型にはまらない「やり方」を生み出す

ホームページを見てみると、「これってヘンかな? でもオモシロくないですか?」という会社コンセプトが示されている。その「ヘンかな?」から取って〈ヘンカ〉という会社名。ここからでもただものではない雰囲気を感じる。その秘密を探るために、〈貝印〉商品本部デザイン室チーフマネージャーの大塚淳さんとともに、〈ヘンカ〉代表取締役の宇田川直哉さんを訪れた。

渡すその場でハンコを捺していく名刺。「ハンコの人と覚えてもらえればうれしい」

〈ヘンカ〉は平たく言えば、デザインコンサルティング会社だ。しかしそのあり方は、世の中にたくさん存在する既存のそれとはまったく異なる。宇田川さん自身も、前職はデザインコンサル会社に勤めていた。だからこそ2013年に〈ヘンカ〉を立ち上げたとき、差別化が必要だと感じた。

「暗中模索と無理難題やります」といきなりデザイン業界らしからぬワードを切り出してきた宇田川さん。実際に無理難題な依頼が舞い込んでくるという。

「たとえば『社員にやる気がないのでどうにかしてほしい』という依頼を受けたことがあります。私たちは、これもデザインの範疇と考えています」

デザインコンサルは、デザイン思考から生まれた作法などをビジネスに落とし込んで企業に提示していく仕事。その点では共通しているが、〈ヘンカ〉では既存のものではなく、新しい視点や考え方を提示していく。しかもクライアントに合わせたオーダーメイドなので内容も千差万別。その都度、新しい「やり方」が生み出されるから、事例もそれぞれ特徴的になる。

何でも図式化して説明してくれるのでわかりやすい。

「スマートフォン関連の新しいアイデアがほしいという依頼をワークショップ形式で開催したときのこと。場とみんなの頭がなかなかほぐれませんでした。ちょうど男性しかいなかったので、『みんなでガールズバーにでも行ってアイデア出しをしましょう』と提案しました。実際に訪れて、女性たちにデザインロジックの話をそのまましても、当然通じません。そこで初めてリテラシーが違うことや、ユーザーとの距離感を感じてもらうことができました。自分たちだけでは絶対に出てこないアイデアも生まれましたよ」

クライアントに喜んでもらえるなら、どんなやり方でも構わない。もうひとつの事例。

「放送チューナーをデザインする機会がありました。担当の方がボタンの押し心地にすごくこだわっていました。クライアントは押し心地のイメージは持っているようでしたが、「ボタンのプロ」ではないし、感覚的なことを言語化するのは難しい。『それではこちらもわからない』と言ってしまうのは、簡単だけどまったく意味がありません。それよりも『一緒に家電量販店の上から下までボタンを押しまくりに行きましょう』と提案しました。結局、すごく安いDVDプレイヤーの押し心地が最高って話になりましたが(笑)」

貝印・大塚淳さんと話す「感覚のデザイン」について。

こうした事例を聞いていると「そんなこと、すぐに簡単にできる」と感じるのではないだろうか。しかし、大企業になるほど「やらない」という選択をするだろう。社内で真面目に「ガールズバー会議」や「家電量販店ツアー」を企画しても、実現することはきっと少ない。しかし外部のコンサル会社が提案してきたのであれば、外部刺激として認められやすい。だからこそ、そこにチャンスが生まれる。

「私たちは既存の手法を利用するのではなく、プロジェクトごとに生み出していきます。もしその手法が企業内で確立されたら、それはクライアントのオリジナリティになっていくと思います。ゆくゆくは共通項を探りたいとは思っています」

UXを重視したサービスやアプリのデザインなども行っている。写真提供:HENKA

新しい発想は、生み出すのではなく、横や間から持ってくる

「たしかに、当社もそうですし、最近の企業は、手法を自分たちのものとして取り入れたいと思っているはずです」と言うのは貝印・大塚さん。「デザイン思考という考え方が広まって、特にそういう時代の流れが顕著だと思います。そんななかでも、〈ヘンカ〉はその手法の生み出し方が変わっていますよね」(貝印・大塚さん)

この答えとして、宇田川さんは、ヘンカが標榜する「ゆるやかロジカル」という考え方を説明してくれた。ロジカルシンキングに則ったがちがちの理屈ではなく、ふわふわしていてもいい。でもゆるやかな思いだけでは意味が付与されない。新しいものは「ゆるやか」と「ロジカル」その中間にあるというメソッド。

「見たことのない、斬新なものならばいいと勘違いしてしまうことがよくあります。新しいだけでは意味がありません。今まであったことと、なかったことの半々。もしくは知っていることと、知らないことの中間。ゼロからひねり出すのではなく、違うところから持ってきてつくる。そこから生まれてくるものは新しいはずです」

たとえば「食べられる机」という新しい机のアイデアが出てきたとする。見たことはないし、アート領域なら成立するかもしれない。しかし、机として意味がないのでデザインとしては成り立たない。デザインとして新しいものは、ゆるやかなロジックのなかにある。

「ゆるやかロジカル」の「ゆるやか」とはなんだろう。ロジカルに対してファジーな言葉。人間らしい揺れや生々しさなどの感覚的なものだ。

「もっとも人間の根源である生々しいところは、気がつかないうちに無視されたり、隠されていることが多いと思います。エロ・グロ・笑いのような、生々しい状況のほうが思いつくこともたくさんあります」

だから実際に目で見て感じて共有する。そこから考えてみると机上のがちがちロジックにはならない。そしてデザイナーやコンサルタントとしての難しい言葉は使わない。「“デザイン語”ではなく、“日本語”で対話する」と宇田川さんは言う。クライアントに寄り添う「ゆるやか」さといえる。

「そうした“すき間”や“中間”への視点がないと、これからの企業は生きていけないかもしれません。弊社は来年110周年。技術的な蓄積はありますが、カミソリひとつにしても、まだまだ真剣に取り組んでいない体毛もありますから」(貝印・大塚さん)

「そういったことをフランクに話せる場所があるといいですよね。部活動みたいな感覚で、会社の事業と課外活動の中間のような」(ヘンカ・宇田川さん)

それにしてもインタビュー中にも、ユニークなアイデアがポンポンと飛び出てくる。アイデアの源泉はどこにあるのだろうか。

「ダメだったらこうしようという、あきらめない気持ちですね。考え続けるスキルも必要です。目的さえしっかりしていれば、見失うことはありません」

宇田川さんは「すごくネガティブでびびり」であると自己評価する。少し意外。この裏返しで、仕事では怒られるのがイヤだから、一生懸命に考える。結果的にポジティブになる。もうひとつ意外なことに、明るい人に憧れているという。特に「パリピ」に。

「あるとき、『ULTRA MUSIC FESTIVAL』という海外のフェスの動画を見ました。DJひとりで、こんなにもたくさんの人たちを熱狂させている。自分にはできないことです。つくったものをたくさんの人に見てもらいたい、楽しんでもらいたいという気持ちは誰にでもあると思います。あらためて、自分がやりたいことはコレなのではないかと。より多くの人を豊かな感情にするというのは、目指すところの最高点。自分の考えたアイデアを褒めてくれる人たちがいないと成立しませんから」

「実は私も学生時代にバンドを組んでいて、バンドでやっていくか、デザイナーになるか本気で迷った経験があります。熱狂させたい願望、わかりますね」(貝印・大塚さん)

プロダクトからアプリ、UI・UXなどジャンルもさまざまだし、その都度、やる内容は異なり、方法論はバラバラだ。でも根源的に相手を喜ばせるために努力している。「最終的にはAIも喜ばせたい」という、ユニークさも一助となっているようだ。みずから「ポジティブクリエイティブカンパニー」というだけのことはある。なんとなく困っているけど相談する相手がわからないときは、〈ヘンカ〉に駆け込みたい。

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HENKA ヘンカ

住所:東京都渋谷区恵比寿西2-8-11 渋谷百貨ビル3階

http://henka.jp/

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貝印株式会社

1908年、刀鍛冶の町・岐阜県関市で生まれた貝印は、刃物を中心に、調理器具、化粧小物、生活用品、医療器具まで、生活のさまざまなシーンに密着した多彩なアイテムを製造・販売。現在は、日本だけでなく、欧米やアジア諸国など世界中に製造・販売拠点を持つグローバル企業に発展しています。http://www.kai-group.com/

貝印が発行する小冊子『FACT MAGAZINE』

http://www.kai-group.com/factmagazine/ja/issue/3/

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Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

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撮影:岩本良介