いよいよスタートした、札幌国際芸術祭(SIAF)2017。札幌のまちとアートをぜひ楽しんでほしいが、公式ガイドブック『札幌へアートの旅』では、SIAF以外にも、「類いまれなるものをつくる人々」として、独創的なものづくりをする人と北海道のアートの旅を楽しめるような場所を紹介している。そのなかから、今回はちょっと特異な個人ミュージアム〈シゲチャンランド〉をご紹介。

これは、なんだ? 見たことのないような作品群

札幌市内から東に約310キロ離れた、北海道の津別町に、魅惑のミュージアム、〈シゲチャンランド〉がある。手がけたのは、東京でイラストレーターとして活躍していた立体作家の大西重成さん。

もともと牧場だった施設跡地の建物をリノベーションした各展示棟には、流木や廃材などから生まれたチャーミングな作品たちが生き生きと展示され、訪れる人の心を癒し、虜にしているのだ。

さらに2017年、大西さんはすぐ近くに、津別町とともに〈あいおいアートコミュニティークラブ〉(通称、A2C2)を開き、アートプロジェクト〈Neo Folk〉も始動させた。

〈あいおいアートコミュニティークラブ〉。(写真提供:A2C2)

駐車場では、こちらの作品がお出迎えしてくれる。

まずは、シゲチャンランドから見てみよう。敷地に一歩入るやいなや、見たこともない廃材のかわいくも奇妙な怪獣たちに圧倒される。

「一体これは……?」と驚く一方で、どこか愛らしい作品群は、見れば見るほどハマってしまう。流木などの自然物に加え、ペイント缶を開いたものがお面になっていたり、暮らしのなかで、見たことのある生活用品が使われている。

大西さんが、作品を解説しながら、敷地を案内してくれた。

東京で雑誌や広告でイラストレーションの仕事をしたあと、50歳で津別町に戻り、立体造形物をつくり始めた。

展示室は、目や口など人の器官が名づけられていて、全体でひとつの生命体を表している。

シゲチャンランドは、現在14の展示棟がある。入り口付近の7棟がオープン時につくられたものだ。

例えば、「口」と描かれた展示棟はもともとサイロだったところ。中に入ると、天井に向かっていまにも動きだしそうな、『ナノナノ族』が展示されている。流木とヤシの実から生まれたものだが、どこか神秘的な雰囲気がある。

続いては、うってかわって、とても華やかな展示室「頭」。天井には、ベッドカバーに描かれたレモンが擬人化されていたり、レコードがまるで観葉植物のようになっていたり、サッポロビールや雪印チーズなどの商品パッケージが、廃材とともに、ポップでコミカルに展示されている。

この作品群は、大西さんが東京でコマーシャルの仕事をしていたときにつくられたものも多く、先ほどの作品とは雰囲気が異なる。「僕のなかには、シビアなところ、陽気なところ、ずるいところ、エロチックなところもあって、それがすべて各展示室で暴露されているんです。人間なんてこんなもんだろうと、あんまりかっこつけたくなくて」と大西さんは笑う。

ここにいるとなんだか楽しい気分になり、気持ちが解放されていくような……。「この展示室は、知的障害者と呼ばれる方が急に楽しそうにし始めたり、忙殺されているサラリーマンが『癒される』と、ずっととどまっていたりするんですよ」

続いて「鼻」と描かれた2階建ての展示棟には、流木から生まれた生き物のような立体作品が、多数展示されている。牛舎を改修した2階建ての建物は柱や梁がむき出しになっていて、白い壁が続く美術館ではないのに、ピンと張りつめた、洗練された空気が流れているのが不思議だ。

どの作品も陸の生物のようにも海の生物にも見える。恐いような、やさしいような……見たこともないような作品に、どんどん惹き込まれてしまう、何とも言えない魅力がある。

「人工物は、切ったり貼ったり好きに加工しますが、自然のものは、そのままの姿形を生かします。どうなるのか、これを考えるのが一番おもしろいんです」

この作品のベースになっているのは北海道の海岸で拾ってきた流木や貝殻、動物の骨などの自然物。とは言え、拾ったときに、何かをつくろうと思いついているわけではないようだ。

「拾ってきてから、思い浮かぶまでじっと待つんです。なかには、7年かかったものもありますよ。わからないから、置いておくんですが、ある瞬間に、“パッ”と別のものに見える瞬間がくる。それをひたすら待つんです。東京で広告をやっていたときとは感覚が違いますね。広告制作には、期日がありますから。流木は、こちらが閃くわけではなく、不思議なもので、流木自体が何かを発信している感覚なんです」

シゲチャンランドが生まれた理由

北海道出身の大西さんは、20代のとき無鉄砲に渡ったニューヨークでアートスクールに通い、イラストレーターを志す。帰国後、自力で雑誌社に売り込み、1972年から東京を拠点に、プロのイラストレーターとしてスタート。

ADC賞受賞、ハービー・ハンコックのレコードジャケット、90年代のモスバーガーの伝説的フリーペーパー『モスモス』の表紙に作品が起用されるなど、広告の第一線で作品をつくり続けた。(展示室「頭」には、モスモスの表紙で使われた作品も)「あのときは時代に要求されるものに応えられる自分がおもしろかったんです」

一方で、大西さんは、湘南で流木を拾っては作品をつくっていた。「そしたら東京のアトリエに作品が溜まり過ぎちゃってね。どんどん大きいものもつくりたくなっちゃって。そんなとき、『これは東京にいられない』と思った作品があるんですよ」

CFの仕事で海外を訪れたときに偶然見つけたヤシの実。奇妙な自然の造形物にすっかり大西さんは取り憑かれてしまった。さらに、帰省先の北海道で見つけた木とつなぎ合わせたら、大西さんのなかに何かが生まれたような、何かを発見したようなゾクゾクした気持ちがわいた。そこで、「バブルで稼いだお金で周りが車を買っているところ、僕は、8000坪の牧場跡地を買ってしまったんですね(笑)」

1996年に故郷津別町に拠点を移し、翌年土地を購入。改修に4年の月日をかけて、2001年にシゲチャンランドがオープンした。

自然が導いてくれる、ものづくりとは

津別に来てからは、作品をつくるのが楽しくて仕方がなかったという大西さん。「流木に加えて北海道は野生動物の宝庫。海岸や森に動物の骨が落ちている。キタキツネ、エゾシカ、ヒグマ……。いろいろ拾いました。それらの骨をつなぎあわせて作品をつくっていくうちに、供養の意味を込めて、自分の暮らしのなかにある素材を重ねていったんです。なるほど、“まつる”とはこういうことかと体でわかりました。そうやって、自然と向き合いながら作品をつくり始めると、自然に導かれながら、これまでにないものづくりになっていった気がします」

特に北海道のなかでも道東エリアにある津別町は、自然の深さが違うと大西さんは話す。「道東は、アイヌの人々やオホーツク文化とも密接な場所。網走の北方民俗博物館に展示されている生活道具や衣装、アートのように、この厳しい自然の暮らしのなかでこそ生まれる文化がある。僕は、アートは、暮らしと密接であるべきだと考えているんです。この自然のなかで暮らしてものづくりすることで、この土地にに連綿と続く必然性のようなものを感じている。少なくとも僕はキャッチしちゃったね」

アートプロジェクト〈Neo Folk〉始動!

オープンして15年が過ぎ、大西さんは、シゲチャンランドに可能性を感じ、新たなプロジェクトをスタートさせた。

「廃材や自然物と向き合いながら、自分の実験を集積した場所。この経験を自分だけのものにしておくのはもったいない。共鳴してくれる人がいるんじゃないかと思い始めたんです」

2017年よりアートプロジェクト〈Neo Folk〉を立ち上げ、全国各地から集まったメンバーとともに、〈道の駅あいおい〉のすぐ近くの元老人クラブの施設の建物を改修し、拠点となる〈あいおいアートコミュニティークラブ〉を開いた。ここは、津別町運営の公共施設として、一般の人でもワークショップスペースやコワーキングスペースとして活用できる。

A2C2はこれからシゲチャンランドとともに、津別から新たなアート作品とローカルデザインを発信していく。

「やっぱりいいものをつくっていたいじゃないですか。そして、次の世代の人も使いたくなるようなものを、どうバトンタッチできるかも大切です。

消費されるだけではないものづくりもできることを、僕は次の世代に伝えたい。それは、ひとつの価値観に被い尽くされそうな世界に、別の価値観があるんだよと伝えることかもしれません。もちろん、ここでの暮らしは楽なことではありません。でも、実際にあるし、僕はここでやってきたのだから」

information

シゲチャンランド

住所:北海道網走郡津別町相生256

TEL:090-5222-8580

開館時間:5月1日〜10月末日 10:00〜17:00

定休日:水・木・金曜(祝日の場合は開館)

入館料:700円(幼稚園児以下は無料)

駐車場:あり

Mail:shigechanland@icloud.com

information

あいおいアートコミュニティークラブ(A2C2)

住所:網走郡津別町相生74-6

営業時間:9:00〜17:00

定休日:土・日曜・祝日

http://www.neofolk.jp/

*あいおいアートコミュニティークラブで、2017年9月2日(土)、3日(日)に〈相生原人祭2017〉開催! 森の恵みを採集してつくった衣装を纏い、縄文太鼓や音楽、おいしい料理を楽しみます。

詳しくは、Facebook

information

完全コンプリートガイド 札幌へアートの旅 札幌国際芸術祭2017公式ガイドブック

マガジンハウスより発売中

http://magazineworld.jp/books/paper/5214/

photographer profile

Yayoi Arimoto

在本彌生

フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年/青幻舎)。www.yayoiarimoto.jp

editor profile

Kanako Tsukahara

塚原加奈子

つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。