「DIY」という言葉が社会に浸透してきたいま、家や店舗のセルフリノベーションに憧れている人も少なくないはずだ。しかし、本棚やテーブルづくりなどとは違い、家や部屋そのもののセルフリノベーションとなると、ハードルが途端に高くなる。チャレンジしてみたものの、素人では手に負えない問題に直面して、途方に暮れてしまうオーナーの事例も耳にする。

そのような理想と現実のはざまで立ち往生している施主を救い、道筋をつけてあげる「駆け込み寺」のような場所が、富山市の中心部にある。〈think. DIY CAFE〉だ。

富山市旭町、花水木通りに面したthink. DIY cafe。

富山市旭町、花水木通りに面したthink. DIY CAFE。

富山県にはここ数年、小規模ながら個性豊かなセルフリノベーションのショップが誕生し続けている。その裏側にはthink. DIY CAFEが関係しているといった事例が少なくない。そこで今回はthink. DIY CAFEのオーナーにして建築士の金木由美子さんに、金木さん流の店舗づくり、ひいてはまちのにぎわいづくりについて聞いた。

セルフリノベーションを考える人の「ショールーム」

think. DIY CAFEは、名前からもわかるように、まずカフェとして近隣の人たちに親しまれている。1階の店舗には限られたスペースながらテーブル席が2セット、畳敷きの6畳間に座卓が3セット、広縁にはローテーブルとソファが置かれている。

築50年以上の一戸建てをリノベーションした事務所兼店舗。

築50年以上の一戸建てをリノベーションした事務所兼店舗。

メニューも各種ドリンクからケーキ、夏季限定でアイスクリームと飲食店としての機能を立派に果たしているが、その一方で築50年の一軒家をリノベーションした店舗そのものが、古民家や昭和レトロな古い家をセルフリノベーションして店舗を開きたい人に向けた「ショールーム」にもなっている。

実際に店舗づくりの相談を兼ねて来店する新規開業予定者も少なくないそうで、その出会いがかたちとなり、この数年、富山に個性的なショップがいくつも誕生した。

think. DIY CAFEのオープンは2014年。金木さんはもともとハウスメーカーの設計社員として新築住宅づくりに携わっていた。しかし、子どもの大病を機にフルタイムで働く会社勤めに限界を感じ、比較的自分で時間の都合をつけられる仕事として、設計事務所の立ち上げを考えたという。

ただ、最初から現在のようなスタイルを計画していたわけではなく、始まりは現在の物件との出会いがすべてだったと語る。

「事務所に使う物件を探すために不動産屋さんに行くと、ちょうどこの物件が空いたところでした。もともとは一戸建て賃貸の物件で、いろいろな人が普通に住んでいた場所ですが、何気なく“ここだったらカフェができる”と口にすると、案内をしてくれた不動産のスタッフさんもおもしろがってくれて、カフェ経営が可能か大家さんに聞いてみるとおっしゃってくれました。

本当に思いつきで口にしただけで、実際は何も考えていなかったのですが、勢い余ってお金の工面に走り始めた感じです(笑)」

オーナーにして建築士の金木由美子さん。

オーナーにして建築士の金木由美子さん。

「そこで商工会に足を運び、古い家をローコストでリノベーションして、まちなかで小さく商売をする人が増えたら富山もおもしろくなるのではという思いを伝えました。すると商工会の課長さんがおもしろがってくれて、国の創業者補助金の話を教えてくれました。

商工会に相談に行った時期が2014年の6月の第1週、補助金の締め切りが6月末。6月30日に書類を提出し、7月1日に会社には辞表を出して、結果を待ちました。あとには引けない状況でしたが、ありがたく採択され、国から200万円の補助金を受けてスタートしたんです」

最初は事務所を借りる予定で訪れたレトロな古い家に魅力を感じ、「勢い余って」事務所でカフェを開業するかたちになった。しかし、この経験自体が、古民家や古い家をセルフリノベーションしてローコストで小さく商売を始めたいと考える開業予定者たちの道しるべになり、後のthink. DIY CAFE流の店舗設計業務につながっていく。

補助金について聞きたい、空き家を改修して商売を始めるコストについて聞きたいなど相談内容はバラバラだというが、相談者が増え、結果として古い建物をリノベーションした店舗設計の仕事が舞い込み始めた。相談者にとってはthink. DIY CAFEそのものが、手に取り触れて歩き回れる、何よりも雄弁な実物見本になってくれたのだ。

think. DIY CAFEが後押しした農村のブックカフェ〈コメ書房〉

富山県南砺市、木彫刻で有名な井波で、ブックカフェ〈コメ書房〉を立ち上げたオーナー、高橋悠太さんも、think. DIY CAFEに足を運び、セルフリノベーションのサポートを金木さんに相談したひとりだ。

金木さんによれば、「いい物件と、いいオーナーのマッチングでできあがったすてきなお店」というブックカフェで、井波の農村で昭和ひとけたの時代から建つ納屋を、移住者であるオーナーが自ら大幅にリノベーションをして、店舗としてオープンさせた。

オーナーの高橋さんによれば、かねてから自宅に併設されていた納屋をブックカフェとしてオープンしたいと考えていたそうで、「できるところは自分で」とセルフリノベーションにもチャレンジしたいと構想を描いていた。その中でthink. DIY CAFEの存在を知り、実際に足を運んで、金木さんに相談を持ち掛けたという。

一方の金木さんによれば、相談を受け物件に足を運ぶと、田園風景に存在する力のある納屋を前に、「そのまま何もしなくていい」と感じたという。建築士としては保健所への申請が通るように空間設計をまとめるだけにとどめて、あとはオーナー夫妻の思いを聞き、セルフリノベーションのサポート役に徹した。

もちろん、電気、水道、ガスなど基本的な工事には事業者の手も入っているというが、結果として生まれたブックカフェは、金木さんの言葉を借りれば「頑張ってカッコよくした空間ではなく、その土地に当たり前に存在した古い建物特有の心地いい空間」に仕上がった。

さらに金木さんによると、この手のセルフリノベーションの入ったお店は、オーナー自身の継続的な「編集」が、お店の個性を高めていくケースも多いのだという。

「特に店舗の場合は、設計する側のお仕着せではなく、オーナーさんが自分で手を加えていくお店のほうが絶対におもしろいです。

1回DIYをするスキルが身についたオーナーさんは、自分で自分のお店を“編集”できるようになります。そうなると古い建物を大事に使う気持ちも生まれますし、建物にもいいですし、お客さんも常に新鮮さを味わえて、お店がオーナーさんの個性に合ったかたちにどんどん近づいていきます。そういう個性的でおもしろいお店が富山に増えればいいと思っています」

コメ書房も現在は店舗スペースが1階だけにとどまっているが、2階には手つかずの空間が残されている。オーナーの高橋さんも将来的には2階を使って、何かおもしろい試みに挑戦したいと語っていた。オーナーによる編集で、お店の個性が高まる未来が待っているのだ。

魅力的なお店づくりが、まちのにぎわいをもつくっていく

古くからの物件が持つ魅力とオーナーの思いをすり合わせて、DIYでかたちにしていくthink. DIY CAFEの仕事は、県内の各地で展開されている。

時系列は前後するが、富山市の花屋〈4646農園〉なども好例で、同店はオーナー家族が総出で大幅にセルフリノベーションを行い、現在は富山を代表する人気店に成長した。4646農園が入ったテナントは、当初は空室がほとんどだったというが、同店の盛況がほかのショップを呼び寄せるかたちで、人のにぎわいが創出され、現在はすべてが埋まっているという。

新築の魅力を認めるものの、風景になじんだ昔からの建物を大事にセルフリノベーションして生かしてあげるというこのthink. DIY CAFEの基本的なスタンスは、どこから来ているのだろうか。

「私はハウスメーカーで新築事業に携わらせてもらい、他社との競争のなかで新築物件の設計をずっとやってきました。30代までは負けないぞという気持ちで戦ってこられたのですが、40代になり体力や気力に変化が生じると、いままでの仕事に少し疑問を感じ始めるようにもなりました。もともと古い建物だとか、古い民芸品などに興味があったので、古い物件を扱う仕事に自然と目が向きました」

「また、古い物件をリノベーションする際に、断熱だとか、耐震だとかを考え始めると、建物に対してオーバースペックになる部分がどうしても出てきます。その状態でどうやってコストを抑えればいいかと考えると、施主さんにDIYしてもらう方法が一番になってきます」

当たり前の話だが、飲食店などの立ち上げにはお金がかかる。最初から豊富な資金を持って事業をスタートできれば理想的だが、借金をして事業を始めるケースがほとんどのはずだ。

「ですが、借り入れが最初の段階で大きいと、返済のための商売になってしまいます。原価率をシビアに考えて、売り上げを出さなければと追い込まれると、本来その人がオープンのときにやりたかったお店の方向性とずれていってしまうケースが少なくありません。

そうではなく、ひとりで回せる範囲で、自分のやりたいコンセプトを守ったまま小さく商売をしたほうが、お店の個性も高まるはずです。そういうこだわりを持った小さいお店がまちなかの狭いエリアに増えたほうが、まちそのものの魅力も高まり、観光客も住民も楽しいと思います」

だからこそ、出店にお金のかかるまちなかであっても、初期投資と店舗経営の負担が軽く済むように、必要に応じて出店希望者と古い物件のマッチングを行い、一部でもセルフリノベーションを後押して、魅力的なお店づくり、ひいては魅力的なまちづくりに貢献していく。そのわかりやすい実例が、富山市の中心部に店舗を構えるthink. DIY CAFEなのだ。

「これからは生涯独身で過ごす方も増えると思います。そういう方がまちなかで安く古い家を買い、工夫してリノベーションを行いながら、その1階をテナントとして若い世代に安く貸し出して、その収益を返済の一部に回すといった方法も、今後は企画していきたいと思います」

富山市はほかの地方都市と同じく、若い世代が郊外に家を構え、逆にまちなかに空き家が目立つといった現状がある。まちなかに住む筆者の近所にあった、かつて映画の撮影にも使われた桜並木沿いの古い家も、いつの間にか空き家になっていた。取り壊しが始まったあとで、数年間家主不在だったと聞かされた。残念な話だが、いまではさら地になり、味気のない空白をまちなかにつくり出している。

金木さんの活動がさらなる広がりを見せれば、空き家の数の分だけ、まちなかに魅力あるにぎわいが増えるという未来が待っているはずだ。

取材では今後の計画もいくつか聞かせてもらった。構想を語るなか、涙を流す場面もあった。そばにいる大事な人を助けるために建築士として何ができるかを考え続け、挑戦する、愛に満ちた涙だった。

金木さんについては、仕事だけでなく「とても思いやりのあるいい人」「気さくで誰とでも仲良し」など、人柄に対する評判も耳にする。やさしく愛に満ちた建築家のまちづくりに、今後も大いに注目したい。

information

think. DIY CAFE 

住所:富山市旭町3-6

TEL:076-464-5545

営業時間:13:00〜18:00、土・日曜・祝日 11:00〜18:00

定休日:水・木曜

http://thinkdiycafe.com

information

コメ書房

住所:富山県南砺市院瀬見180

TEL:0763-82-2655

営業時間:10:00〜18:00

定休日:日・月・火曜(臨時休業の場合あり)

https://komeshobo.shopinfo.jp

writer profile

Masayoshi Sakamoto

坂本正敬

さかもと・まさよし●翻訳家/ライター。1979年東京生まれ、埼玉育ち、富山県在住。成城大学文芸学部芸術学科卒。国内外の紙媒体、WEB媒体の記事を日本語と英語で執筆する。海外プレスツアー参加・取材実績多数。主な訳書に『クールジャパン一般常識』(クールジャパン講師会)。大手出版社の媒体内で月間MVP賞を9回受賞する。

photographer pforile

Yoshiyasu Shiba

柴佳安

しば・よしやす●富山生れ富山育ち。高校生の頃に報道写真やグラビアに魅せられ、写真を独学で始める。富山を拠点に、人をテーマとした写真を各種の媒体で撮影。〈yslab(ワイズラボ)〉 主宰。