お正月、移住後の小さな変化

東京から伊豆下田へ移住して3度目のお正月を迎えた津留崎さん一家。いろいろな変化がありましたが、お正月にもちょっとした変化が。そのひとつが、正月飾り。下田には、東京では経験しなかった昔ながらの暮らしがまだ残っているようです。

スーパーの正月飾りに違和感が……

2019年も残すところあとわずか、という昨年の暮れ。仕事も片づいていないうえに、クリスマスやら正月準備やらやることがいっぱいでプチパニック状態に……。落ち着かない様子の私を、「またいつものことか」と夫と娘が一定の距離を保ちながら静観する。

すべては自分の無計画さが原因なのだと、そんな単純なことにようやく気づく。2020年は計画的に生きようと心に誓ったのでした。

天日干し中の大根

毎年たくあんを漬けているのですが、今季はすっかり忘れていて時期外れに漬け込むことになってしまいました。

ケーキのデコレーションをする娘

クリスマスケーキをつくるかたわらに、たくあん用の干し大根が並んでいるという……。1年のおおよその予定をカレンダーにひとつひとつ書き込もう。

そんなドタバタな年末に、地元のスーパーへ買い物に出かけたときのことです。店に入るとすぐ目に飛び込んできたのは、ずらりと陳列された正月飾り。それを見たら、なんだかいままで湧いたことのない違和感を感じました。

「ん? なんだろうこの感覚は……」と、自分でも不思議な気持ちになり、その正月飾りをじっと見つめてみる。そうして浮かんできたのは、自分でも意識していなかった東京と下田という環境の違いです。

準備中の正月飾り

東京に住んでいたときには、正月飾りといえば量販店で買うのが当たり前でした。もちろんこだわりのある方は手づくりのものをデパートやネットで購入するのでしょうが、私が日常よく目にしていたのは工場で生産されたものです。

けれど、下田でよく買い物をしている直売所には、年末になると地元の方がつくった正月飾りがずらりと並びます。伊豆で採れる「ホンダワラ」という海藻をあしらったものもあったりして、それぞれがとても個性的です。

そうしたものに触れているうちに、スーパーで整列している正月飾りがなんだか不自然に思えてしまったのです。

鈴木道明さん

一昨年、正月飾りのつくり方を教えてくださった鈴木道明さん。

手づくりのお正月

もちろん、工場生産されたものが悪いということではありません。ただ、両方を見比べられる環境にいたら、手づくりの正月飾りが本来の姿のように感じられたのです。

時代を少しさかのぼってみれば、もともとは各家庭でつくっていたはず。田んぼで刈り取った稲わらを干しておき、それを綯(な)って(編んでという意味)正月飾りをつくっていたのです。

と言いながら、東京生まれの私は実際には経験していないので、米どころ新潟出身の83歳になる義母に聞いてみました。すると、幼少期にはやはり家族で稲わらを綯って正月飾りをつくっていたそうです。

「まわりもみんな農家だったし、正月飾りを売ってるところなんてなかったよねぇ」と。そして、餅つきをするときに蒸かした餅米を母親につまみ食いさせてもらったんだ、なんて正月の話をとてもうれしそうにしてくれました。

友人みんなで餅つき中

お雑煮に入れるお餅にしても、東京ではパックされているものをスーパーで購入していました。下田では友人が餅つきをやるからと声をかけてくれたり、つきたてのお餅をいただくこともあります。

わが家の鏡餅

まわりに影響されて、下田に移住してからわが家も鏡餅をつくるようになりました。といっても、杵と臼はわが家には難儀……、パンをこねる機械を使っています。

そして、わが家の昨年の正月飾りはというと。

一昨年せっかく近所の方に教えてもらったのだから自分でつくろう、と思いながら、前述したようなひっ迫した状況に……。最後の力を振り絞って(大げさです)明日こそつくるぞ! と思っていたら、教えてくださった鈴木さんがわが家に届けてくれるという、なんとありがたいことか。

そうして12月28日にわが家の玄関に飾り、年越しを東京の実家で過ごしました。

玄関先に飾った正月飾り

お手製のおせち料理

姉と私でおせち料理をつくりました。手間はかかるけれど、母や兄、姉家族と正月食卓を囲むのはやはりいいもんだな〜と、あらためて感じた元日でした。

お正月の食卓

蒸した伊勢エビ

今年は漁師の友人から伊勢エビをわけていただき、東京に持参。正月の食卓が華やかに、ありがとう。

下田で続く、小正月の行事

さて、その正月飾りも東京にいたときには「いいのかな……」と思いながらゴミ箱へ捨てていました。けれど、下田では“どんど焼き”が小正月(1月15日)前後に各地区で行われています。

どんど焼きというのは、長い竹や木でやぐらを組み火をおこし、お正月に飾った門松や正月飾りを集めて焼く火祭りのことです。五穀豊穣や無病息災などの願いが込められ、煙を浴びたり、残り火で焼いた餅や団子を食べると健康でいられるといいます。

東京でも神社や山よりの地域でやっているようですが、私たちの住む地域では馴染みのないものでした。下田に来てから初めて経験し、それからは毎年出向いています。

正月月飾りひとつとっても、下田に住み始めてからは少し変化があります。昔ながらの暮らしが未だ残っている下田、そうした環境がいままで気づかなかったことを教えてくれます。

浜辺でどんど焼き

外浦地区でのどんど焼きは、未明から始まります、朝焼けの海を背にした炎はとても幻想的です。

どんど焼きに参加したたくさんの人

竹も焼く

以下、柿崎地区でのどんど焼き。毎年友人たちと一緒に参加するこの行事は、娘が大人になってからもきっとよい思い出になります。

竹の先に餅を刺して焼く

友人家族とともに餅を焼く。熱い、煙い! けれど、なんだかとても楽しい。

焼き上がった餅

餅をほおばる夫と娘

文 津留崎徹花

text & photograph

Tetsuka Tsurusaki

津留崎徹花

つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。自身のコロカルでの連載『美味しいアルバム』では執筆も担当。