決めることになります。
今のところは右肩上がりで伸びているので、こちらで決断したことに対しても、納得はしてもらっていると思っています。
編集部の日常と社内コミュニケーション
―― 記事制作のプロセスを教えてください。
末弘氏:LINE NEWSは、世の中のニュースやコンテンツを「より分かり易い形でユーザーに届ける」というサービスなので、まずは各担当がネット上で記事や話題になっているものを探していきます。
メディアのサイトを巡回するだけでなく、SNSで話題になっているものを探したり、テレビを見たり、さまざまな媒体やツールを使って情報を探しています。そしてその中から「これはユーザーに伝えるべきだ」という記事を選び、より分かりやすく、よりコンパクトに編集していきます。
次に、NAVERまとめ的なアプローチで、例えば視点や意見の異なる複数の記事を組み合わせて、情報をよりフラット・多角的にまとめ、そして公開となります。編集部ではこの流れを、速いサイクルでくり返しているのですが、短いときは記事探しから公開まで10分、なんてこともあります。
―― 編集者はどういったバックグラウンドの方が多いのでしょうか?
末弘氏:ウェブメディアをやっていた者もいますし、雑誌などの紙媒体から来た者も多いですね。
―― 社内コミュニケーションのために日常的に使っているツールはありますか?
上田氏:企画・編集では、LINEが中心です。企画とエンジニアとのやり取りは、HipChatとタスク管理用のBTS(バグトラッキングシステム)、そしてLINEの3つです。
以前は、チャット用にIRCやSkype、社内用の別のツールも併用していましたが、最近ようやくLINEとHipChatに落ち着きました。
―― エンジニアではない人にチャットツールを使ってもらうのに苦労する会社もありますね。
弊社は自社でチャットツールを作っていることもありますし、チャットでのやり取り自体には、全社員抵抗はないと思います。LINEに一本化できるといいのですが、グループチャットで個別にメンションすることができませんし、業務用ツールならではのよさもあって、HipChatと併用しています。
▲アプリ版のLINE NEWS。LINE経由もアプリ版も記事本体は同じデータを参照している。
―― 記事のコピーやデザインをA/Bテストして検証するといったことはしていますか?
上田氏:そこまではまだやれていませんが、リリース前の機能やデザインをテストユーザーに触ってもらって意見を聞くことはしています。ナビゲーションや配信している記事について、どこがクリックされているかは、Google Analyticsを使ってすべて見ています。 全体的な数字は私のチームがとりまとめていますが、個別の記事については編集チームの方がよく見ています。
―― 編集チームが数字やデータを参考にすることも多いのですか?
末弘氏:数字は見ていますが、それを気にし過ぎると、センセーショナルな話題ばかりを選んでしまう一面もあるので、数字はあくまでも参考程度ですね。
―― バイラルメディアなどでは、クリックやシェアを高めるために見出しを数パターン用意して、CTRの高いものにチューニングしているところもありますよね。
上田氏:他のメディアと違ってLINE NEWSの特殊なところは、フォローしてもらったLINEアカウント経由の配信がトラフィックの中心になっているところです。
そのため、一旦アカウントをフォローしてもらったら、個々の記事のクリックを増やすよりも、ユーザーの満足度をいかに高めるかを考えています。たとえダイジェストを眺めるだけでクリックしないとしても、ユーザーが役立っていると感じているならよしと考えています。
あと重視しているのは、新規ユーザーにLINE NEWSを知ってもらって、フォローしてもらうことですね。記事1つひとつの数字に一喜一憂することはありません。
―― より長いスパンでのエンゲージメントを重視しているということですね。
今後は動画コンテンツや独自取材記事も
―― 非常に多くのユーザーがアクセスしているメディアですが、記事を選ぶうえで社会的な責任を感じることはありますか?
末弘:読みたいものだけでなく、読むべきものを配信していくという点ではそうですし、編集としてもやりがいはあります。特にダイジェストに載せる8本は反響が大きいので、常に緊張感があります。
エンタメ系の記事が読まれるのは確かですが、それを必ず入れるという制約はありませんし、ダイジェストのトップには社会的に重要だと思われる記事を入れるようにしています。
―― 炎上がよく話題になりますが、私はメディア側の責任や伝え方の影響も大きいと思っています。それについては、何か意識していますか?
末弘氏:もともと、センセーショナルなものは読まれやすいという傾向がありますが、そこに加担するようなことはしたくないと考えています。みんなが読みたい記事や人気記事という尺度での判断だけではなく、LINE NEWSは手動であることを活かして、「読んでほしい記事」も選ぶようにしています。
またLINE NEWSは、もともと複数の記事から引用する形式をとっており、1つのトピックをより多角的に伝えることができるので、ある意見を紹介したら、その逆の意見も同時に紹介して、両方の側面を伝えるようにしています。
―― 今後の取り組みたいことやどのようなメディアにしていきたいか展望はありますか?
上田氏:すでに始めていますが、動画に力を入れようとしています。今は、GIFアニメ画像を使って表現することに力を入れています。野球でホームランを打った瞬間や火山が噴火した瞬間など、動画があると記事の理解が深まるのではないかと考えています。
あとは、現在は他社の記事を紹介するかたちですが、今後はLINE NEWS独自に取材して記事を制作することもできればいいと考えています。
―― ありがとうございました。未来のメディアのヒントがたくさんありました。