山と畑の恵みたっぷりの、おいしいヴィーガンを

新潟駅から車で5分ほど、信濃川河口近くにあるまち、沼垂(ぬったり)。かつて港町として栄え、いまは静かなそのまちに、観光客や地元の人が行き交い、にぎわいを取り戻した通りがあります。

名前は「沼垂テラス商店街」。長屋を改装した建物に個性豊かな店がひしめき合い、どこか懐かしい趣も漂わせています。2019年8月、同商店街にヴィーガン(*)料理の店〈mountain△grocery(マウンテン・グロサリー)〉がオープンしました。

*ヴィーガン:動物の命を尊重し、人間は動物を搾取することなく生きるべきであるという考え。肉、魚介類、卵、乳製品などの動物性食品を口にせず、日常生活においても、極力毛皮や皮革をはじめとする動物性の素材を使用しない。動物愛護や環境保全の観点からその主義を守り抜く人が多い。

料理家yoyo.さんがオープンさせた〈mountain△grocery〉。

料理家yoyo.さんがオープンさせた〈mountain△grocery〉。

目印は淡いピンクのドアに窓枠、そしてちょっとポップなネオンサイン。店の中に入ると、キッチンに面したカウンター席とテーブル席がひとつ。奥には個室もあります。

キッチンに立つのは、店主のyoyo.(ヨーヨー)さん。きびきびと動き、元気な声で迎えてくれます。

東京に生まれ、もともとファッションの世界で活動していたyoyo.さんは、30歳のときに南インドを旅し、古くから伝わる菜食主義の文化に感銘を受けたのだとか。

それからは野菜中心の食生活に切り替え、2006年頃には東京・高円寺にて〈VEGEしょくどう〉という名で料理を提供するように。その後、原宿、沖縄県那覇市などへと拠点を移し、その土地土地の食文化を吸収しながら料理の腕を磨いてきました。

店内の椅子と一枚板を用いたテーブルは新潟県産の木材を用い、DIYで制作したもの。店舗デザインと家具の制作を手がけたのは〈デザインムジカ〉の安藤僚子さん。

店内の椅子と一枚板を用いたテーブルは新潟県産の木材を用い、DIYで制作したもの。店舗デザインと家具の制作を手がけたのは〈デザインムジカ〉の安藤僚子さん。

そんなyoyo.さんの店で食べられるのは、地場産の自然栽培の野菜をたっぷり使った「ファラフェルサンドプレート」。

自家製天然酵母のピタパンに揚げたてのファラフェルと総菜を挟んでいただくと、口の中に野菜の甘みやほろ苦さが広がり、野菜ってこんなに複雑な味わいがあるんだ、と新鮮な気持ちに。yoyo.さんが旅先で出会った、さまざまな料理のエッセンスが加えられているのも、この店ならではです。

ぜひ味わってほしいのは、なめらかなフムス。すーっと体に入っていくように感じられるのは、大量生産された加工品や添加物を使っていないせいかもしれません。

「ファラフェルサンドプレート」(1200円)ファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)と、ビーツのフムス、人参とブロッコリーのクミンソテー、長ネギと柿のマリネなど、日替わりの総菜が色鮮やかに並ぶ。ピタパン、スープつき。

「ファラフェルサンドプレート」(1200円)。ファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)と、ビーツのフムス、人参とブロッコリーのクミンソテー、長ネギと柿のマリネなど、日替わりの総菜が色鮮やかに並ぶ。ピタパン、スープつき。

ファラフェルのほか、〈ホシノコーヒーラボ〉の珈琲やヴィーガンケーキもおいしい。ヴィーガン料理は初めて、という方にもおすすめできるお店です。

そもそもyoyo.さんは、完全菜食主義ではないのだそう。新潟市に拠点を移す以前は、県内の山深い地域にも暮らしており、自然と共生してきた食文化と出会い、近所の猟師さんがしとめた猪をいただくことも。獣害の深刻さも知り、いろいろな料理にアレンジして、野生のお肉のおいしさを率先して周りに伝えていたといいます。

旧沼垂市場の長屋を改装して誕生した沼垂テラス商店街。手づくり総菜と佐渡牛乳ソフトクリームの店〈ルルックキッチン〉のスイーツもおすすめ。ぜひお立ち寄りを。

旧沼垂市場の長屋を改装して誕生した沼垂テラス商店街。手づくり総菜と佐渡牛乳ソフトクリームの店〈ルルックキッチン〉のスイーツもおすすめ。ぜひお立ち寄りを。

マウンテン・グロサリーのある商店街の長屋は、もともと市場として使われていた建物。近年は高齢化や郊外化の影響からシャッター街と化していましたが、この界隈に昭和40年から店を構える大衆割烹〈大佐渡たむら〉の2代目店主、田村寛さんが2010年に〈ルルックキッチン〉をオープン。その後、田村さんの呼びかけによって店が集まり始め、いまでは30近くの店が営業しています。

ファームと食べる人をつなぐ場所

ところで自然栽培は、無農薬野菜や有機野菜と何が違うのでしょうか?それは、肥料や農薬を使わず、自然本来の力を生かす農法のこと。低農薬や有機野菜を使ったレストランは増えてきましたが、自然栽培の野菜を扱っている店は、まだまだ珍しい存在です。その背景には、yoyo.さんと農家さんたちのつながりがありました。

「以前この場所で店を開いていたホシノコーヒーラボさんからここを引き継がせていただくことになったときに、ヴィーガンのパンケーキミックスをつくっている〈マリールゥ〉の鈴木誉也さんが、〈ふなくぼ農園〉や〈宮尾農園〉をはじめとする近隣の自然栽培系の農家さんを紹介してくれたんです。

新潟市近郊には自然栽培の農家さんのネットワークがあり、〈おひさま日曜市〉というマーケットを開いたり、〈人田畑〉という販売組合をつくったりと、いろんな活動をしているんですよ。この農法で自然の摂理に沿ってつくられた野菜は、慣行栽培のものと、ひと味もふた味も違うんです」

こちらは自然発酵させてつくっているヴィーガンキムチ。

こちらは自然発酵させてつくっているヴィーガンキムチ。

2016年暮れから新潟県糸魚川市の山深くに暮らしていたyoyo.さんは、2019年春に新潟市へと拠点を移しました。新潟市の野菜を取り巻く環境には、以前から魅力を感じていたといいます。

「新潟市には大好きな祖母が住んでいて、子どもの頃からよく遊びに来ていました。祖母のそばにいられるということに加え、おいしい野菜を提供できる環境が整っているということは、ここに暮らし、お店を開きたいと思った大きな理由のひとつです。新潟市には、自然栽培の野菜をつくる人がいて、マリールゥさんのように発信する人がいて、消費者がいる。いいサイクルがあると思ったんです。

アメリカには、都市型農業が進んでいるポートランドというまちがありますよね。都市の周りに農園があって、オーガニックの野菜をつくる人がいて、食べる人がいて、若い人の就農率も上がり、まちが活性化していくという好循環が生まれている。そのなかで、飲食店も重要な役割を果たしていて。

私も、気概だけはそういった役割を担う気持ちでやっています。ちゃんとできているかどうか、わからないですけれど(笑)。少しずつ食の大切さや新潟の食のシーンを広めていけたらいいですね」

マリールゥの鈴木さんに話をうかがうと、「野菜は土から抜いた瞬間に命が終わってしまうので、農家さんたちは『地元で食べてほしい』と言います。yoyo.さんのような、おいしいヴィーガン料理を提供してくれる方が来てくださって良かったです」と、太鼓判。yoyo.さんも「ここへ来て、食べてください」と語ってくれました。

〈マリールゥ〉の鈴木誉也さん。ヴィーガンのパンケーキミックスを販売したり、〈おひさま日曜市〉を開催するなどさまざまな活動を展開。

〈マリールゥ〉の鈴木誉也さん。ヴィーガンのパンケーキミックスを販売したり、〈おひさま日曜市〉を開催するなどさまざまな活動を展開。

またマウンテン・グロサリーでは、不定期でライブなどのイベントも開催しています。「ここから食だけではなく、文化も発信していきたい」と、yoyo.さん。これからますます、yoyo.さんのパワーとおいしいものに惹かれて、人が集まるスポットになっていきそうな予感がしました。

個室には、沼垂にある福祉事業所・NPO法人〈障がい者生活ステーション さんろーど〉で描かれた作品が。「すてきな絵とともに彼らの活動を伝えられたら」という思いから作品を紹介している。

個室には、沼垂にある福祉事業所・NPO法人〈障がい者生活ステーション さんろーど〉で描かれた作品が。「すてきな絵とともに彼らの活動を伝えられたら」という思いから作品を紹介している。

沼垂テラス商店街には、カフェや居酒屋などの飲食店のほか、本屋や陶器工房、コワーキングスペースなども。お店の人との会話も弾む、元気な人と情報が集まっているスポットです。新潟市を巡るなら、ここからトリップを始めてみては?

information

mountain△grocery マウンテン・グロサリー

住所:新潟市中央区沼垂東3-5-16

TEL:090-6516-8626

営業時間:12:00〜17:00

定休日:火・水・木曜(バータイム営業、不定休あり)

writer profile

Yu Miyakoshi

宮越裕生

みやこし・ゆう●神奈川県出身。大学で絵を学んだ後、ギャラリーや事務の仕事をへて2011年よりライターに。アートや旅、食などについて書いています。音楽好きだけど音痴。リリカルに生きるべく精進するまいにちです。

credit

撮影:ただ(ゆかい)