改修は来年に持ち越し! いきなりの宣言

まだ8月だというのに、北海道は秋の深まりを感じさせる。今朝、息子は目覚めると「ストーブつけて!」と言い出した。秋が来ると、もう冬もすぐそこという気持ちになってくる。11月には初雪が降り、12月にはあたり一面真っ白。外でいろいろな作業ができるのは、あと2か月ちょっとしかない。

そんななかで、先日、夫が突然宣言をした。「美流渡(みると)の古家に住めるのは来年だな。あの古家を直すのにはまだまだ時間がかかる」

この連載で何度か書いてきたが、現在住んでいる岩見沢の市街地から車で30分ほどの山間部・美流渡地区に古家を取得したのは1年半ほど前のこと。大工である夫が古家を改修中で、当初は今年の4月、息子が小学校にあがるタイミングで移住する計画だった。

しかし、建物の基礎が腐っているなど予想を超えるハプニングがたびたびあり、なかなか改修が思うように進んでいなかった。いつしか夫は、「引っ越しはゴールデンウィーク明け」と言うようになり、それが「夏休み明け」となり、ついに先日「来年!」となったのだった。

さすがに、来年と聞いたときは「冗談かな??」と思ったが、夫の行動を見ていると、どうもそうではないということがわかってきた。あるとき夫は市役所に出かけていって、美流渡地区にある市営住宅の空き状況を調べたり、地域の知り合いに空いている家がないかどうか探したりし始めたのだ。

高台から眺めた美流渡。山間に囲まれた地区でスーパーと食堂は1軒ずつ。

ようやく基礎部分が直った古家。8月末の段階で、まだ骨組みだけの状態。

冬に備えて空き家探しもスタート

なぜ、古家を取得したのに、さらなる空き家を探し始めたのかというと、これからやってくる冬を見越してのことだ。

いま息子は、移住予定があるため、すでに美流渡地区にある小学校に通っており、毎日、夫が車で送り迎えをしている。しかし、このあたり一帯は、北海道有数の豪雪地帯。冬になれば吹雪になることも多いし、朝晩は冷え込みが厳しく路面は凍ってツルツル。車での登下校ができない日もあるにちがいない。

そのため小学校に近い場所に、とにかくまずは引っ越して、そのあとゆっくりと古家を直せばいいんじゃないかというのが夫の考えだった。

冬になると国道以外のほとんどの道は雪で覆われる。日中に雪が解け、朝晩の寒さで凍ると、路面はスケートリンクのような状態になる。

岩見沢は吹雪になることも多い。天候が突然変わり、ホワイトアウトに遭遇することも。

ということで、空き家探しを始めたわけだが、手頃な物件は、いまのところなかなか見当たらない。

美流渡地区は、以前は炭鉱街として栄えたが、いまでは人口400人ほどという過疎化が進む地域。道を歩けば、そこかしこに空き家が見つかるが、その多くは手直しをしなければならない状態だったり、家財道具一式が置き去りになっていたり。

また、わりと良い状態の家であっても、所有者が誰なのかわからないこともあるし、不動産屋に物件情報が出ることもほとんどない。こうした地域で家を探すには、とにかく地域の人に聞いてまわるしか方法がないのが実情だ。

あと、2か月のうちに本当に引っ越せるの? 家ってそんなに簡単に見つかるのか、わたしには疑問が残る。すでに8月末になってしまったにもかかわらず、夫はなぜか余裕のありそうな雰囲気だ。古家を改装するなかで、たくさんの地元の人と顔見知りになっているためか、きっと見つかるんじゃないかと楽観視しているのだろうか……。真意は定かではなく、わたしはただただ気を揉む日々だ。

家事、子育てをやりながら、改修をする難しさ

それにしても、古家取得から1年半も経っているのに、なぜ改修が進まないのかと、不思議に思う人もいるのではないかと思う。その大きな理由は、まとまった時間がとれないところにある。

現在夫は勤めには出ていないものの、家事や子育てに追われる毎日だ。特に7月、8月は第三子出産もあったことから、夫が学校や幼稚園の送り迎えやごはんの支度などを一手に引き受けることとなり、改修まではなかなか手が回らなかった。ちなみに、私も出産後すぐに編集の仕事を再開しており、夫のフォローができる状況ではなくなっている。

自分がやれないところは業者に頼んでもいいのでは? とわたしは思ってしまうのだが、夫は、なんでも流さずに自分でキチッとやりたいタイプ。それなのに古家はかなりのくせ者で、そんな夫の気持ちを逆なでするようなことばかりが起こる。家が傾いていたり、理由が判然としない複雑なつくりがあったりして、手が止まってしまうことがあるようだ。

特にお風呂場の基礎部分は、水回りということもあって、柱の根元が腐って跡形もなくなっていたこともあり、ここをどのように直すのかは、まだ未解決。当初、夫は「風呂なんてなくても住める」と言っていたが、第三子が生まれたこともあり、ある程度設備を整える必要に迫られており、「風呂場をどうするかなぁ〜」と、つぶやくこともしばしば。

ただ、わたしは、こうした状況でも、第三子の世話が9月には落ち着くだろうから、そこから始めれば年内に引っ越せるんじゃないかと、そんな期待を持っていた。しかし、つい数日前、年内移住は断念せざるをえない決定的な出来事が起こったのだった。

なんと、夫がぎっくり腰に……。

幸い軽度ということもあり、動けることは動けるのだが、物を持つのもつらそうな様子。病気になってしまっては、「早く、早く」とせき立てることもできず、これをきっかけに、わたしもなんだかあきらめモード。冬の息子の登下校のことを考えると困った事態ではあるが、このあきらめモードによって、ひとつだけ良かったこともある。

これまで、わたしは夫に面と向かっては「古家を早く改修して!」と言うことは避けてきたが(喧嘩になるので)、おそらく無言のプレッシャーを与えていたはず。それをヒシヒシと感じ取っていた夫は、家事がたまってくると、改修が進まないイライラを、わたしにぶつけることもたびたびあった。

けれどいま夫婦間で、古家の改修は来年という共通認識ができたおかげか(?)、夫の気持ちは安定している。しかも、第三子が生まれたてホヤホヤのかわいさも手伝ってか、夫はとても幸せそうなのだ。そんな姿を見ていると、これまでのように焦らずに、この穏やかなときを味わう、わたし自身の“余裕”も大切だということに気がついた。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/