自然とともにある暮らしで何が変わった?

伊豆下田に移住して1年が経った津留崎さん。養蜂場の農園づくりの仕事をしていることもあり、日常的に自然の中に身を置く暮らしをしています。そこで今回は、この季節に下田で見られるさまざまなものをご紹介。そして、あらためて気づいた、移住して変わったこととは。

日常的に自然に触れる暮らし

4月があっという間に過ぎ去って5月になった感じがします。移住してからちょうど1年の節目となる4月には娘の小学校入学という、わが家にとっても大きな出来事があり、その準備やら何やらでとても忙しくしていました。

でも、思い返してみると、東京で暮らしていたときも4月はとても忙しかったです。会社員だったときには、新入社員が入ってきたり、新しい役職をもらったり。そして、3月末から始まる送別会やら歓迎会やら。さらには、その時期にちょうど咲く桜。「あ〜、桜咲いた。花見の段取りしなきゃ……」あまり、桜を楽しむという感じではなかったかもしれません。

そして、無事に花見を終えると、次はGWです。会社員にとってGWには貴重な長期休暇。これでもか! というくらいに、がむしゃらに旅行やらキャンプやらに行ってました。

例えばどこに行ってたんだっけな? 4年前、娘が2歳のときのGWの写真をひっぱりだして見てみました。前半は山梨でキャンプ、後半は飛行機とフェリーで小豆島というなかなかハードな行程

例えばどこに行ってたんだっけな? 4年前、娘が2歳のときのGWの写真をひっぱりだして見てみました。前半は山梨でキャンプ、後半は飛行機とフェリーで小豆島というなかなかハードな行程。当時は妻も僕も会社員、毎年GWや盆休みは予定を詰めこんでいたのです。

実は小豆島には、コロカルの移住連載の先輩でもある三村さんに会いに行きました。

実は小豆島には、コロカルの移住連載の先輩でもある三村さんに会いに行きました。移住を意識し始めていた自分たちにとって、移住を決断し実行した三村さんの話はとても刺激的でした。いま、この僕らの連載を見て下田へ来てくれる人がいる。なんだかうれしいですね。

そして、行った先々でこう思ってました。

「自然はいいなあ〜、こんなとこで暮らしたい……」

そんな暮らしを求めて昨年、念願の移住を決行しました。移住後に縁がつながり、就いた仕事のひとつが〈高橋養蜂〉の養蜂場の農園づくりということもあり、日常的に自然の中に身を置く暮らしをしています。

ミツバチたち

ミツバチたち、暖かくなって元気に飛び回っています。

vol.28で書いた「ミツバチの楽園づくり」、いまは獣害対策の柵をつくっています。柵ができたらレモンなどの蜜源植物を植える予定です。でも、まだ農園は鹿の糞だらけ。楽園への道は遠い……。

下田の春の生き物たち

日常的に自然の中に身を置くようになると、いままで気づかなかった「季節の変化」に気づくようになってきました。

東京で暮らしていたときに感じていた季節の変化といえば、「桜」の次は……なんだったかなあ……、「あじさい」かな……? という感じでした。日々のことに振り回されていて、自然を感じる余裕がなかったのです。

そんな僕でしたが「桜」と「あじさい」の間にはいくつもの変化があるという、当たり前すぎることを下田に移住したこの歳になって知りました。

例えば、「桜」と「あじさい」、その間を埋めるものとして知ったもののひとつに「もみじの花」があります。

もみじの花は桜が散る頃に咲き始めました。たまたま蜂の羽音が妙に響いていたので、見上げてみると、この1本のもみじの木にどれくらいの蜂がきているのか? というほどの多くの蜂が集まっていました。

そして、もみじの花が散ると藤の花が咲き始めました。

また、養蜂場には冬は見なかったさまざまな昆虫、動物の姿を、春になってから日々、目にします。

こんな迫力満点の蛇から……

こんなかわいい仲良しカップルまで。

また、自宅には暖かくなってきて、招かれざる客がやってきました……。

旬のおいしいもの、そして大切な「水」

こちらでの暮らしでは目にするものだけでなく、口にするものも季節によって大きく変わります。

4月にはたくさんのワカメをいただきました。ある友人は「下田のワカメのバケツリレーの時期」と評していましたが、まさにそんな感じです。旬のいただきものは本当においしくて毎度感謝しています。

海のものだけでなく、山のものも出回ります。この春にはたくさんのワラビ、タケノコをいただきました。

庭の枇杷の実もどんどん大きくなっています。

自宅近くの道ばたにも食べられる野草が生えています。

季節とはあまり関係ありませんが、高橋養蜂の近くには名水「落合の水」が湧き出ています。

実は、この連載の最初に、移住先の条件として「湧き水」や「井戸水」を飲んで暮らせるところが理想と掲げていました。遠く離れた浄水場で殺菌している水道水にも、さらに遠く離れたところから運ばれてくるペットボトルの水にも違和感を感じていたのです。

生命の維持に最も大切ともいえる「水」。その土地が生み出した自然のままの水をいただけるありがたさを日々感じています。

移住して気づいた、自分の変化

このように自然の恵み豊かな伊豆下田。

地元の人に「なんで便利な東京を離れて下田に移住したのですか?」という質問を受けることが多くあります。

きっかけは「暮らしを変えたい」「自然豊かな環境で子育てをしたい」ことだったと話しています。

では、実際に移住してみてどうだったのか?

暮らしも変わりました。自然豊かな環境での子育ても、とてもいいものだと日々実感しています。

でも、想像していなかった自分の変化があります。

それは、「自然に生かされている、自分も自然の一部である」と、それこそ自然に思えるようになったことです。

例えば、高橋養蜂の開拓中の農園には、いまのところトイレはありません。なので、作業中、用を足すときには農園の端のほうにさせてもらいます。微生物がすぐに分解してくれるので臭いもなく、トイレより快適なくらいです(眺めも最高ですし)。

現代社会では排泄物は下水に流して、遠く離れた処理施設で燃料を使って処理するという、厄介なものになってしまいました。でも、自然の中にあっては本来、排泄物ですら循環の一部なのだと実感できます。

先に挙げた湧き水を飲むときにもそれを感じるのです。この地に降った雨が、山の地層でろ過されて岩盤の割れ目から出てくる。水道水やペットボトルの水では感じることのできない「自然への感謝の気持ち」が涌いてきます。

この4月で移住して1年、田舎暮らしはまだまだ始まったばかり。「都会」から「自然の近く」という環境の違いで、自分がここまで変化するとは思っていませんでした。

5月には今年から挑戦する米づくりがいよいよ始まりました。

初めての米づくり、やってみて自分にどんな変化があるのか。もちろん自分たちでつくった米を食べるのも楽しみですが、そんな自分の変化も楽しみにしています。

文 津留崎鎮生

text & photograph

Shizuo Tsurusaki

津留崎鎮生

つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram