夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る……茶摘みの歌のとおり、春から夏へ移り変わるこの季節、福岡県糸島市にある〈いとしまシェアハウス〉でもお茶摘みが始まります。八十八夜は立春から数えて八十八日目、2018年だと5月2日になりますね。

長い冬を耐え抜き、やっと芽吹いた若葉の新茶は栄養価が高く旨み成分が多いといわれ、八十八夜に摘んだお茶を飲めば、その年は1年病気をしないといういい伝えがあります。

釜炒り茶のお茶葉は棒状ではなく、丸まっています。

釜炒り茶のお茶葉は棒状ではなく、丸まっています。

我が家のお茶は〈釜炒り茶〉。

もともとお茶をつくるきっかけになったのが、ご近所さんからのお茶のおすそ分けでした。「私らだけじゃ飲みきらんから〜」とガサッと手渡された大量のお茶は、埼玉出身の私が見ると、いつものお茶と様子が違います。お茶の葉がねじれてくるりと丸まり、色は深い緑色。

さっそくお茶を淹れて飲んでみると……何このお茶! おいしい! 驚いてご近所さんに聞いてみると、このお茶は手づくりだそうで、それならぜひ、私たちにも教えてください! とお願いし、お茶づくりを教わるようになったのが始まりでした。

日本で飲まれるお茶は、95%以上が蒸してつくられたもの。釜炒り茶は珍しく、貴重品とされています。

日本で飲まれるお茶は、95%以上が蒸してつくられたもの。釜炒り茶は珍しく、貴重品とされています。

釜炒り茶は、生の茶葉を釜で炒って揉んで乾燥させた緑茶です。もともと15世紀前後に中国から伝わったといわれており、そう考えると釜炒り茶の産地が九州なのも納得ですね。

色は美しい黄金色、さっぱりとした風味が特徴です。一般的な緑茶に比べて香り高く、保存変質しにくいということで、この日に1年分のお茶を自給する私たちにとってはありがたい存在です。

それではさっそく、お茶摘みへ

茶摘みの様子

糸島に移住してギャップを感じたのが、そこかしこにお茶の木が生えていること!“お茶”というと、均一に丸くカットされたお茶の木がズラーッと並ぶお茶畑をイメージしていたのですが、ここのお茶の木はもっとカジュアル&ワイルド。

生活のなかにすっと入り込んでいるのです。たとえば、道端の石垣に、駐車場の端っこに、なんとなく生えているあの木。よく見たらあれも、これも、お茶の木じゃない?気がついたときは驚きました。

昔の人たちは、敷地内にお茶の木を植えることで、お茶も自分たちで手づくりしていたのですね。すごいなあ。

一芯二葉。新茶の一番おいしいところだけを摘む、上級品のお茶の摘み方です。

一芯二葉。新茶の一番おいしいところだけを摘む、上級品のお茶の摘み方です。

新芽の先端から2枚の葉の部分を摘み採る「一芯二葉」の方法でお茶の若葉を手摘みしていきます。ツヤツヤの若葉の手触りと、ぷちんと切れる葉の感触が楽しくて、あっという間に背負いかごが満杯になりました。

釜炒り茶のつくり方

持ち帰った若葉を炭火で温めた中華鍋で炒り、やわらかくなったお茶葉をゴザに広げ、手で揉んで香りを閉じ込めます。

お茶の葉は直接手で炒るので、手が火傷しそうになるくらい熱くなります! 初めてのお茶づくりでは、熱くて作業が進まなくて、ご近所さんに呆れられたっけ。(ご近所さんの手の皮が分厚すぎるという噂も……?)

生葉を炒ると、すっきりとしたお茶の香りがあたり一面に広がります。“香り高い”といわれる釜炒り茶だけあって、すばらしい香気。

これを何度か繰り返し、お茶の葉がくるりと丸まったら陰干しでしばらく乾燥させます。水分が飛んで、ぱりっとしたらでき上がり。

手づくりのお茶を飲んでみると、すっと鼻に抜ける芳ばしい香りと、口の中をふんわりと包み込むまろやかな甘みで、飲むだけで幸せになれる、魔法の飲みものが完成しました! 保存もできるので、友だちへのプレゼントにも重宝しています。

新茶なら、こんな楽しみ方も

そしてお茶摘みのもうひとつの楽しみが、お茶の葉の天ぷら。お茶の新芽は香りが爽やかでやさしく、苦味が少ないため食べやすいのです。

血糖値の抑制やコレステロール低下、肥満予防などの効果があるといわれているお茶の葉ですが、食べることで余すところなく、そしておいしく栄養を摂取することができます。

摘んだばかりの新芽はあっという間に茶色く変色してしまうので、摘んだその日に天ぷらに。サクッと口に含めば、ほろ苦く、上品なお抹茶をいただいているよう。お酒好きな方にも、たまらない味なのではないでしょうか。

お茶の葉が手に入らない……という方は、飲み終わったあとの新茶の茶葉でかき揚げをつくってみてはいかがですか。キッチンペーパーで水気をとり、桜エビや玉ねぎなどを加えて揚げるとさらにおいしくなります。茶葉の風味を味わうために、塩で召し上がってみてください。

その季節しか食べられない! という謳い文句にめっぽう弱い私。そういう類のものが特においしく感じるのは、体が旬のものを欲しがっているせいでしょうか。

毎日「今しか食べられない」を更新しながら(?)おいしいもの探しの暮らし、楽しんでいます。

今日のシェハウスごはん

毎年我が家で開催している、“野菜がお金の代わり”の音楽&アートイベント〈ギブミーベジタブル〉! 入場料もアーティストのギャラも、野菜。参加者さんが持ってきた野菜たちが料理人の手によってすばらしい料理に生まれ変わります。

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CHIHARU HATAKEYAMA

畠山千春

はたけやま・ちはる●新米猟師兼ライター。3.11をきっかけに「自分の暮らしを自分でつくる」活動をスタート。2011年より鳥を絞めて食べるワークショップを開催。2013年狩猟免許取得、狩猟・皮なめしを行う。現在は福岡県にて食べもの、エネルギー、仕事を自分たちでつくる〈いとしまシェアハウス〉を運営。2014年『わたし、解体はじめました―狩猟女子の暮らしづくり』(木楽舎)。第9回ロハスデザイン大賞2014ヒト部門大賞受賞。ブログ:ちはるの森