住みたい人がいて空き家もあるのに、移住が進まない理由

岩見沢の山里で、またひとつ新しい挑戦が始まった。地域おこし推進員(協力隊)の吉崎祐季さんと上井雄太さんが企画した、古家の改修方法を学ぶ〈セルフビルドの学校〉だ。

ふたりはこれまで、この地域に移住を希望する人たちから、住まいについての相談を受けてきた。美流渡(みると)をはじめとする山間の地域は元炭鉱街。閉山とともに人口が激減し、空き家が多数残されているのだが、その多くは築年数が古く修繕が必要となっている。

「移住を希望するみなさんには、直せば住めますよと話していますが、わたしたち自身も実際にどうやって直すのかわかりませんし、教えることもできません。こんな状況なので、移住に興味があっても、結局は住むのは難しいと思う方が多くて、空き家は年々廃墟のようになっていきます。住みたい人がいて空き家があるのに、何とかならないだろうかと思いました」(吉崎さん)

ワークショップが行われたのは上美流渡にある古家。

こうした想いから、家を修繕できるスキルを自分たちも身につけたい、またほかの人たちとも知識を共有したいと考え、今回のワークショプ開催へと踏み切った。

手がける物件は、一昨年に吉崎さんが上美流渡に取得した築60年以上という古家だ。ここは森に囲まれている地域だが、炭鉱街だった当時は、料亭として使われていたようで、2階には丸い窓が取りつけられている。そのため彼女はここを〈マルマド舎〉と名づけた。

2階にある丸い窓。

人家の少ない森の中に建っている。

吉崎さんがここを取得した理由は、大工の知識を身につけたいと思ったから。これまでDIYで、マンションや店舗の内装を手がけたことがあるが、家の構造に関わる部分の改修は未経験。そこで地元の仲間たちと一緒に、この家を独学で改修しようと考えていたのだが、あるとき長沼に住む大工〈yomogiya〉の中村直弘さんに出会ったことで、ワークショプの構想が広がっていった。

講師となった中村直弘さん。

yomogiyaは「まちの大工さん」を掲げ、1坪のガーデニング小屋やトレーラーで移動できるコンテナサイズの小屋など、施主のこだわりを引き出すような、木の風合いを生かした建物を生み出してきた。また古道具や古い建物など、人々の手の温もりを感じる物への愛着もあり、今回の企画に興味を持ってくれたのだった。

1月21日、第1回となるセルフビルドの学校が開かれた。テーマとなったのは、主に柱や土台など基礎部分をどう修繕するのかだ。受講者は7名。一般公募したのだが、集まったのはいずれも腕に覚えのある人ばかり。

例えば由仁で鍛金工房(銅・真鍮を打ち出して形をつくる技法)を営む竹島俊介さんや岩見沢で家具を制作する織田義史さん。このほか、すでに大工の見習いをやっているという深田康介さんなどだ。

「もう、みんな勉強しなくてもできるんじゃない?」

講師の中村さんが語るように、織田さんは自ら建物を修繕してアトリエをつくっているし、竹島さんも農家の納屋を改装して工房をつくろうとしているところ。しかし、だからこそ今回のワークショプの重要性を感じたといえるのかもしれない。

「経験はあっても、基礎の部分はこれまで知識がなくて触れなかったんです。そこがわかれば、今後、古家を探すときにも自由度が広がると思って」(竹島さん)

柱を補強したり、土台を交換すれば、古家もまだまだ使える

まず着手したのは柱の補強と土台の交換だ。水回りのあった部分の柱には相当な傷みがあった。今回は、この柱をふたつの材木で挟んで補強する処置をすることに。土台の木も腐っている部分があったため、こちらは新しい木材に入れ替える作業を行うことにした。

中村さんは説明をしながら鮮やかな手さばきで仕事を進めていく。参加者たちも要領がわかっているようで、各自できることをテキパキとこなしていった(わたしには専門的すぎて説明は半分くらいしかわからなかったのだが……)。

この古家は築60年以上で、柱や土台が微妙に傾いている部分もあった。岩見沢は豪雪地帯ということもあり、冬は屋根にたくさんの雪が積もる。また、地面が凍結して膨張する“しばれあがり”という現象もあり、こうした状況が長年のあいだに家をゆがませる要因となっていった。これらをどのように解決するのか、中村さんはさまざまなテクニックを教えてくれたのだった。

「こうやって古家の基礎部分を直す方法は、本にもなかなか載っていないので勉強になりました。道具の使い方もよくわかりました」(織田さん)

午後から行ったのは窓の取りつけ。新しく入れる窓は、以前のものより大きいため壁をカットしてはめ込まれた。

この作業を真冬にやるのは、かなりしんどいのではないかと思う。外気温は氷点下。風が吹き、ときどき雪がちらつく環境のなかで、外から窓をはめこんでいくのだ!しかし中村さんの手は止まらない。疲れも見せずにどんどん作業を進めていく(手袋もせずに!!)。

「動いていると寒くないですよ。微妙な感覚がわからないから手袋もすぐに外しちゃうんです(笑)」

マルマド舎に関わる人々が、この古家の未来をつくる

ワークショプ開始から5時間ほど経過して、大きな窓が取りつけられた。

「窓を入れたら、家が見違えました!」

吉崎さんは、窓を見つめながら感慨深げに語ってくれた。実は、この学校を開く何か月も前から、推進員のふたりは毎日のようにこの家に通い、内壁や床をはがす作業を黙々と行っていた。あるときは、家の土台の下にある土をかき出す作業を延々やったこともある。こうした地味な作業を積み重ねてきた“解体”が終わり、家をつくっていく“再生”へと転換した、この日は記念の日でもあった。

こうして7時間にもおよぶワークショプは無事終了。次回の開催は2月11日、断熱について学ぶという。いよいよ“再生”へと舵が切られたのだが、推進員のふたりの作業はここからが正念場といえるのかもしれない。

来月のワークショプの際に断熱材を入れるためには、残りの窓の取りつけと、OSBという板による壁の補強をしなければならないのだ。

「壁や床をはがす作業は力任せにやればよかったんですが、今後は技術も必要。本当に大変なのはこれからかもしれません」(上井さん)

北海道の冬は長い。極寒の季節のなかで行う作業は本当に苦労が多いが、セルフビルドの学校を開催したことによって、この建物の新たな使い方のアイデアがわいてきたと、ふたりの顔は明るい。

「今回受講してくれた方々が、今度はこの学校の先生になってもらってもいいんじゃないかと思いました」(吉崎さん)

鍛金工房を営む竹島さんから金属を打ち出す技術を学んだり、家具屋の織田さんから机や椅子のつくり方を学んだり。このマルマド舎は、最終的にはイベントスペースのようにしようと考えているそうだが、こうした人のつながりを生かすことによって、自分たちの想像を超えるような新しい場が生まれたら――。ふたりはそんな期待を胸に、日々作業を続けている。

凍てつく寒さのなか、ワークショップが終了! 次回のワークショップの情報は〈みる・とーぶ〉のFacebookに。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/