タネまきから収穫までを体験しながら英会話

新学期の始まりに合わせて、この地域でまたひとつ新しい試みをスタートさせた。2016年に岩見沢の山里、毛陽地区に移住したトシくん、こと阿部恵(さとし)さんと一緒に、毎週木曜日に英会話の会を立ち上げたのだ。開催場所はトシくんの畑。マニラの大学で農業を専攻していたトシくんが、森の中をたったひとりで開墾した畑の一角が教室となる。

トシくんのお母さんはフィリピン人、お父さんは日本人。大学までマニラで育ち、道内で農業の研修をした後、毛陽地区に土地を見つけて移住。

トシくんのお母さんはフィリピン人、お父さんは日本人。大学までマニラで育ち、道内で農業の研修をした後、毛陽地区に土地を見つけて移住。

きっかけは、この連載で1月にトシくんを取材したことだった。取材を通じてトシくんが、家族はもちろん、あらゆる人に対して深い愛情をもって接していることにわたしは感動した。

以前から彼が子どもたちと英会話をやってみたいと考えていたことは知っていたが、英語の勉強もさることながら、人を心から大切に想う、その本質のようなものを、子どもたちとシェアしてもらえたらどんなにすてきだろうと思ったのだった。

連載の記事を書いてほどなくして、「英会話の会をやってみませんか?」と、トシくんにお願いをしたところ、彼はとても喜んでくれた。

「畑でタネをまいたり収穫してそれを食べたりしながら英会話をしたいですね。子どもたち用の畑を、ぼくのところにつくりますよ」

〈トシくんと畑で英会話〉は、昨年より企画している〈みる・とーぶSchool〉というワークショップイベントの一環として開催することにした。〈みる・とーぶ〉とは、岩見沢の山里をPRするために、地域おこし推進員や地元の仲間たちが集まった有志のグループのこと。

〈トシくんと畑で英会話〉は、昨年より企画している〈みる・とーぶSchool〉というワークショップイベントの一環として開催することにした。〈みる・とーぶ〉とは、岩見沢の山里をPRするために、地域おこし推進員や地元の仲間たちが集まった有志のグループのこと。

ご近所さんたちと心を通わせる場

4月26日、第1回目の英会話を開催した。この日は、息子も通う近隣の小学校の児童全員が来てくれた。過疎化が進み、全校児童は小学1年〜4年の7名ではあるが、仕事を持つ親も多いなかで平日にフルメンバーが揃うのはなかなかないこと。ほかにも市内から車で30分ほどかけて来てくれた親子もいて、にぎやかな会となった。

参加希望者が多く定員を超える11名が集まった。

参加希望者が多く定員を超える11名が集まった。

トシくんの愛犬マップもお出迎え。

トシくんの愛犬マップもお出迎え。

トシくんは、この日のために畑の一角に囲いをつくってくれた。この囲いに入ったら、トシくんは英語オンリー。生徒となる親子が日本語で話しかけたとしても、答えは英語。囲いの中に、みんなジャンプして入り、英会話の教室が始まった。

まず、トシくんはギターを持ち「Won’t You Be My Neighbor?」という歌を歌ってくれた。この歌は、アメリカで1968年から2001年まで放映されていた『Mister Rogers’ Neighborhood』という子ども向け番組のテーマソング。この番組の企画と司会を務めたフレッド・ロジャースさんは、「子育てに関して深く考えている人」だそうで、大好きな番組とトシくん。

Neighborhoodはご近所さんの意味で、トシくんによると単なる隣人というだけでなく、気持ちの通い合っている友人というニュアンスがある言葉なのだという。

「わたしとご近所さん(仲良し)になりませんか?」

この歌はそう相手に語りかけ、目の前に広がる世界の美しさを分かち合うという歌詞だ。自然に囲まれた畑の中にいるわたしたちに、ぴったりの歌だった。

自己紹介をしたあとは、いよいよ畑仕事。数名のチームに分かれ、折り紙ゲームでなんのタネをまくかを決めていった。大根、にんじん、キュウリと、チームそれぞれでポットにタネまき。種類によってタネの形が違うことや、大根はひとつのポットにタネを3つ、キュウリはひとつなど教えてもらいながら、子どもたちは土とたわむれていた。

「Radish!」「Carrot!」「Cucumber!」

トシくんの発音に合わせて、子どもたちも野菜の名前を大きな声で繰り返している光景を見ながら、わたしは10数年前に自分が受けた英会話のレッスンを思い出していた。

当時、東京の出版社に勤めながら、夜に週1回、英会話スクールに通っていたが、文法のクラスを受講した頃から足が遠のき、2年弱で挫折。仕事の関係で、ときおり海外のアーティストなどにインタビューすることもあるが、通訳さんなしではコミュニケーションもほとんどできず、いつも苦手意識を感じていた。

こんなわたしであったが、子どもたちと一緒に畑の中で英語を聞いたり話したりするのは、とても楽しいひとときだった。また、五感を働かせながら話す英語は、強く心に残ることにも気がついた。

英会話と聞いて最初は乗り気でなかった息子も、一度体験して考えが変わったようだ。家に戻るなり、夫に「今日は、ぼく大根チームだったんだよ〜! あっ、英語で大根ってなんて言うんだっけ?」とうれしそうに話していた。さらに来週も英会話をやると伝えると「ヤッター!」と喜んでいたことには驚いた。

「英語は、遊んだり体験するなかで学ぶといいと思います」

そうトシくんが言っていたとおり、どうやら息子の心にも響くものがあったようだ。

学びの場の自給自足について考える

生き生きとした表情を見せていたのは息子ばかりではない。小学校の子どもたちみんなが、英会話をすることよりもなによりも、森の中の畑で思いっきり走り回って、心が解放されている様子を見ることができた。

今回、なぜ英会話の会を始めたいと思ったか、その背景には、小学校でいま問題となっている、2020年度から順次実施される新学習指導要領のことがある。

息子の小学校の先生によると、授業にグループワークやディスカッションが取り入れられており、少人数クラスでは、決められた学習の課題を主体的・対話的に解決できないことがあるようだ。

この話を聞いたことは、小学校のあり方や教育について見つめ直すよい機会となり、親もいろいろと動いてみる必要があるのではないかと考えるようになった。

これまで自給自足に興味をもってきたが、それは食料やエネルギーだけにとどまらず、教育にも当てはまるのではないか。少人数クラスでできないことがあると考えると親としては不安になるが、地域ならではの「学びの場」を手づくりしていくことで、より多様な選択肢が生まれるのではないか。

トシくんとの英会話をはじめとする〈みる・とーぶSchool〉の活動を通じて、わたしは教育の自給自足について考えていきたいと思っているところだ。

英会話だけでなく、休日にもみる・とーぶSchoolを企画中。ドイツ発祥のボール運動遊び「バルシューレ」を、はだしでのびのびやろうというワークショップ、参加者募集中。

information

トシくんと畑で英会話

開催日時:毎週木曜日 15:00〜16:30

場所:岩見沢市毛陽町

予約はみる・とーぶFacebookから

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/