本の仕入れは、什器はどうする?

5月、新緑が美しい、いい季節です。この記事を書いているのは5月の中旬、南阿蘇鉄道のこの駅から見える田には水が張られていますが、苗植えはまだ。風が吹けばさざ波が立ちキラキラと光を反射し、静まれば水鏡のように周りの風景を映し出す。この時期だけに見ることができる景色です。

ここでこの景色を見るのももう3回目。〈ひなた文庫〉は今年の5月3日でプレオープンから3周年を迎えました。前回お話ししたように、南阿蘇鉄道のこの無人駅がとても気に入って、村役場に「古本屋をやりたいです!」と提案したところ、拍子抜けするくらいすんなりと承諾してもらえたのでした。

その後は開業まで慌てて準備をすることになります。というのも、ゆっくり本棚や書籍を準備して、8月くらいにオープンできたらなと思っていたところ、役場の方から、ゴールデンウィークに合わせてオープンしてほしいと依頼されたのです。

承諾の返事をもらったのが2月末、あと3か月程しかありません。その間に、古物商の許可に本棚の準備、売り物となる書籍も揃えなければなりません。古物商の許可証は書類を集めて警察署に届ければ、3週間程でもらうことができます。問題は販売する書籍とそれを並べる什器をどうするか。

だいたいの古書店で店頭に並べてある書籍は、お客様からの買取品か古書組合での競りで得たものです。古書組合に加入すれば、競りでほかの古書店が出品している多種多様な本を入札して仕入れることができます。一気に在庫を増やそうと思えば、古書組合に加入して仕入れるのが一番でしょう。ただ入会するのに数十万円の費用がかかります。

私たちは普段は別の仕事もしつつ営業する予定でしたし、10坪程の待合として利用される駅舎内を満たすのには、そんなにたくさんの本は必要ありません。

オープンまでの時間もないので、まずは自分たちが所有している本をメインに、それ以外は古本屋やインターネットでせどりをして集めることにしました。それから先は、売れた本の利益で次の本を仕入れて、というサイクルで現在まで至っています。

もうひとつの問題、什器となる棚は、駅舎の雰囲気を崩さない棚を置きたいと、雑誌を見たり、インテリアショップや古道具屋をいくつか巡りました。

そして隣町の古道具屋で、以前は小学校の理科室で使われていたらしい硝子戸つきの大きな戸棚を見つけました。単行本もちょうど入る大きさで、木の色合いも少し濃い茶色、駅の床の色に似ていました。

「このサイズのものはなかなかないよ」と古道具屋のおじさんにも言われ、買うことを決心。4段の戸棚でしたが、それでは大きすぎるので、上下2段ずつにバラして自分たちで上面に板を張り、分けて使うことにしました。

その棚だけでは少ないので、さらにりんご箱を積み重ねて使うことに。無垢のりんご箱を仕入れましたが、そのままでは表面がガサガサで本が傷んでしまいます。ヤスリで滑らかにして、色も落ち着いた色に塗りました。

店を開くたび、すべての本に触れる

この駅は無人駅のため、営業していない平日などは本を片づけて帰ります。駅舎の扉に鍵をかけることはできないので、営業のたびに本を出して、しまってを繰り返すことになります。大きな戸棚には鍵をかけて、りんご箱は中に本をしまって、その都度片づけて帰ることにしました。

毎回出して並べて、営業できる状態にするのにだいたい30分程かかります。この作業、結構大変です。でも、全然苦にはならないのです。

なぜなら営業するたびに、ほとんどすべての本に触れることができるから。りんご箱にしまった本はそのたびに並べて、しまってを繰り返しますし、今日はこの本を目立つところに置いてみようとか、天気がいいからピクニックに行きたくなる本を選んでひとまとまりにしてみようとか、その日の思いつきで本棚を構成したりもします。

いつ来てもまったく同じ配置で営業することはありません。どんな本屋さんでも、営業のたびに店頭のすべての本に触れているというのはなかなかないのではないでしょうか。すべての本を読了しているわけではありませんが、どれも思い入れのあるものばかりで、毎回そのすべてに触れる、その作業自体が愛おしいと感じています。

ということで許可証、書籍、棚と準備を終えましたが、まだまだ試運転状態のため、プレオープンとして、ここ「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」に2015年5月3日、ひなた文庫をオープンしました。

当日は車で駅舎に本を運び込み、約2000冊の本を並べました。その日はお祝いに駆けつけてくれた友人数人と、たまたま来た旅行者の方数名がぱらぱらと見ていってくれ、ひっそりとした始まりとなりました。

information

ひなた文庫

住所:熊本県阿蘇郡南阿蘇村大字中松1220-1

営業時間:金・土曜日のみ 11:00〜15:30

http://www.hinatabunko.jp

writer profile

Emi Nakao

中尾恵美

なかお・えみ●1989年、岡山県勝田郡生まれ。広島市立大学国際学部卒業。出版社の広告営業、書店員を経て2015年から〈ひなた文庫〉店主。