あらためて考える、自然と電気、都市と地方のこと

今後期待される、再生可能エネルギーや自然エネルギーへの転換。けれどまだまだ課題もあるようです。津留崎さんが移住した下田市とそのお隣の南伊豆町で浮上した洋上風力発電事業計画。海に巨大な風車を設置するというものですが調べてみると驚くようなことばかりで……。首都圏に暮らす人にも無関係ではない、エネルギーの話。

再生可能エネルギーへの転換は歓迎すべきことだけど……

台風15号、19号で被害を受けた地域の方々にはあらためてお見舞い申し上げます。ここ伊豆下田も、屋根、壁が飛んでしまった建物も多く、そして、停電が長く続いた地域もありました。

下田の海。遠くには灯台が

特に海沿いの地域には強い風が吹き、被害が大きかった。自然は美しくも厳しい、そんなことを痛感します。

わが家も停電しましたが、消えては点いてを何度か繰り返す程度で、そこまで事態が深刻にならずで、本当にホッとしました。また、水が数日間止まった地域もあったようです。倒木による通行止めは各所で発生していました。

そんなこともあり、この台風という「自然」の脅威を目の当たりにして、普段あたり前に使っている「電気」「水」「道路」というインフラの重要性を感じます。そんな時期に、まさにその「自然」と「電気」について考えさせられる計画が持ち上がり、小さなまちの大きな話題となっていました。

それは伊豆半島の南、下田市とお隣、南伊豆町の沖合での「洋上風力発電事業」の計画です。

今回は、そんなキッカケにより、あらためて考えるようになった自然と電気、都市と地方についての話です。

白い砂浜

当初、この計画を知ったときはこう感じました。

個人的にも、化石燃料に頼りすぎる暮らしはしたくない、と、それなりに気を使ってきたつもりです(ペットボトルやコンビニ弁当はなるべく買わない、無駄な電気は使わないようにはしています。といってもガソリンで動く車やバイクには乗ります。家電やIT機器がなければ暮らせません。日常の範囲でやれることはやろうというレベルです)。

地球温暖化がこれだけ顕著になっているこの時代、その原因のひとつとも言われるCO2排出を減らすために、「化石燃料」での発電から、太陽光や風力での発電、つまり「再生可能エネルギー」「自然エネルギー」に転換していくことは歓迎すべきことなはずだ、と。

下田の湧き水スポット

この連載では何度かお伝えしていますが、移住してから湧き水暮らしをしています。お陰でほとんどペットボトルを消費することはなくなりました。災害での断水のリスクもあるこのご時世、湧き水があるというのは心強いです。

でも、よく調べて、よく考えてみると、この事業をただ再生可能エネルギー・自然エネルギーだからと闇雲に歓迎するのはいかがなものか? とも感じるようになりました。

夕暮れの海

写真提供:猪又留美

きっと、移住せずに東京で、またはほかの都市で暮らしていたならば、伊豆の海での洋上風力発電事業を地球温暖化対策のひとつの動きとして、何の疑いもなく歓迎していたと思います。

ところがいまは、その事業が計画されている海があるまちに暮らしているのです。その感じ方は随分と違うのかもしれません。

洋上風力発電計画を報じた新聞紙面

2019年8月27日付の伊豆新聞。

驚くべき洋上風力発電事業計画

まず、南伊豆洋上風力発電計画について調べてみて驚いたことが、その規模の大きさや岸からの近さでした。

その設置範囲は沖合1キロから、最大高さ260メートルもの風車が50基〜100基も建設されるという計画なのです。

1キロ? 260メートル? といってもいまいちピンときませんでしたが、東京都庁が243メートルと聞き、その巨大さを実感しました。

そして、1キロがどれくらいかというと……。たとえば都庁からの距離でいうと、オペラシティのある初台駅あたりが1キロの距離らしいのです。こっちのほうがピンとこないという方もいるかもですが、東京に住んでいた時分にはその辺をうろうろしていたので、個人的にはかなりピンときました。

「初台から見ての都庁? かなりの圧迫感……。それが50基以上も……?」と、感じざるをえませんでした。

洋上風車の大きさを説明した写真

有志の方が洋上風車の大きさをわかりやすく説明するために作成した合成写真。こんな大きい風車見たことない……と思うのは当然で、世界的にもまだ建設されたことのないサイズの風車だそうです。

そんな風車の設置範囲の岸には多くの民家があります。相当な圧迫感のもとで暮らすことになるのでしょう。そして、この地域が誇る「美しい海」の景観も大きく変わることになります。

そうはいっても、「地球温暖化を防ぐ」という大義名分のためなら、圧迫感や景観が変わることくらい我慢しろよ……そんな考え方もあるかもしれません。

でも、ここ下田市や南伊豆町はいわゆる「ビーチリゾート」ともいえる観光地です。

地域が誇る美しい海や、都会では感じることのできない「豊かな自然」を求めて多くの観光の方がいらっしゃる、観光業が主幹産業といえる地域です。

では、ビーチリゾートのビーチの沖合1キロに都庁よりも大きい260メートルの巨大風車が林立していたら……?

高台から見た下田の海

右側の山の頂上が160メートルほど。260メートルがいかに巨大かがわかります。陸上風車の場合、付近の住民からは健康被害を訴える事例も多くあると聞きます。岸から1キロの洋上の場合はどうなのでしょうか? 岸辺には多くの民家や施設があるので気になるところです。

さらに驚くべきことに、風力発電施設の寿命は長くて20年だそうなのです。20年経ち、お役御免となったときに事業主が撤去しなければいけない決まりもない、とのこと。つまり、使われなくなった朽ちた風車が沖合にそびえ建つ、そんな景観になってしまう可能性があるというのです。

廃墟となったホテル

下田市内には高度経済成長時に建ち、その後廃業、そのままになっている廃墟のようなホテルがいくつもあり、かなり異様な景観となっています。沖に動いていない朽ちた風車が建っていたら……景観を損なうだけでなく、岸に破片などが流れ着くリスクも考えられます。

果たして、そんなビーチにリゾート目的で来る人はいるのだろうか?

ビーチリゾートとしての魅力を保てなければ、この地域の主幹産業「観光業」が大きなダメージを受けてしまいます。主幹産業が大きなダメージを受けるようなことがあったら、この地域はどうなってしまうのだろうか? 不安になってしまいます。

そんなことを考えると、あらためてこの地域にとって美しい海、豊かな自然がどれだけかけがえのないモノなのか? をあらためて実感しました。

カラフルな魚が泳ぐ水中写真

南伊豆町のヒリゾ浜は多様な魚を間近で見ることができる人気のシュノーケリングスポットです。伊豆の海は貴重な生態系を保っていることでも知られています。その生態系は巨大な風車が設置されたらどのような影響がでるのでしょうか?(写真提供:平嶋裕二)

でも、この洋上風力発電事業はそんなかけがえのない「美しい海」「豊かな自然」のど真ん中に計画されているのです。

ヨーロッパでの洋上風車

洋上風力発電が盛んなヨーロッパの海は遠浅。風車は岸から離れた沖合に建設されることが多いのですが、日本の海はヨーロッパと違いすぐに深くなるので、岸から1キロからという岸に近い設置範囲のようです。(参考写真)

事業計画のある地域の視点で考える

では、この風車でつくる電気はどこにいくのか? 調べてみました。下田、南伊豆沖でつくられた電気は海底ケーブルで運ばれて、最終的には東京電力に売電する計画のようです。そして、事業を計画している企業は東京の外資系企業。

つまり、この地域で消費するために、この地域に利益をもたらすために、つくられる電気ではないということ。

それを知って、かなり複雑な気持ちになりました。持続可能な社会のために再生可能エネルギーや自然エネルギーへの転換はちろん大切なことでしょう。でも、地方の自然を犠牲にして、地方の産業がダメージを受けて、一企業や投資家が利益をあげる。そんな構図は果たして持続可能なのだろうか? と。

そして、さらに調べていくとまだまだ驚きの事実が……。

地元自治体(市・町)や住民には洋上の風力発電事業を許可する権限がない、ということです。地元自治体や住民にできることはあくまで「意見する」ことだけ。

地域の自然はこうした大規模な発電施設が建設されると大きく変わってしまう。さらには、美しい海があって主幹産業の観光業が成り立っているようなこの地域の場合は、自然の変化といったことだけでなく、暮らしの基盤を失うことになりかねないのです。でも、地元自治体や住民は「意見する」ことしかできないのです。

静岡県知事が出席したイベントの様子

静岡県知事が下田で出席するイベントがあったので出席しました。知事は「自然に対する冒涜だ」と計画に対して懸念の姿勢を表明。住民の気持ちを代弁してくれたようで心強く感じました。

そして、11月に入り最終的な許認可権限のある経済産業省大臣の現時点でのこの計画に対する意見が公表されました。いままさに、この事業が当初の事業計画のまま遂行されるのかどうかというやり取りがなされている真っ只中なのです。

東京で暮らしていた時の自分であれば、なぜ地元自治体は反対しているのか? 地球温暖化のことを考えたら、早急に化石燃料から再生可能エネルギーへの転換をすべき時なのではないのか? と感じていたかもしれません。

でも、いまは移住して、大規模な再生可能エネルギー・自然エネルギーの洋上風力発電事業が計画されている海のある地域に暮らしています。

すると、別の視点を持つようになったのです。

自然を大規模に変えすぎて起こっているともいえる地球温暖化の解決策として、また、自然を大規模に変えようとしている、と。

では、どうすればよいのか? 最近、そんなことをずっと考えています。

夕日が海に沈む

要するに、この計画のように、発電施設が大規模になっていくのは経済的な効率を求めた結果。でも、環境への配慮や災害時の対応を優先するならば、小規模分散型の発電がいいはず……。たとえばそんな小規模分散型の仕組みをこの伊豆で構築できないのか?

そもそも、気候に左右される再生可能エネルギーだけでは安定性に欠けるため、原発や化石燃料での発電からの脱却は難しいという事実もあるといいます。

では、まず目指すべきは大規模再生可能エネルギーへの転換ではなく、無駄なエネルギーの使用を控えること、大量生産大量消費という社会のあり方を変えることではないのか?

いやいや、それを言うならばまずは自分が実践しなければ……。日々、悶々としております。

こうして、こんな計画が身近に持ち上がったことが、自らの生活を顧みて、地域やエネルギー、社会について考えるきっかけになりました。きっかけがないと深く考えることができない自分が悲しくなりますが……。

とにかく、この計画の成り行きを見守りながら考え続けてみようと思います。自然とエネルギーのこと。都市と地方のこと。

宵の下田の海と空

写真提供:矢野このみ

文 津留崎鎮生

text & photograph

Shizuo Tsurusaki

津留崎鎮生

つるさき・しずお●1974年東京生まれ東京育ち。大学で建築を学ぶ。その後、建築家の弟子、自営業でのカフェバー経営、リノベーション業界で数社と職を転々としながらも、地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。移住先探しの旅を経て2017年4月に伊豆下田に移住。この地で見つけたいくつかの仕事をしつつ、家や庭をいじりながら暮らしてます。Facebook Instagram