キャベツを使ったシュークリーム!? 有名パティシエを唸らせる高校生のアイデア!

ケーキづくりに青春をかける高校生たちの物語。それは〈貝印スイーツ甲子園〉という舞台で花開く。1年に1回開催されているこの“甲子園”を目指し、全国のパティシエ志望の高校生たちがしのぎを削っている。

2019年9月15日、第12回決勝大会が〈武蔵野調理師専門学校〉を会場として開催された。春から行われていた全国予選を、全350チーム(125校)から勝ち抜いてきたのは、東京のレコールバンタン高等部「Rig(リグ)」、愛知の学校法人糸菊学園 名古屋調理師専門学校「amusant(アミュゾン)」、大阪のレコールバンタン高等部大阪校「etoile(エトワール)」、そして福岡の嶋田学園 飯塚高等学校「muguet(ミュゲ)」の4チーム。

決勝大会の直前、そのうちの1チーム、飯塚高等学校「muguet」の練習風景を取材した。メンバーは永末優華さん、近藤愛華さん、片桐野慧(のえ)さんの3人だ。

 「muguet」の3人が通う飯塚高校。

「muguet」の3人が通う飯塚高校。

飯塚高校では、まず2月に8チームをつくった。そのなかから5月に校内での予選が行われ、5チームに絞られた。今年はその5チームすべてがそのまま書類審査に応募したという。そして書類審査、予選と突破し、本選に出場したのが永末さん、近藤さん、片桐さんの「muguet」だった。

今大会のテーマは「カスタードを使ったケーキ」。3人はまずはどんなケーキにするか考えなくてはならない。

「カスタードと聞いて、代表的なスイーツとしてシュークリームが思い浮かびました。“シュー”は本来フランス語でキャベツだと知り、今回、材料として使ってみたいと思いました。周りにシューであるキャベツを巻いたら、シュークリームになるかなと」と教えてくれたのはチームのムードメーカーである片桐さん。

「muguet」は、最近はやりつつある野菜を使用したケーキに挑戦することにした。

当初の試作では「まったくおいしくなかった」らしい。顧問の林田英二先生も「物語としてはいいけど、本物のキャベツを使うとロールキャベツのような感じで切れるかどうか不安でした。そこでチョコレートなどを使ったキャベツ風でもいいのではないかと提案した」という。

(左から)林田英二先生、永末優華さん、近藤愛華さん、片桐野慧さん。

(左から)林田英二先生、永末優華さん、近藤愛華さん、片桐野慧さん。

しかしメンバー3人で相談した結果、本物のキャベツを使うことに挑戦すると決断した。ポイントはキャベツの甘み。一番工夫し、労力を割いた点だという。

シロップで炊いてみると、キャベツが乾燥したように白くなってしまって、切ることもできない状態に。さまざまな手法を試したが、キャベツを茹でて、はちみつとレモンでつけ込むことになった。

ただおいしくつくるのと、予選や決勝ですぐに審査員に食べてもらうのではつくり方が微妙に変わってくる。すぐ食べてもらうことを想定した甘みやかたさのバランスが必要になってくる。そういった目線はすでにプロではないか。

学校での練習風景。

学校での練習風景。

はちみつとレモンでつけ込んでいるキャベツ。短時間で完成するよう試行錯誤を重ねた。

はちみつとレモンでつけ込んでいるキャベツ。短時間で完成するよう試行錯誤を重ねた。

「muguet」の3人は、飯塚高校・製菓コースのなかで、部活動でも製菓部に所属している。通常の授業コースでは、基本的なものを学ぶことに精一杯で、細工などは部活動内で本などを見ながら、自主的に勉強しているという。

だからこのケーキの土台には、ダックワーズ、サブレ、ダマンド、ババロアなど基本的なケーキが層となっている。自分たちにできることの精度を高めつつ、さらに技術や知識を上乗せしているのだ。

大会序盤から真剣な眼差しだったリーダーの近藤愛華さん。

大会序盤から真剣な眼差しだったリーダーの近藤愛華さん。

土台をつくる永末優華さん。

土台をつくる永末優華さん。

初めてケーキをつくってみたときは、なんと5時間36分かかったという。決勝大会の制限時間は2時間30分。そこまで短縮するには、きっと練習・実習を繰り返し行ったに違いない。

林田先生は、全員がすべての作業をできるように指導したという。

「みんなでケーキをつくって、みんなで飾りをつくる。もちろん基本的な担当分けはありますが、遅れたときに手伝えるように、誰が何をやってもできるようにしておきました。『考えてつくろうね』と、毎日、言っています」

バラの飾りひとつを1分半以内でつくるという細かい制約をつけて練習した。

バラの飾りひとつを1分半以内でつくるという細かい制約をつけて練習した。

予選も決勝も、その舞台は自分たちの慣れた環境ではないので、現場対応力が求められる。実際に決勝でも、冷蔵庫の“冷え”が悪いという事態も発生していた。そんなときにでも、みんなでフォローしあえること、それがチームワークなのだろう。

環境も道具も違う。本番で練習の成果を発揮できるか?

そんな「muguet」にも、とうとう本番が訪れた。しっかりと練習の成果が発揮できるだろうか。

西日本Aブロック代表の飯塚高等学校「muguet」チーム。

西日本Aブロック代表の飯塚高等学校「muguet」チーム。

各チームともこの日に向けて練習を重ねてきているが、自分の学校の調理室と違う環境でケーキづくりを行なわなければならない。オーブンも、冷蔵庫も、調理台の広さも、そして室温も違う。デリケートなケーキだけに、ほんの少しの違いが仕上がりに大きな影響を与えてしまうこともある。

東日本Aブロック代表の名古屋調理師専門学校「amusant」チーム。

東日本Aブロック代表の名古屋調理師専門学校「amusant」チーム。

さらには審査員からは間近に見られているし、応援団もすぐ横で見ている。緊張するなというほうが無理かもしれないが、参加している生徒たちは、いざ始まってしまうと体が自然と動き出していているようだった。これから2時間30分後には、4種類の「カスタードを使ったケーキ」が完成するのだ。

審査員のひとり〈Patisserie Noliette〉オーナーシェフ・永井紀之シェフに目の前で作業をチェックされてしまう。

審査員のひとり〈Patisserie Noliette〉オーナーシェフ・永井紀之シェフが目の前で作業をチェックする。

〈Toshi Yoroizuka〉オーナーシェフ・鎧塚俊彦シェフも真剣な眼差し。

〈Toshi Yoroizuka〉オーナーシェフ・鎧塚俊彦シェフも真剣な眼差し。

前半の1時間程度は、どのチームもケーキの土台づくり。どうしても完成したときの装飾に目を奪われてしまうが、当然、味も審査基準のなかで大きなウェートを占めている。その味を大きく左右するのが土台のケーキだろう。審査員は全員、現役のパティシエなので、見た目だけでごまかされるようなことはない。

調理の様子

土台の装飾に集中するレコールバンタン高等部大阪校「etoile」の鈴木妃菜さん。

土台の装飾に集中するレコールバンタン高等部大阪校「etoile」の鈴木妃菜さん。

もちろん審査員は作業過程もしっかり見ている。ひとつはチームワーク。相談しながらつくることはもちろん、声かけにも表れていた。チーム内でお互いに声をかけあい、「○○します!」「はい!」という声は、進行の確認にもなるし、お互いの安心感にもつながるだろう。

もうひとつは、道具の扱いや掃除など。道具を雑に扱ったり、使ったものをそのまま放置しているようでは半人前。その点はどのチームも徹底していた。作業台の上に余計な道具や材料はほとんど出ておらず、常にピカピカ。使用したものはすぐに洗って片づける。ケーキの味や技術では現時点でプロに到底叶うわけがないが、掃除や片づけならば高校生にでも負けずにできる。自分たちにでもできることならば一生懸命に行うという姿勢はすばらしい。

レコールバンタン高等部「Rig」の及川 麗さん(左)と高橋愛華さん(右)。常にコミュニケーションを取っていた。

レコールバンタン高等部「Rig」の及川 麗さん(左)と高橋愛華さん(右)。常にコミュニケーションを取っていた。

「プロでも失敗することがある」緊張の最終仕上げ。

どんどん時間が迫ってくる。どのチームも順調に最終工程に進んでいるようだ。飴細工やマジパン、チョコレートなどの細工を仕上げ、土台の上にデコレートしていく。

飯塚高等学校「muguet」の応援ボードを持って応援する顧問の林田先生。

飯塚高等学校「muguet」の応援ボードを持って応援する顧問の林田先生。

「どのチームも手の込んだ細工になっているので、どれひとつ欠かせないパーツになっていますよね。最後にあせらないように、より一層慎重に」というのは審査員の〈Patisserie Noliette〉オーナーシェフ・永井紀之シェフ。

同様に「最後はプロでも問題が発生することがある。でもパニックにならず、そのときにできるベストを」とアドバイスする〈Toshi Yoroizuka〉オーナーシェフ・鎧塚俊彦シェフ。

周囲の騒音に集中を切らすことなく冷静に進行するレコールバンタン高等部「Rig」の浦慎之介さん。

周囲の騒音に集中を切らすことなく冷静に進行するレコールバンタン高等部「Rig」の浦慎之介さん。

手のひらでマジパン加工するレコールバンタン高等部大阪校「etoile」吉岡果笑さん。

手のひらでマジパン加工するレコールバンタン高等部大阪校「etoile」吉岡果笑さん。

残り数分、どのチームも微調整に入っていて、ほとんど完成に近づいている。周囲の心配をよそに、大きなトラブルは発生していないようだ。どれも繊細な細工ばかりで見ているこちらがハラハラする。早く「できました!」の声が聞きたい。

見ているとケーキ自体は完成しているのに、生徒たちは最後の掃除と片づけ。それがすベて終わり、作業台の上には完成したケーキだけという状態になってから、とうとう「できました!」の声があがった。

各チームとも立体的な装飾に挑んでいた。

各チームとも立体的な装飾に挑んでいた。

その後は審査員による審査や試食、最終プレゼンテーションを経て、各賞の発表となった。

見事、優勝の栄冠に輝いたのは、名古屋調理師専門学校「amusant」!〈不思議の国のアリス〉と紅茶文化をかけ合わせ「不思議の国のティーパーティー」という作品を表現し、副賞のパリ研修旅行を得た。

優勝作品「不思議の国のティーパーティー」。カスタードの発祥の地がイギリスであることを調べ、イギリスの紅茶文化やアフタヌーンティーをイメージしたという

優勝作品「不思議の国のティーパーティー」。カスタードの発祥の地がイギリスであることを調べ、イギリスの紅茶文化やアフタヌーンティーをイメージしたという

優勝を喜ぶ名古屋調理師専門学校「amusant」チームの大橋瑛麻さん(左)、田中双葉さん(中)、櫻木美佳さん(右)。

優勝を喜ぶ名古屋調理師専門学校「amusant」チームの大橋瑛麻さん(左)、田中双葉さん(中)、櫻木美佳さん(右)。

さらに「八嶋智人賞」と「貝印賞」をダブル受賞したのは、レコールバンタン高等部「Rig」。カスタードの材料である卵と牛乳に注目し、その材料をつくってくれる動物たちでケーキを飾った。

さて、飯塚高校「muguet」はというと……、今年から新設された「ヨックモック賞」を見事受賞!〈ヨックモック〉の佐藤典明さんによれば「ユニークな発想をしていた」ことが受賞の決め手になったとのこと。

授賞式の様子

副賞はオリジナルレシピの共同開発。これはかなり大きなプレゼントといえるだろう。なんといっても自分たちのアイデアがただの思い出ではなく形に残るのだ。しかも商品として発売される。

飯塚高校のケーキ、作品名は「show someone a good time」。

飯塚高校のケーキ、作品名は「show someone a good time」。

閉会式後、すぐに別室でヨックモックの担当者と打ち合わせが行われた。いきなりのことに生徒たちも驚いただろう。しかしビジネスのスピード感を肌で感じてくれたかもしれない。

さっそく、ヨックモックの担当者と打ち合わせ。〈サンクビジュー〉という商品の新味を共同開発する。2020年4月から約2週間、青山本店と受賞校地区の百貨店にて期間限定販売される予定。

さっそく、ヨックモックの担当者と打ち合わせ。〈サンクビジュー〉という商品の新味を共同開発する。2020年4月から約2週間、青山本店と受賞校地区の百貨店にて期間限定販売される予定。

この日参加した生徒の多くは、製菓系専門学校に進んだり、ケーキ店などに就職したりするだろう。仮にパティシエの道に進まなくとも、とてもいい経験になったはずだ。

鎧塚シェフは「こういう環境で楽しめる人は伸びる」と言っていたし、大会アドバイザーを努めるフランス菓子・料理研究家の大森由紀子さんは「この先、荒波がきても、今日を思いだしてほしい」と語る。笑いあり、涙あり。貝印スイーツ甲子園は、まっすぐに努力する高校生たちが活き活きと躍動する場となっている。

information

貝印スイーツ甲子園

https://www.kai-group.com/fun/koushien/top.html

貝印株式会社

https://www.kai-group.com/

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:黒川ひろみ