使われてこそ磨かれる、スタンダード

新潟市の中心部から南へ車を走らせること、十数分。にぎやかなまちの気配が途切れ、すかんと空が広がるエリアに〈F/style(エフスタイル)〉のショールームはありました。

エフスタイルショールーム外観

倉庫を改装した建物に入ると、天井の高い凛とした空間に衣類と生活の道具たちが並んでいます。山形を発祥とする「月山緞通(がっさんだんつう)」のマット、新潟市亀田に伝わる亀田縞のシャツやエプロン、ジーンズの産地、岡山でつくられるジーンズ、新潟県燕市産の行平鍋……。

いずれも、ロゴも装飾もない、シンプルなものばかり。それでいて、肌触りがよく手に馴染むものであったり、ユニークな形であったり。どれも「使ってみたい」と思わせる魅力にあふれていました。

銅の鍋や再生ビンの計量カップなど、調理器具も取り揃える。上段のわっぱ鍋の鍋は〈イソダ器物〉によるもの。

銅の鍋や再生ビンの計量カップなど、調理器具も取り揃える。上段のわっぱ鍋の鍋は〈イソダ器物〉によるもの。

新潟県燕市のイソダ器物の行平鍋。1枚の銅板をへら絞りという昔ながらの技法で成形している。持ち手は新潟の間伐材を使用した、阿賀野市の〈工房るるの小屋〉制作のもの。このほかに銅の片口や燭台、皿なども揃う。

新潟県燕市のイソダ器物の行平鍋。1枚の銅板をへら絞りという昔ながらの技法で成形している。持ち手は新潟の間伐材を使用した、阿賀野市の〈工房るるの小屋〉制作のもの。このほかに銅の片口や燭台、皿なども揃う。

店に立つのは、エフスタイルを主宰する五十嵐恵美さんと星野若菜さん。彼女たちの仕事は「製造以外で商品が流通するまでに必要なことはすべて」。デザインを核に、商品化から流通、接客までを担っています。

最初に拠点を構えた市街地からいまの場所に移ってきたのは2012年のこと。友人の建築家、〈暮らしと建築社〉の須永次郎さん、理葉さん夫妻に設計を依頼し、広大な空間に“箱を置くように”仕事場を設けて売場とスペースを分け、開放感のあるショールームに仕上げてもらいました。

天井までさえぎる壁もドアもない、開放感あふれる空間。向かって左が仕事場、上は「コンテナ」と名づけられたフリースペース。梯子のような階段で上り、高い所を歩くのも楽しい。

天井までさえぎる壁もドアもない、開放感あふれる空間。向かって左が仕事場、上は「コンテナ」と名づけられたフリースペース。梯子のような階段で上り、高い所を歩くのも楽しい。

学生時代から一緒にものづくりをしている星野若菜さん(左)と五十嵐恵美さん(右)。

学生時代から一緒にものづくりをしている星野若菜さん(左)と五十嵐恵美さん(右)。

階段を上り2階へ上がると、エフスタイルの原点ともいえる〈ハウスドギーマット〉が並んでいました。ベースは麻のループ織り、犬の部分はウールのカット織り。温かみのある素材で織り込まれた犬のシルエットが印象的です。

山形県の〈穂積繊維工業〉の職人がハンドフックを用いて織り上げた〈ハウスドギーマット〉。

山形県の〈穂積繊維工業〉の職人がハンドフックを用いて織り上げた〈ハウスドギーマット〉。

このマットの原型が生まれたのは、大学生の頃。新潟市に生まれ育ったふたりは、山形県にある東北芸術工科大学へ進み、プロダクトデザインを専攻。学内で開催されたワークショップに参加したときにマットのアイデアを思いついたといいます。

「そのワークショップは工場が自社で企画・生産する能力を養うことを目的としたもので、地元の企業を招いて開催されました。私たちは月山緞通の高い技術を持つ〈穂積繊維工業〉とものづくりをすることになり、社長さんに“麻とウールをミックスした、これからの暮らしに使えるマットをつくりたい”と言われたんです。

そこで私たちが提案したのが、犬が体を休めるための室内犬用のマットでした。そのアイデアが形になっていくときに、尊敬の気持ちがプロダクトに変わっていったという感覚があったんですね。いまも私たちの根底にあるスタンスは、その頃と変わっていません」(星野さん)

大学を卒業して新潟市へ戻り、「さて、何をしようか」と思ったふたり。ふと可能性を感じていたあのマットのことを思い出し、それを世に届けたいと想起。穂積繊維工業へ相談を持ちかけるとすぐに商品化が決まり、2001年に「身近な産地に仕事が生まれるようなデザインと流通のかたちを」という思いのもと、活動をスタートさせました。

月山緞通のハウスドギーマット

いざマットが発売されると玄関にマットを置く人が多く、当初犬のためにデザインされたマットは、帰宅時に犬が迎えてくれるイメージに。吸湿性、通気性にすぐれた素材も玄関にフィットし、エフスタイルのヒット商品になりました。

その後、シナ織りや亀田縞などのつくり手と出会って少しずつアイテムを増やし、これまでに約200種のアイテムを手がけています。

産地の技術を見せるものづくり

そんな彼女たちが手がけるのは、培われてきた技術を読み解き、翻訳し、いまの時代に合うかたちに落とし込んだもの。生活を楽しくしてくれるもの。

たとえば繊維の産地、新潟県の栃尾地域にある〈港屋〉〈本寅工業〉〈白倉ニット〉との協働で、高級コットン「スーピマ超長綿」をできる限り自然に近い状態に戻し、綿花そのもののやわらかさを生かした綿糸を開発。絹のような光沢と触感の糸が織り成す、やわらかな風合いのブランケットと湯たんぽカバーをつくりました。

栃尾は撚糸から染色、織り、編み、仕上げ加工まで、すべてが揃うテキスタイルの産地。

栃尾は撚糸から染色、織り、編み、仕上げ加工まで、すべてが揃うテキスタイルの産地。

さらにその後、「栃尾の繊維産地の技術は天然繊維だけじゃないぞ、と思って」水や汚れを弾くポリエステルの布「ステインプルーフ」を開発し、スリッパやバケットなどをつくりました。星野さんは「産地の技術を見せたかったので、3年かけて新しい素材をつくりました」と語ります。

上段にスーピマ綿、下段にステインプルーフのプロダクトが並ぶ、産地を見せるディスプレイ。

上段にスーピマ綿、下段にステインプルーフのプロダクトが並ぶ、産地を見せるディスプレイ。

ステインプルーフの生地を用い、山形県にある〈豊田工業〉が縫製を手がけた〈ステインプルーフスリッパ〉。軽くて履き心地が良く、丈夫で長もちするうえに撥水性があるとあって、リピーターも多い。

ステインプルーフの生地を用い、山形県にある〈豊田工業〉が縫製を手がけた〈ステインプルーフスリッパ〉。軽くて履き心地が良く、丈夫で長もちするうえに撥水性があるとあって、リピーターも多い。

また、既存のファッションや流通に違和感を抱いたふたりは、違和感を払拭するためにさまざまな“実験”も行ってきました。そのひとつが、定番をつくり続けること。

「ファッション業界では、春夏にオーダーを受けて秋冬に販売し、売れ残りをセールで売るという仕組みになっていますが、私たちは毎年定番の型をつくっています。そのほうが商品を安売りする必要もないですし、素材のロスもありません。お店の方も、流行り廃りがなく定番として置いておける商品はありがたいと言ってくださっています」(星野さん)

新潟県村上市の山北(さんぽく)地域に伝わる「シナ布(ふ)」のシリーズ。シナ布は、シナの木の皮の繊維をよって糸をつくり、その糸から織られる古代織物のひとつ。現在は山北の雷(いかづち)集落のほか、2、3の山里で細々とつくり継がれている。エフスタイルは産地の活動を伝える立場として関わりながら、バッグや小物などを制作。

新潟県村上市の山北(さんぽく)地域に伝わる「シナ布(ふ)」のシリーズ。シナ布は、シナの木の皮の繊維をよって糸をつくり、その糸から織られる古代織物のひとつ。現在は山北の雷(いかづち)集落のほか、2、3の山里で細々とつくり継がれている。エフスタイルは産地の活動を伝える立場として関わりながら、バッグや小物などを制作。

シナ布の素材

「使う人にとっては“その人のもの”になっていくまでに、時間がかかると思うんです。使い込んで、そのもののことを理解して、その方がようやく好きになりかけたときに、買えないということがないようにしたい。私たちの商品を暮らしの仲間に入れてくださった方がいつでも買い足せるもの、長く使っても耐え得るものをつくりたいと思っています」(五十嵐さん)

シナの縄の花かご。

シナの縄の花かご。

エフスタイルのまなざし

大きなガラス戸から光が射し込む空間には整然と商品が並び、見ているだけでも清々しい気持ちになってきます。こだわったのは“もののまとう空気”も配せる空間。

「本来ものって、そのもののまとう空気があると思うんです。ここでは“これぐらいの空気層がほしいな”という間隔を十分にとって商品を見せています。また、使い古された土鍋がまとうような、“使われてこそまとう空気”も大切にしているので、新品も使い込んだ商品もフラットに見せられるようにしました」(星野さん)

エフスタイルショールームの空間

「私たちがこの仕事を続けていてよかったなと思うのは、お客様それぞれの暮らしのなかで使い込まれた、エフスタイルの商品に出会い直したときです。

人によっていろんな使い方があったり、経年変化の仕方があったり。ものづくりをするときは、つくり手の方にそういった変化の可能性まで伝え、ありとあらゆる可能性を想定しながらデザインしていきます。つくり手ともお客さんとも、一緒に変化を楽しんでいけたらいいな、と思うんですよね」(五十嵐さん)

〈亀田縞の風呂敷〉を持つ五十嵐恵美さん。

〈亀田縞の風呂敷〉を持つ五十嵐恵美さん。

亀田縞の風呂敷

ゆえに、お客さんと話す機会も、大切な時間。話を聞いて既存の商品にチューニングを加えることもあれば、新しいアイデアが生まれることも。エフスタイルのものづくりは、つくる人からデザインする人、使う人へとバトンを渡すように続いていく循環のなかにあるようです。そのデザインのはじまりにあるのは、産地の技術と、つくり手の思い。

「自分たちのデザインを製品化するために工場を開拓したことはありません。つくり手と出会って、最初のイメージはまっさらで、その方が本来何をしたいのかということを汲みとりながらデザインしていく。そこに人の仕事が、暮らしがあって、私たちが関わることでいいものが生まれたら、という気持ちでやっています。

いまは、もっともっと原点に立ち還りたいという気持ちがありますね。お互いに全身全霊で持っているものを出し合って、切磋琢磨していけるような人と純粋にものをつくりたいと思っています」(星野さん)

〈亀田縞のエプロン〉をつける星野若菜さん。腰元のマジックテープで固定するため、首の紐にかかる重さが少なく、軽い着心地。織りは亀田にある機屋〈立川織物〉によるもの。

〈亀田縞のエプロン〉をつける星野若菜さん。腰元のマジックテープで固定するため、首の紐にかかる重さが少なく、軽い着心地。織りは亀田にある機屋〈立川織物〉によるもの。

「厳しい時代になってきていると思うんですね。そういうときにこそ、本当に必要性があって、心が踊るもの、長く使って楽しいものをつくっていかないと、つくる意味がなくなってしまう。私たちも常に気持ちをクリアにして取り組んでいきたいなと思っています」(五十嵐さん)

新潟市亀田の農民たちが水と泥に強い織物をつくっていたことから始まった綿織物、亀田縞の〈ベーシックシャツ〉。縫製は新潟県糸魚川市にある〈美装いがらし〉によるもの。

新潟市亀田の農民たちが水と泥に強い織物をつくっていたことから始まった綿織物、亀田縞の〈ベーシックシャツ〉。縫製は新潟県糸魚川市にある〈美装いがらし〉によるもの。

ものづくりについて、真摯に語ってくれた五十嵐さんと星野さん。その言葉の奥に、生活への深い関心と愛情が垣間見えました。

それにしても、ふたりが時折口にする“楽しさ”ってどんなことなのでしょうか? ふと知りたくなり、道具を使う“楽しさ”について聞いてみました。

「ものが持っている可能性を広げられたときですね。ひとつのものを、こんなことにもあんなことにも使えた! と発見していくことが楽しいです。

そもそも日本の暮らしって、人がものに寄り添い、その人自身が技能を上げていったように思うのです。与えられるだけではなく、自分から向かっていく、トライする暮らし、といいますか。ものの佇まいから使う側が工夫して、ものと人がちょうどよく混ざっていく。そんな時間を楽しんでいます」(五十嵐さん、星野さん)

東京都八王子市の〈佐藤ニット〉と改良を重ねてつくり上げた「ホールガーメント」のニット。ホールガーメント(無縫製ニット)は、袖部と胴が一体に編み上げられるため、縫い目がないのが特徴。スムーズな着心地とラインの美しさが魅力。

東京都八王子市の〈佐藤ニット〉と改良を重ねてつくり上げた「ホールガーメント」のニット。ホールガーメント(無縫製ニット)は、袖部と胴が一体に編み上げられるため、縫い目がないのが特徴。スムーズな着心地とラインの美しさが魅力。

ショールームは、エフスタイルのまなざしが表れている空間。ぜひその場で、ものづくりの息吹とものたちの佇まいに触れてみてください。

information

F/style エフスタイル

住所:新潟市中央区愛宕1-7-6

TEL:025-288-6778

営業時間:毎週月・土曜のみ11:00〜18:00(臨時休業・営業あり)

Web:http://www.fstyle-web.net/

writer profile

Yu Miyakoshi

宮越裕生

みやこし・ゆう●神奈川県出身。大学で絵を学んだ後、ギャラリーや事務の仕事をへて2011年よりライターに。アートや旅、食などについて書いています。音楽好きだけど音痴。リリカルに生きるべく精進するまいにちです。

credit

撮影:ただ(ゆかい)