さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。第5回は、総合格闘家の宇野薫さんが徳島に家族で遊びに行った話から始まります。しかしただ遊びに行くだけではなく格闘技やブラジリアン柔術を経由することで大きく膨れ上がり、宇野さんを徳島にどんどん引き込んでいったようです。

すべては試合用のトランクスから始まった

総合格闘技の試合をするときのコスチュームには、いろいろなタイプがあるが、僕はピタッとフィットしたタイプのものを使っている。古いタイプの水着のようなカタチ、といえばわかりやすいかもしれない。

2012年頃から愛用しているのは〈ナルトトランクス〉のものだ。いまはサーフトランクスがファッションアイテムとしても人気を博しているが、昔からスイムウェアをつくり続けてきたブランドである。

ナルトトランクスがつくってくれた試合用コスチューム。(写真提供:SUSUMU NAGAO)

ナルトトランクスがつくってくれた試合用コスチューム。(写真提供:SUSUMU NAGAO)

ナルトトランクスは名前からわかる通り、徳島県鳴門市に工房を構えている。2代目の山口輝陽志さんに誘われ、初めて鳴門に遊びに行ったのは、2014年の夏休みだったと思う。

僕が住んでいる横浜から車で8〜10時間かけて、家族みんなでドライブだ。鳴門に着いてからはサーフィンをしたり、海や川で遊んだり、釣りをしたり。自然のなかで遊ぶことがほとんど。普段は例に漏れずゲームが好きな子どもたちも、ここぞとばかりに楽しんでいた。それ以来、宇野家の徳島行きは、毎年夏休みの恒例行事となっていった。

徳島の海を満喫。

徳島の海を満喫。

総合格闘家という職業であるので、旅先でも最低限、ランニングくらいはしているのだが、だんだんと練習がしたくなってくる。

僕は数年前から総合格闘技と並行して、ブラジリアン柔術にも取り組んでいる。この“柔術”は最近人気が高く、全国各地にさまざまな道場ができている。2015年に徳島に行ったときは、〈グレイシーバッハ徳島〉という道場にコンタクトを取り、出稽古をさせてもらった。そこで現地のスタッフとも仲良くなり、毎年、お邪魔するようになった。

グレイシーバッハ徳島のみなさんと。

グレイシーバッハ徳島のみなさんと。

昨年(2019年)6月に、「SHOOTO 30th ANNIVERSARY『修斗杯柔術選手権2019』」という大会があった。なんと会場は徳島だ。そこで佐藤ルミナさんとエキシビションマッチをすることに。

以前、マガジンハウスの雑誌『relax』の誌面で、僕の柔術着を徳島の〈BUAISO〉という藍染めチームに染めてもらうという企画があった。その柔術着のお披露目を「いつ・どこに」しようかと考えていたのだが、これはもう絶好のタイミング!

藍染めということで、相手のルミナさんの柔術着に色が移ってしまうのではないかと心配だった。しかし、まったく色移りなどはせず、藍染めのすばらしさを、柔術を通して再認識することになった。

藍染めの柔術着。発色がいい。

藍染めの柔術着。発色がいい。

僕の20年来の友人に、村上 周くんというアーティスト/デザイナーがいる。彼の奥さんの実家が、徳島県三好市の大歩危・小歩危(おおぼけこぼけ)という場所で、〈百年蔵〉というアンティークショップと宿が一緒になったようなお店をやっている。

僕は、どのまちに行っても、見つければ必ずお店に入るくらいアンティークショップ好き。ここを訪れたときも、ファイヤーキングの食器とかリーバイスの人形など気になるものがあった。そのときはあきらめたけど、もちろん今でも欲しい……。

酒蔵をリノベーションした百年蔵。

酒蔵をリノベーションした百年蔵。

そしてこの村上くん、彼も最近、柔術を始めた。今年は一緒に、「グレイシーバッハ徳島に出稽古に行こう」なんて話をしている。

最初はただ家族で遊びに行っただけのつもりが、気がつけば徳島と格闘技、特に柔術との関係性がぐるぐる回りだし、不思議なネットワークを築いている。

柔術や格闘技、もちろんほかのスポーツでも、何かをやっていると、海外でも国内でも「一緒にやりましょう」なんて話になって、コミュニケーションをとりやすい。すぐ友だちにもなりやすい。そんなことを徳島に思うのだ。

徳島県三好市の大歩危・小歩危にある百年蔵の前にて。

徳島県三好市の大歩危・小歩危にある百年蔵の前にて。

これまで練習や大会に出場する目的などで海外に行くことも多く、個人的な興味としても海外に惹かれることが多かった。しかし徳島という土地に出合ってからは、日本国内にもきれいなところやごはんがおいしい場所がたくさんあることを知った。

だから最近では国内を旅することが楽しい。総合格闘技や柔術の道場も全国に増えているので、そこから呼ばれることも多くなり、それぞれの土地を知ることも楽しみのひとつになっている。

百年蔵の裏山を早朝ランニングしたら、きれいな朝日が待っていた。

百年蔵の裏山を早朝ランニングしたら、きれいな朝日が待っていた。

徳島や地方で格闘技をやっている人の様子を見ていると、大会で勝つことだけが目標ではなく、趣味として楽しんでやっているように見える。ローカルでのコミュニティのひとつにもなっているようだ。

もし近い将来、自分が地方でジムや道場をやることにでもなったら、「こういう感じになるのかな」なんて、夢見ている。

writer profile

Caol Uno

宇野薫

UNO DOJO ヘッドトレーナー/総合格闘家/〈UCS〉〈ONEHUNDRED ATHLETIC〉ディレクター兼アドバイザー。総合格闘技界の中軽量級におけるパイオニア的存在のファイター。1996年、〈プロ修斗〉をデビューのリングに選び、3年でチャンピオンまで登りつめる。その後も、米国のメジャー大会〈UFC(アルティメットファイティングチャンピオンシップ)〉、〈K-1〉、〈HERO’S〉、〈DREAM〉など数多くのリングを通して常にトップファイターたちに挑戦し強さを競い合う。2010年には再挑戦したUFCから凱旋し、階級を「-65kg」に落としてDREAMのリングに復帰。現在はMMAをはじめ、柔術やグラップリングの大会にも意欲的に参戦し、新たなる高みを目指して挑戦し続ける。また、初心者を中心とした〈UNO DOJO〉を開講しヘッドトレーナーを務め、オリジナルブランドUCSやスポーツアパレルブランドのONEHUNDRED ATHLETICの監修も務める。