岩手に来たことがある人なら一度は見たことのあるはずの銘菓〈田むらの梅〉、〈ごま摺り団子〉。もしくは、マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのファンならご存知「ごま蜜だんご」。これらはすべて、岩手県一関市に拠点を置く老舗和菓子店〈松栄堂〉が100年以上かけて生み出しだてきたお菓子だ。

全一関市民が知っていると言っても過言ではない、地元で人気のお土産物の秘密を、同社社長の小野寺宏眞さんにうかがった。

代表取締役社長の小野寺宏眞さん。会計事務所出身、ユーモアと芯の強さが同居するアラフォー経営者だ。

代表取締役社長の小野寺宏眞さん。会計事務所出身、ユーモアと芯の強さが同居するアラフォー経営者だ。

変わらないもの、変わるもの

一関市中心部の地主町。古い蔵が建ち並び、雰囲気のある〈世嬉の一酒造〉やジャズ喫茶〈ベイシー〉が建ち並ぶ、一関きっての歴史を誇る商人のまちに、松栄堂総本店はある。

創業は明治36年、今年115周年を迎えた。初代の小野寺主馬蔵(しゅめぞう)氏が菓子屋として店を構えて以来、ずっとこの地に根づいてきた。

昭和30〜40年代頃の松栄堂総本店を写した懐かしい写真。

昭和30〜40年代頃の松栄堂総本店を写した懐かしい写真。

蔵に飾られていた、昔使っていたという菓子木型。

蔵に飾られていた、昔使っていたという菓子木型。

「伝統を大切にしつつも、時代に合わせて常に変わり続けることで、松栄堂はこれまで商売を続けてこられました。北東北有数の米どころで独特のもち文化が残る一関市、平泉町の素材にこだわりながら、米を原材料とした和菓子づくりを基本に、創業のこの場所でその時々のニーズに合う商品をつくってきました」

そう教えてくれたのは、現在5代目を継ぐ小野寺宏眞さんだ。

初代〜2代目の時代に同社初の看板商品〈田むらの梅〉を、3代目〜4代目の時代にはヒット商品となった〈ごま摺り団子〉を、そして現在に至る4代目〜5代目の時代には〈平泉 黄金餅〉を開発。世代を超えて親しまれる市民スイーツ&定番お土産物として定着させてきた。

代々、愛されてきた味

「まずは〈田むらの梅〉。大正時代に一関藩主だった田村家の子孫からの依頼を受け、梅をこよなく愛したという初代藩主にちなんでつくられた、梅の果肉を練りこんだ白餡を求肥と青紫蘇で包んだ甘い和菓子。特に年配の方にファンが多く、茶菓子としても好まれています」

「昭和のバブル期に生まれた〈ごま摺り団子〉は、香ばしいごま摺り蜜を団子で包んだ、“ぷにゅチュル”な独特の食感が楽しい。『ジョジョの奇妙な冒険』の主人公、定助の好物で、彼は『プチュウゥッ』と楽しんでいましたが」

「そして〈平泉 黄金餅〉。“小金持ち”ではありません(笑)。“もち文化”と“黄金文化”をキーワードに、昨年平泉町と共同開発した新しいもち菓子。ふんだんに使った金ごまの濃厚な味わいが特徴で、インバウンド客など外国人にも人気が高い商品です。それぞれ開発された時代も趣向もターゲットも違いますが、できるだけ地元の素材を使いながら地元の文化を守り、発信していきたいという思いは共通しています」

100年続く老舗だから、追求したいこと

自身が手がけた新商品〈平泉 黄金餅〉を同社の二大名物に並ぶ主力商品に押し上げた小野寺さんが家業を継いだのは、今から8年前のこと。大学進学後、東京の会計事務所で働いていた彼は、いつかは地元に戻り、廃れつつあった地主町を盛り上げたいと思っていた。

「小さい頃から『レールが敷かれているな』とは気づいていたんですけど、いろいろな時期を経て、やっぱり自分から地元のために何かしたいと思うようになった。地主町の商店街もどんどんシャッター街になっていたし、ここら辺で自分たちの世代が何かしないと、という気持ちが強くなっていったんです。

うちは100年以上もこのまちで暮らしながら商売をしてきたんですけど、『ここで商売をする意味って何だろう?』と考えたときに、やっぱり、ここにしかないものを発信していくこと、人に来てもらうことだと思ったんです。それは創業の頃から徹底して守り抜いてきたことでもあるんですけど、自分はさらに突き詰めて地場の原材料を使いながら、商品を通じて“もち文化”を発信していけないかと、模索しているところです」

入手困難な地元産素材

そんな小野寺さんがまずこだわったのが、地元産のもち米や米粉の確保。一関市内と平泉町内で積極的に契約農家を増やし、近年中の原材料の完全地産化を目指している。

「今一番苦労しているのが、〈田むらの梅〉に使う地元産青紫蘇ですね。当初は家内生産、次第に一関の契約農家さんのもので賄っていたのですが、出荷数の増加や農家さんの廃業などが重なり、どんどん地場産の確保が難しくなってきている。岩手県南地域にまで拡大しても状況は同じで、生産システムを含め、根本的な新しいシステムをつくるべく奔走しています。地元の農家さんにとってもメリットのある態勢を、なんとか築かないといけない。

砂糖など、無理なものは無理なので、できるものはとことん追求していきたいんです。しかも〈田むらの梅〉は70年以上、一関銘菓として親しまれてきた象徴的な存在なので、特に地場産を実現したい。それが引いては、お客様に一関や平泉により強い関心を持ってもらうことにつながると思うので」

“ジョジョ”に登場するお菓子を限定販売

自社商品を通じて一関に興味を持ってもらう試みとして、昨年2017年には仙台市出身の漫画家、荒木飛呂彦氏の人気作品『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズと〈ごま摺り団子〉のコラボ商品を発売した。荒木氏の好物であるごま摺り団子をモチーフにした、作中で登場する〈杜王銘菓 ごま蜜だんご〉の商品化は、”ジョジョ世代”の小野寺さんならではのアイデアだ。

「6年前にジョジョの原画展が開催された際にご一緒したのが初めてだったんですけど、昨年は原画入りのパッケージや、荒木さん直筆の“食べ方しおり”を製作したり、さらに力を入れてみました。この商品をきっかけに、たくさんのジョジョファンの方が全国からわざわざ本店まで来てくれました。地元の人だけでなく外の人も、ここ地主町に繰り返し来てもらうことが、松栄堂ができる一番の活性化だと思っているので、とてもうれしかったですね」

コミュニケーションの場所としての店舗

情報発信やECなど、消費者との接点が広がっていく今、小野寺さんは、一関市の総本店の重要性をあらためて感じている。

「これも初代から続く伝統なのですが、やっぱり人が集う拠点ってとても重要だと思うんです。経営面だけ見たら確かに効率化を図ったほうがいいのですが、お店ほどお客様としっかりコミュニケーションがとれる場所はない。

ECや取扱店を増やすことも重要ですけど、人が集まり、コミュニティができる店舗は、地元に親しまれながら商売を続けるうえで必要不可欠なんじゃないかと思うんです。松栄堂はずっと地元に支え続けられてきたので、できる限りそのスタンスは保ち続けていきたいです」

さらに、昨年12月には、東京・浅草の商業施設〈まるごとにっぽん〉の1階に〈いわての餅屋〉をオープンした。あえて松栄堂の屋号を冠せず、コンセプトや出自をよりわかりやすく伝えられるような店名をつけた。

「販路拡大だけでなく、首都圏のお客様に、一関や平泉へ足を運んでもらうきっかけをつくりたいというのが、大きな目的。徐々にですが、このお店をきっかけに地元に足を運んでもらえるような機会も増えてきました。JR一ノ関駅前にある観光・物産拠点〈一BA(いちば)〉と連動した企画なども、ゆくゆくは考えていきたいですね」

もっと地元に溶け込みたいとういう想いから、3代目の時代から直営店では洋菓子の製造・販売も行ってきた。

「ここにしかないものを発信すること」「人に来てもらうこと」。このふたつの命題を軸に、強くも軽やかに115年の伝統を受け継ぐ小野寺さんこそ、時代に合った新たな魅力を引き出してくれるに違いない。まずは、銘菓を愉しみに一関市の地主町の松栄堂本店をふらり訪れてみてはいかがだろうか。

information

菓匠 松栄堂総本店

住所:岩手県一関市地主町3-36

TEL:0191-23-5008

営業時間:8:30〜18:00(日曜 9:00〜18:00)

http://www.shoeidoh.co.jp/

photographer profile

Kohei Shikama

志鎌康平

山形県生まれ。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て、山形へ帰郷。東京と山形に拠点を設けながら、日本全国の人、土地、食、文化を撮影することをライフワークとしています。山を駆け、湖でカヌーをし、4歳の娘と遊ぶのが楽しみ。山形ビエンナーレ公式フォトグラファー。http://www.shikamakohei.com/

writer profile

Kei Sato

佐藤 啓(射的)

ライフスタイル誌『ecocolo』などの編集長を務めた後、心身ともに疲れ果てフリーランスの編集者/ライターに。田舎で昼寝すること、スキップすることで心癒される、初老の小さなおっさんです。現在は世界スキップ連盟会長として場所を選ばずスキップ中。https://m.facebook.com/InternatinalSkipFederation/